KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

 
マドリー対バルセロナ、年に2度の大喧嘩!


オラ、アミーゴ!

輝く陽光を浴びるアーモンドの花にうっとりしたのも
ほんの半月ほどのこと、
今週はまるで冬が戻ってきたかのような冷たい雨続き。

まったくここの天候は極端きわまりない。
突然泣いたり、笑ったり、住んでるひとの気性と同じ。
気象と気性って関係あんのかね?


日本ではひな祭りの今日も朝から雨模様、
しかもオンボロ我が家には冷たいすきま風が入ってきて、
"ひとを愛して、ひとはこころ開きィ〜"なんて
震える肩をダンナと寄せ合って唄っちゃうけれど、
それでもマドリーの街はウキウキしてるよ。

カルナバル(いわゆる"カーニバル")の季節だから?
ノン・ノン・ノン。
フォルムラ・ウノ(いわゆる"F1")が始まったから?
ノ・ノ・ノ。

実は、今日は年に2度のお祭り騒ぎ、
"レアル・マドリー"対"FCバルセロナ"があるのさ。
って、ラテンの血がグツグツ沸騰する、
サッカーのおはなしです。


スペインの2大都市といえば、
マドリーとバルセロナ。
もちろん、東京と大阪の例を出すまでもなく、
ことあるごとに対立している。

バルセロナ市民が
「あいつら、ドイナカモンだよな」と言えば、
マドリー市民は
「へっ、スカしたケチンボ野郎め」と返す。

しかも東京・大阪の例と違って
バルセロナのあるカタルーニャ地方には自治権があり、
公用語すらまったく異なってしまう。
たとえば
恋人と同じベッドで朝を迎えたマドリー市民が
「ブエノス・ディアス、テキエロ」
(おはよう、愛してるよ)
と優しくチュウをするところ、
バルセロナ市民は
「ボン・ディアー、テスティモ」と囁くのだ。

そんな両地域を代表する
スペインリーグ2大チームが対戦するんだから、
めっぽう強い郷土愛と
べらぼうなサッカー熱と
夢のかかったキニエラ(サッカーくじ)への思いが
ぐるぐる渦巻いて膨れ上がって、
そりゃもう大騒ぎになるのはあたりまえ。

しかも今回は、
そんな犬猿の仲のバルサ(FCバルセロナ)から
マドリー(レアル・マドリー)に
"ポルトガルの至宝"と称されるMFにして
"007の主役級にポマードの似合う中年顔"の
ルイス・フィーゴが
100億ペセタ(約65億円)の史上最高額で
移籍してきちゃったもんだから、
愛憎倍増、感情非常に最高潮、
憎い袈裟着た坊主のバカバカバカ、ってな
ヒステリックな騒ぎになっているのである。


と、エラそうに書いている私だけど、
日本では"六甲颪"と
猛虎軍団ヒッティング・マーチは唄えても、
サッカーのことなんてちっとも知らなかった。

ところがスペインに来てみると、
テレビも雑誌もバルの中も、
みんなみんなサッカーの話題。
だからほら、
郷に入ったら楽しいなとかなんとか言うし、と
サッカーを知るようになったら、
めっきりおもしろくなったのであった。

しかも、
レアル・マドリーのスタジアムは
ダンナの勤務先から徒歩5分。
働いていても、地鳴りのような歓声で
いつ得点が入ったかわかるなんてハレンチな状況とか。



実は、マドリー市民がみんなレアル・マドリーの
ファンかというと、そんなことはない。

マドリーにはサッカーチームが3つあり、
おじちゃんたちは
阪神によく似て人気は高いがどうにも弱い
アトレティコ・デ・マドリーのファンで、
下町のひとたちは
ゴールネット横がすぐアパートという貧乏チーム
ラジョ・バジェカノのファンだったりする。

しかも、若者たちの中には
サッカーにあまり関心がないってひともいる。

ところが、そんな彼らや彼女らの意見は
たったひとつの点においては見事に一致するのだ。
すなわち、
「バルサが負ければうれしい」

だから今日だけは、
マドリー市民のこころはひとつになっている。
試合開始の夜9時には、
土曜の夜だというのに
バルはガラガラになっているだろう。

そんでもってマドリーがゴールを決めようもんなら、
走行中の車はクラクションを鳴らすし
肩を組んだ若者は声を張り上げて歌うし
夜何時でもかまわずに花火が上がるし
その音にびっくりして犬がワンワン吠えるし
この鳴き声に驚いた赤ちゃんが泣き出すし
それをなだめようと立ち上がったおばあちゃんがコケるし
ママは悲鳴を上げて飛び上がるし
パパはひたすらテレビの前でマフラー振り回して叫ぶし
うちのオンボロピソがグラグラ揺れる、
という
いつもの光景が繰り返されるに違いないのだ。


中継をするテレビ局では、
試合開始の4時間も前から特番をはじめてしまった。
"どちらが勝つか"って街頭インタビューしてるけど、
マドリーの地域局なんだから(その名もテレ・マドリー)
みんなが「マドリーに決まってるさ!」と同じ答え。
この意味ないインタビューが、
きっと試合開始まで続けられるのであろう。
って、うっかり見ちゃってるんだけどさ。
おお、サッカースタジアム隣を走る
マドリーでいちばんの幹線道路も、
観客のための駐車場とするべく
ついに封鎖されちまったよ。
なにがだいじって、サッカー、だからね。

ちなみに10月にバルセロナで行われた同一カードは、
2対0でバルサの完勝。
翌日のマドリーは「昨日、なんかあったっけ?」と
街全体で都合のいい記憶喪失にかかるしかなかった。

ともに創立から約1世紀となる伝統チームの
21世紀最初の対決はどちらに軍配が上がるのか。
そんでもって
マドリーのゴールが決まったときの振動に
我がオンボロピソは持ちこたえるのか。

マドリーに住む以上は
避けて通れない大イベントが、
まもなく、はじまる。

2001-03-08-THU

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