KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

 
カナ号出動!ラテンの平和を守るため?


オラ、アミーゴ!
笑ってる??
おいどんはもちろん、飲んでるぜ!

こうして
"良く飲み、良くしゃべり、良く笑う"という
ラテン生活・黄金の三ヶ条を、
八百屋のホセをして「カナはあんまりだ!」と
嘆かせるほどに忠実に守って
ゲハゲハ生きてる私だけど、

ときには涙さしぐみ空を仰ぐ日も
そりゃまぁ、あったりするのでございます。
ダンナが仕事に出かけた後、
咳をするのもひとり、
そしてこのエリアにきっとひとりぼっちの日本人。
窓の外の圧倒的な青空に、押しつぶされそう……
なんて。

いかん、
このままじゃ今夜のビールが美味くない。
美味くないってえと、夜ぐっすり寝られない。
ぐっすり寝られないってことになると、
明日のビールも美味くない。
するってえと……。
ラテン生活、最大のピーンチ!

カナ隊員、直ちに出動せよ。
おのがラテン生活の平和を守るため。
バモス、バモス!!


かくして寝グセをアンテナ代わりに立てた私は、
ピソ(アパート)の狭い階段を駆け降りるのであった。

まず、庭掃除中のマテオおじちゃんと遭遇。

「オラ、どうした、カナ?」
「元気よっ」
「#%*++@&!〜?」

いかん、どうも元気がない日は語学力も落ちる。

「ごめん、セニョール・マテオ。
なんて言ってるか、わかんないや」
「よかよか、
言葉なんてもんは少しずつ上達するもんさ。
でも、前よりかずいぶん上手になったなたー」

アラそうかしら。
単純な私は大喜び。
しかし私にはやらなければならないことが。
そそくさと別れを告げて、通りを疾走。
タバコ屋さんで急停止。

「おばちゃん、L&Mライツばちょうだい」
「2カートンやろ。ほら、ライターあげようね」
「ありがと!」
「どうね、スペインは慣れたね?」
「うーん。わからんけど、好きよ、大好き」
「そう言ってもらうと、
おばちゃんもほんとうに嬉しかとよ。
ほら、アメちゃんあげようね」
「ありがと!」
「またおいでね、ボニータ!」

"ボニータ"="かわいこちゃん"だって!
単純な私は大喜び。
ヒヨコの顔が描かれたキャンディを片手に、
再び全力疾走をしかけたところで、
同じピソに住むフリアばあちゃん発見。

「あんら、娘よ、どこさいくね?」
「あ、ばあちゃん!今日は良い天気ね」
「そうそう、だからカナが走ってくるのが
ずっと前から見えとったとよ。
あんらまぁ、ほっぺたピンク色にして」
「ばあちゃんもだよ」
「いんにゃ、あんたの方がずーっと可愛いかよ!」

70代後半のフリアが、歯の欠けた顔でクシャッと笑う。
もちろん、単純な私は大喜び。
勇気が、湧いてきたぞ。
寝ぐせアンテナも、いよいよピーンと立ってきた。
ショー・ウィンドウに映る私、
"東洋の神秘"風のアヴァンギャルド・ヘアスタイル。


そうだ、髪でも切るか。
勢いに乗って、はじめてスペイン美容室のドアを押す。

「あのね、髪、切ってくらさい……」

いかん、ガラス張りで洒落た雰囲気に、
また意気地なしになってきちゃったよぅ。

よく言葉がわかんないまま頷いちゃって、
トリートメントとかもされちゃったし。
しかもそのとき、担当の若いおねえちゃんが
「東洋人って髪、多いよね!」って笑い転げたりして。
どうしよう、ドキドキ。

泣きそうな顔を上げると、鏡越しに、
美容師のおねえちゃんがニッコリ微笑んでいる。

「なにか質問あったら、遠慮なくしてね」

この優しそうなひとと、なにかしゃべりたいぞ。
えーっと、質問、質問。

「スペインとか南米の女性って、
おっぱいが大きくていいですね!」

なんのこっちゃ。
あぁ、なんでこうなんだろう。
もう、意気地なしの波に溺れそう。

「そうね、
でもあなたたちは、ここが素敵じゃない。
それがいちばん素晴らしいことだと思うわ」

そう言うとその女性は
私の心臓のあたりにそっと指を置いたんだ。

単純な私は、大喜び!
寝グセがなおった髪を振り振り、スキップで帰宅。


元気がないときは外に出るに限る。
いつもスキップして帰ってこれるんだもん。
そんでもってビールが美味い、と。

こうして今日も、我がラテン生活の平和は、
しかと守られたのでありました。

ビバ!ラテンびと、
ビバビバ!ラテン生活!!

2001-02-27-TUE

BACK
戻る