KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

 
イナカモン讃歌サンバ


ピーピープー、ピッピッピプー(サンバ?)
オラ、アミーゴ!

このあいだよぅ、
北イタリアびいきの芸術家に言われちまったよ。
「スペインってさ、イナカでしょ。
 みんな無知で無教養だし。
 あぁヤだヤだ、
 早く、"おフィレーンツェ"に帰りたいよ」

そりゃあよ、
スペイン人の平均身長は
ヨーロッパらしからぬ低さだし、
とくに中年以降になっちゃうと
鏡餅に手足をちょいとさしたような体つきの
垢抜けないおっちゃんおばちゃんばっかだし、
そうじゃなくても
若いスペイン男性ときたら
(こちらの勝手な幻想を裏切って)
ミスター・ビーンによく似た
ちっとも都会的じゃないひとが多いわさ。

でもさぁ、
彼らのニカッて笑顔は、
人間って素晴らしい!って
この胸をサンバにふるわすあの笑顔は、
とびっきりっの天下一品!なんだぜ。

新聞購読率があきれるほど低くても、
んなこたどうでもいいじゃねえか、
な、アミーゴ!


と、まだ見ぬあなたに熱く呼びかける
高田馬場仕込の直情型なワタクシ、
ベラスケスの描く農夫が酔っ払ってデケデケ笑う
プラド美術館にて
上記の北伊太利亜贔屓芸術家にも
ちゃんと言ったのである。

「そうよ、スペインはイナカよ。
 とくにマドリーはねっ!」



そもそもスペインというのは、
ヨーロッパの南西端にぼってり頭を突き出して、
そんでアフリカ大陸にアゴを乗っけたような
どうも不格好なイベリア半島にある。

だもんで、
他のヨーロッパ諸国からは
「あれ?スペインもEU圏内なの?」
「ウソ、スペインってアフリカじゃなかった?」
なんて、
完全にイナカモン扱いされている。


で、マドリーってのは、
そんなスペインのほぼ中央にあるのだ。

地中海や大西洋の潮騒までは
東西南北前後左右、どこへも約400km。
遥か地平線へと続く乾いた黄色い大地、
風では決して動かない朽ちかけた風車、
見るものの血を滾らせながら落ちゆく赤い夕陽、
それよりも赤い鼻をテラテラ輝かせながら
陽気に酒を飲む農夫たち、
そんな風景が似合う場所。

そんなマドリーに対しては、
スペインの南に広がる
素朴で情熱的でルーズでフラメンコ、ってな
スペインの原風景をもつアンダルシア地方からこそ
「マドリーって、都会でかっこよかぁ」と
憧れの眼を向けられるんだけど、

古くから地中海交易で栄えていて、
すぐそばのフランスの影響も強く受けていて
ガウディやミロやダリやピカソなどという
自由な芸術家たちをいっぱい輩出した
カタルーニャ地方(中心はバルセロナ)からは
「けっ、しょせんマドリーは農民の村さ」
と、完全にイナカモン扱いされている。

つまり、
ヨーロッパの"どイナカ"のスペインの、
そのまた"どイナカ"が、マドリーなのだ。


そうやってみんなから"イナカモン"と
バカにされているマドリー市民は、
どうするか。

忸怩たる思いに駆られて
世界標準に突っ走ったりは、
もちろんしない。

「オウともよ。
 おいどんは、イナカモンくさ。
 しかも実家は、もっともっとイナカばい。
 村にはバル(BAR)も一軒しかなかとこくさ。
 そいでもおいどんが家には、
 広か広かブドウ畑のあってさ、
 収穫ん時期にゃ家族全員集まって
 ブドウば踏んづけてワインば作るったい。
 隣のホセやんが家からヒツジばもろうてぞ、
 そのワインと一緒に食うときの
 美味さっていうたら、ちょっとなかけんな。
 いやぁ、イナカモンでよかったばい」

とうとうと、
おらが村自慢をするだけのことである。
ちなみにマドリー市民、
都会っ子カタルーニャ人のことは
「あいどんは金、金、ってうるさかけん。
 あげなケチは、スペイン人じゃなかばい」と
一刀両断。


とはいえ若者たちは、
都会、とくにイギリスやアメリカに憧れる。
フラメンコも闘牛も、サッカーにすら、
「そんな時代じゃねえんだよ」と
興味を示さないひとだっている。

「もったいない!」とは思うけど、
そう言うわけにゃいかんのだ。

だって私だってイナカを嫌って東京に出てきて、
方言が出ないように、
イナカモンと思われないように
気を張って突っ走ってきたんだから。

そのうち、
カワハギの刺身の美味さが
なんとなくじんわりわかるようになって、
そんでもって
「やっぱりおかんにゃ頭の上がらんばい」って
照れながらも言えるようになって、
そうしてやっとつい最近、
「あぁ"イナカモン"でよかったなぁ」って
心から思えるようになったんだから。


だから、マドリーの若造どもよ、
思う存分、反発しちゃいなっ!
そのぶん、大好きになって帰ってくればいいさ!

きっとみんなもいつか、
好きになっちゃうんだぜ。

江戸っ子の誇りと心意気と、
浪花っ子のベタベタ感と、
九州っ子のゆるゆる感とを併せもつ、
あったかーい、
この"どイナカ"な土地をさ。

2001-02-15-THU

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