KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【日本人はスケベ?】


先日、取材で訪れた先で
日本文化が大好きだという担当者と
和気あいあいと話していたところ、
突然、ちょっと言いにくそうに
「次に日本へ行ったら芸者を呼びたいのだが、
 どうしたらいいんだ?」
と訊かれた。

おっと、またきたか。

私は古畑任三郎のように軽く額を押さえつつ、
冷静に答えた。
「芸者は、ホテルの部屋には来ません。
 なぜなら、彼女たちの仕事は
 性的な行為をすることではないのです」
そしたら、
「えーっ、ウソだろう?」
ものすごーく、驚かれてしまった。

あぁ、やっぱりそうだった、のね。
ガックリ、力が抜けた。
まぁよくあることではあるのだけどさ。


実はスペインでは
「ゲイシャ=キモノを着た娼婦」と
思っているひとが、なぜかとても多い。
その背景としては
大きくふたつの理由があるのではないか、と、
思っていることがある。


ひとつめは、
スペインと日本における
性産業のありかたの違い。

スペインでは、
性に関する商売は非常にシンプルだ。
いわゆる娼婦、というやつね。
それゆえ
「異性が個人的な対応をしてくれるけれど、
 最終的にセクシュアルな行為をしない」
という職業があることを
とても想像しにくいのではないだろうか、
ということ。

逆に、ごくたまーに
日本から来たビジネスメンから
「女性が酒をついでくれる場所へ行きたい」
という要望を聞くこともあるのだけど、
スペインにはそういう場所はない。
みんなとヌードを見たいならストリップへ、
個人的に例の行為をしたいのなら娼婦のところへ。
そのふたつしか、選択肢はないのだ(たぶん)。

ちなみに、
欧米で女性がお酌をしてくれるお店があるのは
日本人駐在員が多い町くらいだ、
という話を聞いたことがある。
スペインを見ていると、そうかもな、と思う。


キューピーマヨネーズと、
こちらの代表的なマヨネーズの味の違いなんかに
顕著に出ていると思うのだけど、
日本の製品は、ものすごーく
緻密に繊細に作られている。
(って、別にマヨネーズにたとえる必要はなかったか。
先日5年ぶりに日本のマヨネーズ食べたら
これだけでおかずになる!と感動したもので)

そんなかんじで(かどうか)、性産業も
日本ではとても緻密に繊細に展開している、
のだろうか。
「女性がお酌をしてくれるだけ」という
スペイン人には理解不能なものから、
イメクラとか性感とか
私にもよくわかんないややこしいのまで、
日本には実に多くの種類があるものね。

私は、常に商品力のあるものを開発し続ける
日本人の惜しみない努力は
本当に素晴らしいと思うし
とても誇りに思っているのだけど、
この「微妙にカテゴリの違う性産業が
緻密に繊細に展開する」という事実は、
どうも遠く離れたスペインでは、
「日本人はスケベ」という
ものすごく単純化されたイメージに
変わってしまっているようだ。
もとい、正確には、
「日本人の男はスケベ」
というイメージであります。

どうですか、日本人諸君?
そう思う?思わない??
ニュースによると、
実際のエッチの回数なんて
スペイン人の1/8くらいなのにね。



そして、芸者=娼婦説が
広く信じられる背景その2とは。
それは、
「日本人の女はどこまでも男に奉仕する」
というイメージにある。

このイメージがどれだけ浸透しているかは、
いまでも世界各地で、
差別意識に欠けた野郎ども(←私が思うに)が
嬉しそうに言う、
こんな言葉に表されている。

「理想の人生というのは、
 アメリカ人の給料で、
 イギリス人の執事を雇い、
 ドイツ人を使用人を持ち、
 中国人をコックとし、
 そして日本人を妻に、
 フランス人を愛人にすることだ」


おかげで、けっこうな数のスペイン人が、
日本人の女といふものは
男が風呂に入れば
しずしずと後について入ってきて
男の体を無言で洗ってくれるのだ、と、
いまだに信じていたりする。、
さすがに若年層には少ないけど、でも根強い。

実はここでの最大のポイントは
「風呂」とか「背中を流す」とかではなくて、
「無言で」という点にある。
つまり日本人の女は、自分が嫌なことでも、
文句ひとつ言わずにやってくれる、というのが
最大の魅力?らしいのだ。

だから、日本人の女である芸者ならば、
男がそう望むならば無言で帯を解いてくれ……
るわけ、なかたいな!バカたれ!!


おうおう考えてみろよおっさん、
日本人の女もスペイン人の女も、
そしておっさんも私も、
同じ人間だぜ!?
そんなに考えることが違うと思うかい?

というのを、
でも、(いわゆる)スペイン女性のようには
激昂して主張することがいまひとつできず
(たまには顔真っ赤にしてでも主張するけど)、
我ながら「気が弱いよなぁ」と思いつつも
とりあえず最初は笑顔を消しきれない顔で、
でもそれでも最低限のところはなんとか伝えんば、
明日の日本女性のためにも私のためにも、と、
湯川カナは今日も
四苦八苦しているのでありました。


しかーし、
最近、性のイメージで、
日本人はまたまた苦境に立たされてるんです。

(続く)


カナ




『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

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2004-12-07-TUE

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