KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【テレビ事情2・番組のすごさ】


いま、有料放送に加入していない我が家では、
5つのチャンネルを見ることができる。

1:TVE1
2:La2
3:Antena3
4:TeleMadrid
5:Tele5
(6:Canal+)


4のTeleMadrid(マドリー・テレビ)はローカル局。
日本のローカル局と同じで、
地元の交通情報やサッカー情報が充実してて、
スタジオのセットがちょっと安っぽくて、
たまーに映像が動かないCMも入る。
ただいま、『クレヨンしんちゃん』も放映中。

ちなみにバルセロナではカタルーニャ語の地元局で、
バレンシアでは同じく地元バレンシア語の放送局で、
それぞれに吹き替えられた『しんちゃん』が
放映されているということだ。
日本でも方言別吹き替えアニメがあったら
おもしろそうだなぁ。
「こんばんはー、サザエでございます」
「おばんです、サザエでおます」
「こんばんはー、サザエばってんが」とかなんとか。


6のCanal+(プラス・チャンネル)は有料放送で、
見たいサッカーの試合はよくここでやっている。
この局では無料放送の時間帯の番組に
『着ぐるみ人形劇ニュース』があって、
私はこれが大好き。
全部は理解できないけど、それでもおもしろい。
首相もパパ(ローマ法王)もロナウドも、
特徴がデフォルメされた着ぐるみにされ、
それらがアイロニカルにニュースを演じるのだ。

たとえば昨日の放送分より。
スペインのアスナル首相が、ブッシュに電話する。
「やぁ、僕だよ、君の友だちアスナルだ。
今日はちょっと言いたいことがあるんだが、
(なにか話の腰を折られて)
……うん、うん……、
いやでもそうは言っても僕が思うにはだね、
(また全部言い終わらないうちに)
……うん、うん、うん……、
わかった、うん。
まったく君の言う通りだ。
じゃ、またね、僕の友だち!」

結局はアメリカの主張を呑んじゃう首相への皮肉。
新聞のひとコマ漫画と同じような視点なのかな。
この番組ではアスナル首相は、
「あの口ひげ」と呼ばれたりしている。
そういえばサッカークラブF.C.バルセロナの
元監督ファン・ハールなんて
顔が四角いレンガにされていた。……似てたなぁ。


残る1、2、3、5の合計4局が、全国放送だ。
1と2は国営放送なので、民放はふたつだけ。
なんと1988年まで、
テレビ局は国営放送だけだったらしい。
1975年までフランコ将軍の独裁下にあったのが
どれだけ関係あるかは、
まだちょっと、調べきれていない。

民放のうち
3チャンネルのAntena3(アンテナ3)は「右寄り」、
対して5チャンネルのTele5(5テレ)は「左寄り」、
と、一般的には言われている。
いままでふーんとしか思っていなかったが、
最近、反戦運動に関連するニュースを見ていて、
各局での取り上げ方がかなり違うのを
はじめて実感した。

たとえば先月、ゴヤ賞というスペイン最大の映画賞
(日本アカデミー賞みたいなものかな)があって、
これをTele5が放送した。
私はその番組自体は見ていなかったのだけど、
翌日から巷はこの授賞式の話題で持ちきりだった。
というのも、受賞者がそれぞれ、壇上で、
戦争反対への強いメッセージを述べたからだ。
最優秀男優賞のハビエル・バルデムも反戦を訴えた。
そしてその後すぐ、賞の主催者は辞任を求められた。

でも私は数日間、そのことを知らなかった。
毎朝見ていた国営放送のニュースでは、
このことをちっとも取り上げていなかったのだ。
話を聞いて、はじめて他局のニュースも見てみて、
こ、こんなに取り上げ方が違うのかぁぁぁ!
と、本当に驚いた。
なので、それからはニュースもあちこち見て、
しかも見ているときにこれはどの局だからと
ちゃんと気に留めておくようにしている。
当然といえば当然なんだけど、
ニュースも誰かの視点で語られているってこと、
すっかり忘れてたなー。


最後に、国営放送はふたつあって、
1のTVE(スペイン・テレビ)と2のLa2(ザ・2)。
La2はドキュメンタリーやスポーツ中継が多く、
NHK教育テレビと似た存在かな。

なお国営放送といっても、ふつうにCMが入る。
それどころか、いちばん資金力もあるTVEは、
いちばん商売っ気も強いかもしれない。
前回取り上げた『オペラシオン・トリウンフォ』でも
有名デパートと提携してのCD独占販売から
携帯の着メロ、果てはクレジット・カードまで、
ありとあらゆる商売にしていた。
ダンナさんとよく、「おーい国営放送ぅ」と、
テレビに向かって弱々しく突っこんでいる。

そんなかんじなので、国営放送といってもふつうに、
猥褻物を陳列するみたいなことをする。
週末の夜のその名も『お祭りの夜』という番組では、
ベテラン歌手から最近の歌手までが出てきて
その合間にクイズやコントやショウがあるのだが、
そのうちのファッションショウが、だいたい猥褻だ。
20人くらいのラテン系美女が、
まずテーマ(たとえばヘプバーン風とか)に添った
衣裳を着て踊りながら現れる。それは良い。
ところがそれがひとまわりして次に現れるときには、
なぜか、みんな下着だったりするのだ。
しかも、カメラの前で悩ましげにウィンクしながら
ガーターベルトを外したりする。
ダンナさんとよく、
「おほぉぉぉい、国営放送ぅぅぅ」と、目を細める。
まぁラテン系美女、嫌いじゃないからさぁ。
それに続けて今度は筋肉系ラテン系美男が20人くらい、
やっぱり、ブーメランパンツ一丁で出てくるしね。


それにしても、この夏はすごいのを見てしまった。
スペインのゴールデンタイムに放送された番組の
視聴者が電話で参加するクイズコーナーの1シーン。
正解したら電話越しに「1番!」などと告げると、
1番のネームカードをつけた美女(あるいは美男)が
笑顔でステージ中央に進む。
ふつうならそこで、手に持っていた封筒を開けて、
「おめでとうございます、商品は10万円でした!」
とかなんとかなるようなかんじ。
ところがその番組では、
指定された美女(あるいは美男)に向かって、
突如、一斉大放水がはじまるのだ。
そうして、
美女が着ている唯一の白いTシャツが水に濡れると
身体に直接書かれている商品名が見えるという寸法。
いかにも夏にぴったりなすがすがしい企画、
っていうか、さー。

私は思わず
「ひぇぇぇ国営放送!
エロス!エロス!!
これじゃ『ザ・ベスト』の表紙やん!」
と叫んでしまい、
ダンナさんに
「なんでお前がそんなん知ってんねん」
と、こづかれた。

やるなぁ、国営放送。
やりすぎ、か?

カナ






『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

もれなく絵はがきが届きますよ。

2003-03-19-WED

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