KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【40週】

◇40週、出産予定日

……気配なし。
なんでも、予定日に生まれるのは5%くらいらしい。
いったい、ニーニャはいつ生まれてきたいのだろう。
その日が待ち遠しいような、
この一体型の日々が終わるのがさみしいような。

ところで。
妊婦は予定日を過ぎて「まだ?」と言われると
けっこう辛い思いをするものです。
……と本に書いてあってフーンと思っていたのだけど、
そうなってみると、ほんとだった。
なのでお近くに妊婦がいる方は、
よかったらちょっと気遣ってあげてくださいね。
なんせウン○と違って(あるいは同じく)、
自分の意志や努力で出せるものではないのだもの。

どうやら人間、生まれる日と死ぬ日は、
自分で決められないようになっている、らしい。
ってことは、人間ってのが
生きるというより生かされるものだからなのだろう。
などと、大きなお腹で考えたりする。


◇40週+3日

朝。トイレにて鮮血に気づく。
お、おしるし、ってやつ?
トイレから勢いよく飛び出し、
日本から手伝いに来てくれた母たち(義母+実母)に
「おしるし、出たー!」と元気いっぱい報告。
が、もし痔だったらどうしようと俄然不安になり
慌ててトイレに駆け戻り再確認。
やはりどうやらおしるしのようでした。

深夜。陣痛、と言われればそうかも、
くらいの痛みを感じはじめる。
そのうち(そういえば早朝、破水したのでは?)
という気がしてたまらなくなり、病院へ。
破水の場合は、感染防止の処置が必要になるので。
しかし診察の結果は、「ぜんぜん違う」。
……じゃあ、尿もれとかだったの??
ともかく、両手いっぱいの入院セットをまとめて
すごすごと帰宅。


◇40週+4日

出血は続き、しかも量が増えつつある。
加えて陣痛っぽい痛みが、不定期に起こる。
しかし昨日のことを考えると、
これはまだ陣痛ではないのだろう。ちぇー。
思い切って母たちとおみやげショッピングに出かけ、
大好きな中国料理店でたらふくお昼を食べる。

夜。腰のあたりからズドンと重く、でも鋭い痛みが。
どうにもウン○が出そうな気がしてたまらず
ひっきりなしにトイレに行ってみるものの、
このウン○上手の私ともあろうものが、連続空振り。
……ってことは、これ、ついに陣痛では?
痛みがほぼ10分間隔+約30秒持続になったところで
再び入院セットを両手に病院へ。
しかし診察結果は、同じく「ぜんぜん」。
明日クリニックで検診を受けるよう指示を受け、
子宮頚管を軟らかくする薬を処方されて、帰される。
2夜続けてのフェイントに、かなりガックリ。


◇40週5日

昨夜から続く約10分間隔の陣痛(ではないらしいが)に
すっかり寝不足。
腰をカイロで温め、担当医モニカの診察時間を待つ。
それにしても、けっこうな痛さだ。
これが陣痛でないのなら、
陣痛の痛みとは、いったいどんななのだろう?
もう、かなり「陣」触れっぽいのになあ。うーむ。

午後いちばんの診察へ、昼休み中のツレアイと。
ただ、2度あることはなんとやらということで、
入院セットのうち一部は家に置いていくことに。
どうせ今日も「ぜんぜん」なんだろうしさー。
が、内診をしたモニカ先生、
「ひゃー、子宮口5cm開いてるわよ。即入院ね。
午後8時以降なら私も行けるから、頑張って!」
わっ!
あっ、せっかく買ったビデオ、家に置いてきた!
でもしゃあない、とにもかくにも病院だーっ!

腹を抱えて車に乗り込むも、あいにくの渋滞。
そのうち痛みの波が約3分間隔まで短くなる。
車の振動に思わず呻き声が出る痛みを、
背中をさすってもらいながら、必死で耐える。
4時半、病院に到着。
モニカの整えた書類に目を通した看護婦が
「5cmですって?彼女、痛くないのかしら」
と同僚に話すのが聞こえた瞬間、
思わずその場にへたりこむ。
やっぱりこれ、陣痛だったんじゃーん!
どうにも痛いと思ったんだよーう。わーん!!

案内された病室で、着替えを渡される。
甚平のような作りのそれを着てベッドに横たわる。
と、入ってきた看護婦が「それ、前後ろ逆だわ」。
あっ……。
「つい、日本的なキモノの着付けをしちゃったよ」
痛みのなか、笑いをとろうとする私。
しんどいときこそニヤリと笑ってみろ、とは、
池波正太郎の剣豪小説の教えなり。

そこからテキパキと処置が進められる。
まず助産婦が、「破水させるからね」と言うや、
大きいタンブラーのような器具を取り出した。
生温かい液体がドバッとあふれ出る。
あぁこれが破水ってやつなのね。すごい量。
あとでツレアイに聞くと、鮮やかな血の色だったとか。
しかしふだんは血が苦手なツレアイ、
「ご主人はソファに座ってなさい、
 気分悪くなるひともいるから」
とスタッフに止められるも、傍で手を握ってくれた。
(それどころか、助産婦に命じられて
 ベッド用の防水マットの替えを取りにいかされ、
 さらには交換までさせられていた)

同時に、胎児心拍数とお腹の張りを表す
地震計のようなものが設置される。
胎児心拍数はこれまでの検診時と同様に
時折、松坂、藤川、クルーンと肩を並べる
マックス160台をマーク。
そしてお腹の張りを示す数値も
これまでの20前後から一転、
クルーンの速球に連動してのマックス80超え。
おお、やっぱりすごい陣痛だったんだ。
……って、痛ぇよー!

そこにやってきた、温厚そうな男性中年医師。
最初に私の名前を訊くや
「カニータ(カナちゃん)、
 私が君を担当する麻酔医の○○だよ。
 よしよし、痛いんだね、いままでよく我慢したね。
 もうだいじょうぶだよ、いまから麻酔をするからね。
 そしたらすぐ、そうだね10分以内、
 あと陣痛の波を2回も我慢したら、
 もうこんな痛みとはアディオスだ。
 まず、硬膜外麻酔のカテーテルを通すための
 麻酔注射をしよう。いいかい?
 さあいい子だから、
 横向いて、背中を丸めてごらん」
と、ひっきりなしに話しかける。

いよいよ無痛分娩、だ!
(でもいままでの陣痛で、もう充分に痛かったぞ!)



※内田樹研究室内
 「今夜も夜霧がエスパーニャ」もよろしく。




『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
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2007-01-10-WED

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