KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

『ベッカム・ハズ・カム(1)』


 ご存知の通り、
 ベッカムがレアル・マドリーに来た。
 それから日本に行き、移籍初ゴールを決めた。
 そうして今月末、スペイン・リーグが開幕する。

 ちなみに
 パスポートを紛失して
 うっかり成田から出国できなかった金髪イケメンは、
 ベッカムと同じくらいに格好良いけど
 グティというスペイン人選手である。
 どうも見ていて一生懸命さが伝わってこず
 いつも一軍半みたいな場所にいたのだが
(数年前の阪神の今岡と同じ)、
 昨季のロナウド加入でプレーに磨きをかけ、
(最近の阪神の今岡と同じ)
 今季のベッカム加入で男前に磨きをかけた。
(今岡と……、同じでぃ!)


 さて、ベッカム。
 マドリーの宿敵F.C.バルセロナの新会長は
 ベッカム獲得を約して会長選に勝ったので
 こりゃマドリーには来ないだろうな、と
 思っていたら、なんと来てしまった。

 マドリー入りが噂されたとき、
 そして実際に決まったとき、
 スペインではどうだったか?

「ベッカム、要らないんじゃない?」
 これが、一般的な感想だった。


 実はただのミーハーなのではないかと言われる
 マドリーのペレス会長は、
 フィーゴ獲得を約して選挙に勝つと、
 無理だと思われていたのにどう交渉したのか
 公約どおり宿敵F.C.バルセロナから獲得。
(おかげでマドリー対F.C.バルセロナの試合で
 フィーゴは「裏切り者!」と言われ、
 豚の頭まで投げつけられることになった)

 翌年は、
 ワールドカップと欧州選手権を制した
 フランス代表の中心選手、ジダンを獲得。
(ちなみにジダンの奥さんはスペイン人で
 イタリア在住時にも
 しょっちゅうスペインに帰っていたらしい)

 その翌年には、
 ワールドカップを制したブラジル代表
 ロナウドを破格の安さと条件で獲得。
(マドリーのロベルト・カルロスは友だちだし、
 イタリアでは随分嫌な思いをしたらしく、
 スペイン最高だと言っていた)

 そして、今年、ベッカム獲得である。


 たしかに、良い選手なのだろう。
 しかし、前の3人と比べると、
 ちょとインパクトに欠ける。
 なんせフィーゴ、ジダン、ロナウドは、
 それぞれ欧州最優秀選手(バロン・ドール)に
 輝いているしね。

 しかも、つい何ヶ月か前に、
 マドリーは欧州チャンピオンズ・リーグ準々決勝で
 マンチェスター・ユナイテッドと対戦し、
 わりと危なげなく勝っている。
 もしマドリーが負けていたのならば、
 ベッカムへの評価ももっと高かったのだろうけど。

 ちょっとついてないな、と、思った。


 さらにスペインが日本と大きく違うのは、
「サッカーに興味ないひと」はいても、
「なんとなくサッカーが好きなひと」は
 あまりいないのではないかという点である。

 どういうことかというと、
 サッカーが好きならひいきのチームがあって、
 それにわりと身を入れて応援している、
 ような気がするのだ。
 クラブチームの試合は盛り上がっても、
 スペイン代表チームの試合は
 あまり注目されなかったりするし。

 当然だけど、他チームのファンにとっては、
 ベッカム移籍の話は
「マドリーめ、また金にものいわせやがって!」
 と、闘志をメラメラ燃やす対象にしかならない。
(巨人へのペタジーニ移籍決定を
 よろこんだ阪神ファンはいなかったように)

 宿敵F.C.バルセロナのファンに至っては
「フィーゴに続いて、ベッカムまで取っていったな!
 ディ・ステファノの恨み(※)は、忘れんぞ!」
 と、ややこじつけも入れつつ、
 メンラメンラと炎を上げることになる。


 となると、ベッカム移籍を喜ぶのは、
 マドリー・ファンか、
 あるいはサッカーに興味のないひとしかいない。

 しかし頼みのマドリー・ファンときたら、
 鳴り物入りの移籍をいきなり歓迎したりしないのだ。
 ジダンのときも
 ロナウドのときもそうだったけど、
「まぁじっくり実力を見せてもらうとするか」
 という、とてもさめた態度をとるのである。

 いきおいニュースでは、サッカーと関係ない
 高級不動産屋さんや高級自動車屋さん、
 高級デリバリーサービスや高級ショップなどが
「ベッカム、いらはーい!」
 と、勝手に大騒ぎをしている様子を
 中心に伝えることになってしまった。

 そんなん、見てておもしろいわけもない。

 よって、ベッカム移籍のニュースは、
 スペインではわりと冷静に、というか、
 むしろ冷ややかに受け止められることと
 なってしまったのであった。


 さらに、ベッカムにとって不運なことがあった。
 次号へ、つづく。


※ディ・ステファノの恨み
 アルゼンチンの名選手ディ・ステファノが
 F.C.バルセロナと契約を結んだにもかかわらず、
 時の権力者フランコが横槍を入れ、
 レアル・マドリーでプレーすることになったこと。
 ディ・ステファノの加入で、
 マドリーは21年ぶりのリーグ優勝や、
 欧州チャンピオンズリーグ5連覇という
 黄金期を迎えることになる。
 いまから50年前の話。

  カナ






『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



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2003-08-22-FRI

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