KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【5週間】


4月1日深夜、39度を超える発熱。
慌てて帰宅したツレアイに連れられ、
マドリード生活6年半にして2度目となる
救急病院行き。

総合科の若い女性医師が、血圧を測りながら訊ねる。

スペインの総合病院では基本的に
まず総合科で問診を受け、
それから各専門科にまわされる。
インフルエンザの場合も、
総合科→内科→注射担当医となり、
6年半前にはトータルで約5時間待たされた。
なお、公立病院は社会保険で完全無料。

「吐き気は?」
「便の状態は?」
「アレルギーや既往症は?」
「最後の月経は?」
フラフラの頭でなんとか答えたら、
「ホーリン!」
と目を剥かれた。
この言葉、英語の[fuck!]に相当する。

なんか、すごいタコ(taco=罵り言葉)使われたなぁ。

心もちスゴスゴと待合室に戻る。
テレビでは、レアル・マドリー対バルセロナ戦の生中継。
足を骨折したあんちゃんから瞼を腫らしたおっさんまで
ロナウドの動きに一喜し
ロナウジーニョの動きに一憂し、
その合間に、携帯電話で喋りまくる。
さらには勤務の合間を縫って医師が入れ替わり立ち替り
「どう、マドリー?」
とやってきては、画面を覗き込んでいく。
こりゃ、試合終わるまでダメだわ。

諦めて、ツレアイが日本食料品店から買ってきた
カルピコ(「カルピス」の輸出名)ウォーターを
ちびちび飲みつつ待つこと半時間。
「セニョーラ・カナ・ジュカーワァ?」
呼ばれて内科の診察室に入った瞬間、
中年の男性医師に肩を叩かれた。

「おめでとう!
妊娠してるよ」


慌ててツレアイを振り返ると、
ポ・カッーン
桃屋「ごはんですよ」のり平のような
顔をしている。
アラアラアラ。
という私もまたうわの空でひと通り説明を受け、
解熱剤(※1)を処方される。
病室を出るとき、
ツレアイが医者を振り返った。

「あの。
念のためもう一度お伺いしますが。
最初、なんておっしゃいました?」

怪訝な面持ちだった医者は破顔一笑、
最初のセリフを繰り返す。
「お・め・で・と・う!
 いまから産婦人科にまわりなさい」
そして
まだポカンとしているツレアイの肩を
愉快そうに軽くはたいた。

待合室に戻っても、
「ほんと?妊娠してるって言った?」
彼は何度も何度も私に訊く。
私は頷いて、医者からの
インフォメーション・ノート(※2)を見せた。
[妊娠テスト:陽性]
「そぉぉぉっ、かぁぁぁぁ」
プラスチックの固い椅子に、
ツレアイの身体が深く沈んだ。


続いて、産婦人科。
ここはさすがに私ひとり。
若い男性医師が、
「いま、妊娠5週間めだね」
と、教えてくれた。
「えっ、でも受精可能日から数えると……」
「いや、起算日は最後の月経の初日なんだよ」
私のバカ。んなことも知らなんだ。

続いてエコー検査。
画面を私にも見せながら
「ここが胎児になるところ。
心臓は、まだ早すぎて見えないね」
などなど、説明をしてくれる。
そのサイズ、1.39cmだって。ちっちゃ!

ほんとに、妊娠したんだー。
喜び勇んで診察台から飛び降りる。
と、医師が表情を引き締めて告げた。
「とにかくその熱、早く下げなさい。
できれば仕事は辞めること。
で、しばらくは自宅で安静。いいね?」
そして、
妊婦用の薬(※2)を処方された。


これが、スペインでの妊婦ライフことはじめ。
高熱出して行った救急病院でわかるとは、
なんともエイプリル・フールらしい展開。
(ただしスペインにはこの習慣はないのだけど)
でも本当なんだよ、と、
手元のエコー画像が告げている。

このままこのハラの子がちゃんと育ってくれれば、
スペインで出産するつもりだ。

外国での出産なんて、いまや珍しくないかもしれない。
でも「子を産む」というどこの国でもすることでの
違うところ・同じところを通して見れば
なにかおもしろい発見があるんじゃないかしら。
なんて思ったので、
ぼちぼち、経過を報告させてもらうつもりです。

ちなみに出産予定日は12月3日、
スペインで一般的な、無痛分娩でのゴールとなるか?
よろしければ、しばしおつきあいください。
またアドバイスなど、どしどしお教えくださいね。
スペインでの話とあわせて
紹介させていただきればと思っています。

それでは、アスタ・プロント(またすぐに)!

(※1:解熱剤)
パラセタモール(アセトアミノフェン)1g。
水に溶かして飲むタイプ。
効いたのだが、やはり恐れていたことが……。

(※2:インフォメーション・ノート)
各種検査結果や処置、処方薬などを記したもの。
これまで救急病院では必ずこれを出してくれた。
帰宅後、ゆっくり読み返せるのがうれしい。
次になにかあった場合、これを持参すれば
異なる医師への伝達もスムーズ。

(※3:妊婦用の薬)
ビタミンB1,B2,B3,B5,B6.B8,B9,B12,C,E
鉄、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、
リン、銅、マンガン、ヨウ素。
毎日1錠飲みなさい、とのことでした。


カナ

※内田樹研究室内
 「今夜も夜霧がエスパーニャ」もよろしく。





『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

もれなく絵はがきが届きますよ。

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2006-04-27-THU

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