KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

 
【日本代表10番、オリベル】


 オラ!

 6月2日の正午。
 快晴、気温は30度以上。
 1時間半後に始まるワールドカップ、
 スペイン代表の初戦を待ちながら、
 鼻歌交じりにお洗濯。
 寝起きのダンナさんは早くも、
 地上波Antena3にチャンネルを合わせた。

(基本的にワールドカップの放映権は
 有料放送のところが持っているんだけど、
 なんでもこの国では
 スペイン代表戦は必ず
 無料の地上波でも放映すべし、と
 わざわざ法律で決まっているらしい。
 もう、フットボール馬鹿)

 と、ダンナの叫び声。
「おい、来てみ。
 日本代表の試合やっとるで」

 えーっ、マジ?
 中田? 小野? うぉー、見てぇ!!
 洗剤ぶちまけながら走り寄ると、
 たしかに日本代表が試合中。
 相手は南米選抜。
 いかん、こいつは手強い。
 だが一歩も引かない日本代表、
 10番は我らがオリベル!


 日本代表の中心選手はオリベル、
 ゴールを守るキーパーはベンジ、
 そして心優しいMFは画家の息子で、
 ……たしかダニエルだったかな。
 ほら、あの、岬太郎くん。

 ということで、
 テレビで放送していたのは
 アニメ『キャプテン翼』。
 主人公の大空翼くんはオリベルで
 若林源三くんがベンジ。
 これらの名前と
 翼、とかの意味とはまったく関係なく、
 どうやらアメリカかどこかで
 スペイン語版を作ったひとの思いつき。
 だいたい、タイトルからして
『オリベルとベンジ』に変えられている。
 まぁそこはラテンびとのやることだから。


 この『オリベルとベンジ』、
 何度も繰り返し放送されたこともあって、
 スペインではとても幅広い世代に知られている。
 放送中に「南葛小」などと何度も表示されるせいか、
 日本製作だってことも認知されている。

 んだもんで、
 城選手が移籍してきたときの新聞の見出しも
「オリベルとベンジの息子たち」だった。

 
右中段"Los hijos de Oliver y Benji"


 先日、レアル・マドリー対日本代表の試合を
 観にいったときも、
 となりのチビッコ団体が
「♪オリベル、ベンジッ、タララララララ
  ベンジッ、オリベル、チャラララララ」
 と、
 これまた日本のオリジナル版となんの関連もない
 主題歌を、何度も合唱していた。
 あのオリベルの国から来たんだっていうのが
 うれしかったみたい。
 あと、はるばるやってきた私たち日本人に
「俺らも知ってるぜ、オリベル!」
 って伝えたいっていうのもあったのだろう。

 だがいかんせん
 オリベルとかベンジなんて
「それってブランキー・ジェット・シティ?」
 みたいな名前からも、
 ごく単純なメロディになってしまった主題歌からも、
 これが『キャプテン翼』のことだとは
 ふつうは想像しようがない。
 あぁラテン的サービス精神空回り。


 というわけで、ヨロシク。
 スペイン出身のひと、
 それに南米でも状況が同じだったとしたら
 ウルグアイ、パラグアイ、エクアドル、
 アルゼンチン出身のひと、
 それにポルトガル語圏でも同じだとしたら
 ポルトガルとブラジル出身のひと、

 ワールドカップ観戦のためにはるばる日本まで行った
 そんなひとが、ニカーッと笑って
「オリベル・イ・ベンジ!」
 と言ったなら
 それは『キャプテン翼』のことですので、
 バシーッとウィンクを送るなりなんなり
 なんか相手をしてあげてください。

 なんせお調子者で、
 そのぶん淋しがりやなラテンびとって
 どうも多いみたいなので。
 日のいづるホスト国のみなさん、
 どうぞよろしくお願いいたします。


 んで、52年振りに初戦で勝った、
 わりとあっけなく沈みがちな
 スペイン無敵艦隊チームにも
 よかったら応援を頼みますぜ。

カナ 


(ここまで)




『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

もれなく絵はがきが届きますよ。

2002-06-05-WED

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