「ほぼ日」なりのリナックス研究。
リーナス・トーバルズの
インタビューもできそう。

第9回 テレビは受け身の時だけ楽しい?


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ハッカーたちは、個々人独自の活動を重視している。
ハッカーたちは消極的な受け手としてとどまらずに、
自分の情熱がどこにあるのかを気づこうとしている。
・・・この点は、多くの人が
従来のメディア(とくにテレビ)を見ている態度と、
まったく異なるところになるだろう。
フランスの社会的学者
ジャン・ボードリヤールは、テレビ番組で
録音された笑い声が使われるようになった時、
「受け手としての視聴者という概念は
 その象徴的な極みに達した」と指摘している。
つまり、テレビ自体が演じ手であると同時に
観客でもあるというところまで行ってしまい、
「視聴者はただぼうぜんと見ているしかなくなった」
のである。
(中略)
旧来の倫理のもとでは、人は
仕事ですべてのエネルギーを使いはたす。
自分の情熱を追及して楽しむどころではないからこそ、
テレビに適した無気力な受け身の状態に
簡単に落ち込んでしまうのだ。
(中略)
仕事中に、自主性のない
受け手として扱われているうちは、
余暇もまた受動的な楽しみになるという傾向は
強まるばかり
で、積極的な情熱が
生活に入り込む余地が、なくなってゆく。
アンドルーによれば、積極的な仕事のモデルが
実現しないかぎり、積極的な余暇も実現しないようだ。
仕事において自主性を発揮してはじめて、
余暇時間に積極的な創造者になれるのだ。

 (ペッカ・ヒマネン著『リナックスの革命』より)

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(※今日は、上記の文章を読んだうえでの
  ひとつの質問と回答だけをお届けします。
  テレビとか、受け身の娯楽って、何だろう?
  というような話になってまいります)


----ヒマネンさんは、
  テレビをはじめとしたメディアについて
  「受け身の体制にある時にのみ、心地よい」
  と書かれていらっしゃいますよね。
  ただ、ヒマネンさんは、フィンランドで
  哲学の番組を持っていらっしゃいますし、
  ネットでの大学設立みたいなことにも
  関わられていますよね?
  哲学学習のCDロムも出されている・・・。
  そういうところで、もしかしたら
  受け身ではないメディアを
  考えていらっしゃるとしたら、
  お話してくださりますでしょうか。

ヒマネン
「それも重要なところですよね。

 いまのライフスタイルというのは、
 プロテスタンティズムと言いますか、
 産業主義にのっとった労働倫理を中心に
 動いています。
 この倫理は労働にのみ
 影響を与えているものではないから、
 そこが複雑なんです。
 
 つまり以前の労働倫理は、とにかく
 「時は金なり」と、スピードの文化なんです。
 スケジュールなども最適化しなければいけない、
 ネットワーク化、自動化、プロセスの最適化、
 そういったものが盛んに行われています。
 余暇の時間までをも侵食する考えかたが、
 あるんですよね。
 
 そしていま、質問をしてくださった内容を
 受けて考えてみますと・・・。
 
 奇妙な循環と矛盾が、
 テレビを見ている状態には、あると思うんです。
 
 職場での仕事を中心にした生活があって、
 何せ、すべてのなかで最優先に
 「楽しみ」としてではない
 「義務としての仕事」をおいていて、
 義務にぜんぶの力を
 注ぎこんでしまっていますよね。
 そうすると、家族と過ごす時間、
 あるいは友人と過ごす時間、そのほか
 情熱を本来そそぐべきようなところへの
 エネルギーが、少なくなってしまうんですよ。
 
 つまり、義務仕事を中心にして
 疲れきるからこそ、テレビがおもしろいんです。
 義務仕事にいっぱいいっぱいの暮らしだからこそ
 テレビを必要としているのであって、
 もしかしたら、義務中心の生活じゃなければ、
 テレビは、必要のないものかもしれないです。
 
 疲れて家に帰ってきては
 テレビを見るという不思議な循環は、
 もしかして、人が余暇に情熱を注ぐようになれば、
 なくなっていくものかもしれません
よね。
 
 余暇を受け身で過ごすのではなくなれば、
 ほんとうにおもしろいものに
 興味の対象を持っていくかもしれない
じゃないですか。
 そうすると、われわれをいちばん深いところで
 満足させるようなおもしろい娯楽が、
 出てくると思うんです。
 その時には、テレビなんかみないで、
 ほかのことをやっているかもしれません。

 これからは、ライフスタイルを、もっと
 ホーリスティックな(全体論的な)立場から
 より、自分の時間を豊かに過ごすようになるのかな?

 そんなふうに、思っていますけど。
 それが、いま質問を聞いて、考えたことです」


(つづく) 

2001-07-26-THU

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