KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【大久保選手のすごいところ】


大久保選手はすごい。
だいたい1月9日のデビュー戦で、
いきなり1アシスト、1ゴールという
実に素晴らしい結果を出したのが、
まず、ものすごく、すごい!

(なんのこっちゃ、というひとに説明すると、
大久保嘉人というサッカー選手がいて、
これまでセレッソ大阪に所属して
得点王争いを演じたり、
またU-23日本代表として
アテネオリンピックに出場したりと
大活躍をしていたのだけど、
2004年末、スペインのサッカークラブ
「RCDマジョルカ」に移籍したのでした)


大久保選手はすごい。
クリスマスから新年にかけて、
チームメイトが休暇をとっている間も、
ずっとひとりで練習を続けていたらしい。
それがあのデビュー戦の活躍に
つながったのだ、と、言われている。すごい。


大久保選手はすごい。
マジョルカに到着した翌日の
12月18日の記者会見で、
「ヴィスカ・エル・マジョルカ
(マジョルカ万歳!)」と、
なんとマジョルカ語で言ったのだという。

ちなみにマジョルカ語というのは方言で、
大きくくくると、
バルセロナを中心とする
カタルーニャ語圏に入る。

そしてカタルーニャ語とは
標準スペイン語とフランス語の
中間に位置するような言語で、
スペインに4つある公用語のひとつ。
カタルーニャ地方では、新聞もテレビも
学校教育も道路標識も
このカタルーニャ語のことが多い。

だから、もしたとえるなら
大久保選手はいきなり、
関西語圏の島だから、淡路島? の
方言で挨拶したようなものなのだ。
こいつは、本当にすごいことだ。


ここで淡路島にたとえたように、
マジョルカというのは、島の名前である。
バルセロナの東、フランスの南あたりの
地中海に浮かんでいて、
古くはショパンとジョルジュ・サンドの
逃避行先として、
そして新しくは欧州各国から
百万人単位の観光客が訪れる
「ヨーロッパのハワイ」として、
こちらでは広く知られている。

大久保選手が所属するRCDマジョルカは
ここに本拠を置くチームで、
当然のことながら
地元のマジョルキンにたいへんな人気がある。
現在は1部リーグの最下位あたりと低迷中だけど、
星の数ほどサッカークラブがあるこの国では
1部に所属しつづけているというこいとだけでも
すごいことだ。

そして、このRCDマジョルカ、数年前には、
スペイン国王杯決勝進出&リーガ3位という
堂々たる成績を残している。
そのときの監督が、今季から再び指揮をとる
「名将」エクトル・クーペルだ。
バレンシアやインテル・ミランの監督を経て
再び古巣のRCDマジョルカに戻ってきた。


で、話は戻って、
大久保選手はすごい。
現地のメディアでも、ベタ褒めだ。

そのサッカーに対する真摯さは、
「ラスト・サムライ」
と、たびたび称えられる。
いまスペインで「ラスト・サムライ」といえば
トム・クルーズではなくて、
ヨシト・オークボかもしれない。

「彼はすでに標準スペイン語の単語を20以上も
完璧に使いこなしているし、
さらに、日本語−標準スペイン語と
標準スペイン語−カタルーニャ語の
2冊の辞書で勉強を重ねている」、
というのも、新聞記者が感心した点のひとつ。

「ジャパン・マネーではなく
戦力的に本当に期待できる選手」という
評価も、耳にする。

すごい、すごい、すごい。


あともうひとつ、これは私だけが切実に思う
すごいところかもしれないのだけれど。

大久保選手はスペインへの移籍決定後に結婚して、
でも移籍が期限付きのものになるために
単身でこちらにやって来たのだという。

背負ってるものが違うとは思うけど、
状況は、私のツレアイに良く似ている。
うちも結婚後すぐ、ツレアイが単身で
スペインにわたったんだ、1年半。

その当時の苦労は、話でしか知らないけど、
聞いたとき、私はいっぱい泣いてしまった。
『調理場という戦場』の本を読んだとき
斉須さんのフランスでの体験が
やはり同じようなもので、また泣いた。

着いたその日から、仕事だ。
それは、「ふつう」の仕事かもしれないけど、
たぶん彼にとっては「戦場」だ。
言葉がなにもわからない、
なにをしていいかも、なにを言われているかも、
ぜんぜんわからない。
でも、誰も自分を待ってはくれない。
仕事をするために来た人間に対して、
誰も同情はしてくれない。
だから「仕事仲間」になるためには、
必死で喰らいついていかないといけない。

斉須さんとツレアイはともに、
胸のポケットを、毎日、毎日、
耳にした新しい単語を仕事の合間に書きつけた、
何枚もの小さなメモ用紙でパンパンに膨れ上がらせて、
叱られながら、吐きながら、仕事を続けた。

私はそこまでなにかを頑張ったことはない。
だから、心の底から、すごい、と思う。


大久保選手もきっと、
大変な思いをしているのだろう。
最初の練習がはじまったときは
やはり声すらかけられなくて
なかなかボールがまわってこなかったというし。
他にもいろいろあるかもしれない。
なんせ、言葉もわからなければ、
体調がすぐれないときに温かいうどんを
気軽に食べることすらできない、
ここは外国なのだから。

ひょっとしたら、ないかもしれない。
でもそれでもやっぱりすごい、
私は、プロ・スポーツ選手は、みんなすごい!
と思うので。

そしてサッカーという世界的な人気種目で、
さらに「銀河系軍団」レアル・マドリーですら
なかなか優勝できないスペイン・リーグで
プレーして、結果も出しているのだから、
大久保選手は、もう、
ほんとにほんとにものものすごい! と思う。



たまたま、マジョルキンと結婚して、
ずっとマジョルカに住んでいる友人がいる。
そのizumiさんが、
現地からレポートを書いてくれている。
http://www.kanasol.jp/izumi/index.html

それによると、大久保選手のデビュー戦、
こんなかんじだったらしい。


大久保選手のヘディング・シュートが決まり、
電光掲示板に『ゴール』の表示が出る。
「ゴールを決めたのは、ヨシト…」と
場内アナウンスが告げると、
その後を観客が引き継ぐ。
「オークボ!!」

思わず鳥肌がだーっとたった。
多くの拳が空に向かって突き出され、
多くの笑顔が私たち日本人に向けられた。


読んで、私もまた、鳥肌が立った。


なんちゅうか、もう、ほんと、
えっと、あれ、もう、あれくさ、
がっばいすごかって!! 大久保選手。

力いっぱい、応援しようと思ってます。
きっと日本で応援されている方も
たっくさんいるんでしょうね。

ベンガ、アニモー!(頑張れー!)


カナ




『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
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2005-02-03-THU

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