KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【ほうけいは恥ずかしいですか?】


 ほうけい。

(書き出しからこんなで、
 お義父さんお義母さんゴメンナサイ)

 そんな男子特有の悩みがある、らしい。
 わしゃ女子だから、ようわからんのやけど。

 小学生のとき、意味も知らずに男子に言ったら
 急に本気で怒り出されたのでびっくりした。
 そうかそんな必死になることなんだー。
 クラスの男子女子に分かれての
 いつものたあいもない口げんかのはずだったのに。
 その直前に「やーい、どうてい!」と叫んだときは
 西諫早小学校のハナタレ男子どもも
「あたりまえやっか!」
 と、元気に言い返してきたのになぁ。

 どうていはよくても、ほうけいはダメなんだ、
 そう知った8歳のとある昼下がり、だった。
 そらみんな童貞ですな。


 私がほうけいについて知っていることといえば、
 青年マンガ雑誌の裏表紙あたりにある
 ほうけい手術・秘密厳守・10万円、とかの広告だ。
 あの、憂い顔の男性モデルが
 タートルネックのセーターを
 顎のとこまで引っ張りあげてたり、
 術後にモテモテな写真が載ったりしてるやつね。

 さらにいま調べたところ、
 ほうけいには真性と仮性と
 その中間のカントンというのがあって、
 真性とカントンの場合には
 手術に保険の適用があるらしい。
 すると費用は、だいぶ安くなるようだ。

 でも、私はいままで、
 ほうけい手術はぜんぶ保険適用外だと思っていた。
 こうやってネットでさっと検索できなかったら
 これからもずっとそう思っていたかもしれない。

 だって、誰に訊いたらいいのさ?
 自分がほうけいの男の子だったら、と考えてみる。
 なんとなく両親には相談しづらさそうだし、
 友だちに打ち明けるのも勇気がいる。
 まして彼女に話すのなんて、とてもできなさそうだ。
 バイトして金貯めて、
 誰にも言わずに手術しようとするのじゃないかなぁ。
 ほうけいは恥ずかしい、と、
 なんとなくそんな気がするのよね。
 たぶん西諫早小学校2年4組のハナタレ男子も
 そう感じていたから、
 あれだけムキになったのだろう。


 そういうわけで日本では8歳のあの日以来
 男子に向かって口にすることはなく
 また広告以外ではあまり目にもすることがなかった
 あの単語を、
 このところ、スペインで立て続けに耳にした。

 ダンナさんの同僚のスペイン人男子が
 ほうけい手術のための有給を申請した、
 というところから、話ははじまった。
 その話を聞いて、私は驚いた。

「えー、それ自分で言ったの?」
「ほら、手術とかで有給取るには
 医者の診断書がいるやん。
 それ見たら、書いてあってん」
「うわー、よう公表したねぇ。
 それ、みんなに内緒にしたらなあかんよ」
「と、思うやろ?
 それがな、なんかちゃうねん。
 俺もびっくりしたけど、
 なんか本人はぜんぜんふつうやねん。
『僕、ほうけい手術するのでー』とか言って。
 そうそう、保険も効くらしいで」


 えーなにそれ!
 興奮さめやらぬ私は、友だちに電話した。
「ねぇ、スペインじゃほうけい手術って
 ふつうに保険効くんだってーっ!」
「あ、そうみたいね」

 在住歴の長い友人は、とっくに知っていた。
 友だちや知人でほうけい手術をしたひとは
 わりとふつうにいて、
 みんなそれを隠すわけではないのだという。
 べつにとくべつ恥ずかしいものではなく、
 放っておくと衛生的に良くないということで
 手術をするらしい。
 青年になって自分から手術を望む場合もあれば、
 2歳くらいで手術する場合もあるらしい。

 その後スペイン語のサイトを見たり
 他の友だちに聞いたりしてみてが、
 やっぱりほうけいは
 とくべつたいしたことじゃないようだ。
 たとえるなら、
「ちん○の盲腸」
 みたいな感覚なんだろう。


 ほうけいが恥ずかしくない国だってあるんだなぁ。
 世界は、思ったより、広いぜ。

カナ






『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



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2003-02-13-THU

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