「ほぼ日」なりのリナックス研究。
リーナス・トーバルズの
インタビューもできそう。

 第2回 人に仕事を任せる。

(※「リナックスとは、どういうものか」
   というシリーズの、第2回です。
  
  コンピュータ系ジャーナリストの
  風穴江さんと、お話をしているところです。

  リナックスの組織を考えることによって、
  「仕事のやりかたや、
   チームの組み方のヒントを得たいなぁ」
  と思って作られた企画に、なっています)


↑風穴さん。ダンディじゃ。

木村 この本の中で、
リーナスさんの人柄が
よく出ているというのは、どこですか。
風穴 リーナスは、
この本の前半に書かれているように、
おたくと言えばおたくだし、
ハッカーと言えばハッカーだし、
あまり人づきあいが
うまくないと言えばうまくない。
木村 (笑)
風穴 でも、彼は自分の考えをしっかり持っていて、
後半では、それがきちんと書かれています。
だから、全体としてよくできている本なんです。

わたしも分析できるほどに
英語に詳しくはないのですが、
リーナスって、けっこう、
英語がおもしろかったりするんですよ。
あの、スラングっぽいというか、
ちょっと、言葉がきたなかったりして。

「やさおとこ」風の顔をしておきながら、
言葉がきたないっていうのも、ねぇ?

別にそれがいけない、というんじゃなくて、
まあ、割と、ハッカー系の人たちは、
気の利いた言いまわしをするというか、
ジョークに長けているといいますか、
そういうことが、あるからなのでしょうが。

彼は、世界から
注目されるようになってからも、
そういう言葉遣いが、変わっていないんです。
昔から、そのまま、なのでしょう。
木村 なるほど。
風穴 それが、偉いと思います。
一挙手一投足に注目されるようになると
人って、ちょっとは欲が出て、
自分を飾ってみたり変えてみたり、
そういったことを、するじゃないですか。

でも、彼の偉いところがあるとすれば、
「自分は、ハッキングやプログラムが好きで、
 それだけのものなんだ」
と自分でわかっているところでしょうね。

リナックスというシステムそのものも、
彼だけの手でできたものでは、
ないじゃないですか。
彼は、「職人気質」っぽい部分を
持ってはいるのですが、
「わきまえている」とも、言えます。


職人と言っても、それぞれあって、
1から10まで隅から隅まで
自分の目が届かなくちゃだめだ、
という人もいるとは思いますが、
リーナスは、そういうタイプではない。

「ぼくは、いまのところ、
 ここまでしかできない」
と言いながら、彼は、
途中まで自分の作ったソースを、
ぜんぶ公開していきました。


そうしたら、
「じゃあ、ここはぼくが作る」
「それなら、ぼくはこの部分を・・・」
というような人たちが、
どんどんどんどん集まってきた。
それが、リナックスの動きですよね。

もしも、彼が最初からぜんぶを
自分でやろうとしていたのなら、
ここまで大きな流れになったかどうかは
わからないし、彼だけでは、
いまのリナックスのシステムに
辿りついたか、わからないんです。
木村 そうですよね。

この本を読んでいて
最もおもしろい個所のひとつは、
リーナスさんが、
「仕事は、人に任せるものだ」
と断言するところだと、思います。

____________________

ぼくはかなり早い時期に、
人を導く最高・最善の方法は、
人に仕事を任せることだ
と学んだ。
ぼくが彼らに仕事をさせたいんじゃなく、
彼ら自身がその仕事をしたがっているのだから。

さらにまた、優れたリーダーというものは、
自分が間違っている時はそれにちゃんと気づき、
自分の意見を引っ込めることができる
ものだ。
優れたリーダーは、みんなに、
自分で決定を下せる権限を与える
ものだ。

言い換えよう。
リナックスの成功は、
ぼく自身の欠点のおかげ
なのだ。

(1)ぼくは怠け者である
(2)他人の仕事で誉められるのが好きである。

ぼくに欠点がなかったら、
リナックス開発モデルは、
いまあるようなメーリングリストや、
開発者会議、常にどこかで行われている
4000ものプロジェクトへの
企業からの後援・・・などからなる、
何十万という人々が作る
複雑な組織には成長せず、
ほんの5、6人のオタクの間で
毎日取り交わされるメールの域を
出ていなかった
だろう。

その複雑な組織のてっぺんにあって、
論争の仲裁をしているのが、誰あろう、
昔からずっと、人をリードしないという
天性に恵まれたリーダー
なんだ。

このやり方は最高のものを引き出した。

(中略)

誰がてきぱきと仕事をこなし、
誰が信頼できるか、みんなわかっている。
ただ自然にそうなったのである。


(中略)

リナックスや
他のオープンソース・プロジェクトに
参加しているハッカーは、
睡眠も、子どものリトルリーグの試合も、
たまにはセックスも後まわしにしている。
プログラミングを愛しているからだ。

彼らはまた、望みさえすれば、
最も美しく最高のテクノロジーを作り上げる
全地球規模の共同作業の
一翼を担っていることも愛している

(リナックスは世界一の規模を誇る共同作業だ)。
それだけのことだ。
そして、それが楽しいのだ。


  『それがぼくには楽しかったから』より
____________________


ここには、ぼくは、打たれました。
風穴 彼がそのことを前もって見据えていたり
意図をしてそうしたわけではないことも、
この本には、正直に書いてありますし。

ただ、自分ができないから、
 人に任せただけ
なんだ」って(笑)。

そういうのを、さらっと隠さずに
言えてしまうところが、また、
偉いと言えば偉いなあという気がします。

とにかく、そういう
リーナスの「普通さ」が出ていて、
すごく、いいんですよ。この本は。


(つづきます)

2001-05-29-TUE

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