ある映画の冒険の旅。
映画プロデューサーは
走り回るよ。

第8回 
<去年ヒットした『エイミー』の映画館をブッキング>の巻


どこへ行っても叫ばれている、「いよいよ世紀末」。
新しい世紀になったからと言って、
急に何かが変わるわけではないけれど、
いままでのことを考えたり、
これからのことを考えたり、
100年という単位を身近に感じて、
普段より長いスパンでいろいろなことを考えるのには
いい機会ですね。
今年はタナボタでアメリカ映画『うちへ帰ろう』の
プロデューサーになった私。
感動したり、嬉しかったり、反省したり、
総決算な気持が溢れています。

が、依然ここでの話は、
まだ『うちへ帰ろう』の公開までたどり着いておりません。
これも大きな反省点のひとつ。
ちょっと期間が空いてしまった事をおわびしつつ、
物語は進みます。

今年の初めまでシネスイッチ銀座で上映していたヒット作、
『エイミー』もパルコの配給で、
私が宣伝をプロデュースしていました。
『エイミー』をシネスイッチ銀座に見に来て下さった
お客様から、「感動しました」との声援をもらい、
さらに大きな感動を呼ぶ『うちへ帰ろう』を
上映する映画館は、やはりシネスイッチ銀座かなっと
やっぱりと思い、さっそく字幕の入ったプリントを
「営業試写」することになりました。

業務用の小さな試写室で、
シネスイッチの番組担当関係者の方だけを呼んで、
『うちへ帰ろう』を試写します。
すっごく気に入ってもらえた場合は、
その場で「ヨシ!やりましょう!」
と即決のこともあるのですが、
『うちへ帰ろう』の場合は、
「いかがでしょうか?この後、
 ランチでもしながらお話を…」
という私のお誘いに対し、ソソクサーっと
「検討してお返事しますので」
と帰ってしまった吉澤嬢…。
でも籏興行(シネスイッチを運営している会社)の籏さん
の目にはうっすら涙が滲んでような…。
どうなんだろう?

私はもう一つの顔として、
渋谷パルコの「シネクイント」の番組担当をしています。
試写のすぐ後に「やる」「やらない」を即決することは
あまりありません。
どうしてかというと、個人的には大感動して、
大好きな映画でも、映画館というビジネスをしてる以上、
「動員数は?興行収入は?」
「宣伝効果はどれくらいか」
など諸々の周辺要素を検討しなければならないからです。
実際に、
「あんなにいい映画なのに、
 どうして日本でやらないんだろう?」
という作品は世界中にあります。
日本に来て上映される映画は、氷山の一角。
それでもヒットしない映画がほとんどなのですから、
年間に上映できる本数が限られている映画館としては、
慎重にならざるを得ません。

『うちへ帰ろう』の場合は、
「見ればナットク!大感動」ではあるものの、
監督=無名、キャスト=ほぼ無名、映像=特記事項ナシ
という映画なので、ポスターと予告編と宣伝で
どれだけの人が「映画館で観たい!」と思うか?
という疑問を、よぉーく検討しなければならないでしょう。
この<映画館で観たいか?>というのが重要で、
あとでビデオも発売されますし、
テレビでも放映されるのですが、
その二つの実施規模は東京での劇場公開
(ファーストランという)の結果にすべてが
かかってくるのです。

そこで、"映画そのものは大変気に入ったが、
どこまでヒット拡大していくかが疑問?
と即断しかねている籏興行の籏さんに、
「どんな風にこの映画を売っていくつもりか?」
というプレゼンテーションをしに行くことになりました。
1時間以上も真剣に私の口八丁手八丁の
プレゼンを聞いて下さった籏興行さん。
でもその目には、依然「そうかな?」の疑いの色が…。
それは仕方がない。
だってプレゼンしているこちらも
「絶対にこうです」ということは言えないのです。
映画はギャンブルとよく言われるのですが、
前回これで上手く行ったのに、
こんどはダメなんてことはザラにあるし、
「え?何故コレが?」と言うヒットもある。
「やってみないと分からない」がホンネなのです。

そんなことを言って開き直っていても先に進まないので、
「自分がお客さんだったら、こういう映画を観たいと思う」
ということを考えながら、
宣伝プロモーションの方法を考え、プレゼンしたのです。

それは、この映画の最大の持ち味である、
「誠実さ」を貫くこと。

このポイントを評価してくれたのか、
数日後、籏さんから
「また『エイミー』みたいなヒットをめざして
 頑張りましょう!」
との連絡をもらい、
<今秋 シネスイッチ銀座にて、感動のロードショー>
が決定したのです。

でも、映画の「誠実さ」はどう売ったらいいんだろう?

映画の宣伝は、皆さんもお気づきのように、
はなはだ怪しい宣伝文句の宝庫です。
「本年度、全米ナンバーワン ヒット!」
と言われれば、
「アメリカ全土で今年一番多くの人が観た」、
と素直に思いますよね。
でもデータを紐解いてみれば、
「公開初日に一番動員が多かった」とか、
「公開してから1週間は1位だった」とか
「動員数を上映劇場数で割った平均動員としては
 1位だった」とか、
いろんな数字の捉え方で、
なんとか「売り文句」にしていこう、という宣伝側の
涙ぐましい努力があるのです。
決してお客さんを騙そうと思ってやっているのではない
かもしれません。
でも、その部分だけ情報を切り取って与えられた
こちらとしては、ちょっとガッカリしますよね。
例えば、「本年度アカデミー賞 受賞!」と
ポスターにあったとします。
アカデミー賞にもたくさんの賞ジャンルがあるので、
トータルで評価された「作品賞」なのか、
編集技術は素晴らしい!と評価された「編集賞」なのかで、
随分と違うんじゃないかなーと思ったりします。
カンヌ映画祭でも同じです。
「カンヌ映画祭 正式出品作品」と
「カンヌ映画祭 パルムドール受賞!」とでは
全然、価値が違います。
でもなんとなくどちらの場合でも
「あれってカンヌで賞かなんかとったんだよね??」って
となりの人に喋っちゃったりしませんか?

『うちへ帰ろう』の場合、
アメリカ公開も日本公開の1週間後でしたから、
「全米ナンバーワン!」と言える要素もないし、
もちろん賞レースにも入ってきません。
しかも脚本・主演をつとめた
デヴィッド・リー・ウィルソンのルックスは「若ハゲ」。
他のキャストも地味。アピールできるのは、
デヴィッドの書いた
「誠実な視点で家族を見つめたストーリー」
こんなに素晴らしい「人の心」を伝えるときに、
ウソ、誇大広告、曖昧、などはやはり避けるべきだと
思ったのです。
そりゃ、ヒットしなければこちらも首が掛かってますから、
「そりゃスゴイ!」
と思えるような宣伝文句は欲しいんですけどね。

ここ数年流行っているのは、新聞広告やコメント・チラシに
著名人の試写感想を載せるやり方。
当然、相手は名前を売り物にしている芸能人ですから、
コメント使用料が発生しています。
かといってお金のためにコメントをくれているわけでは
ありませんよ。
試写を見せてもちろんご本人が「これは素晴らしい!」
という賛同なくしては、コメントはもらえません。
今年は映画評論家のおすぎさんが
コマーシャルのナレーションをやったり、
新聞にコメントしたりした映画は全部ヒットしていますね。
各社こぞっておすぎさんのいい感想をもらうべく、
奔走しているのです。
おすぎさんのコメントは、フェアなので
素直に観る人に受け入れられているのでしょうね。

ただ、芸能界でも映画好きでよく試写を観てくれる方は、
案外限られてきています。
よく見てると、いつも同じ人がコメントしてませんか?
観る方としてはちょっと飽きてきました。

『うちへ帰ろう』の場合は、よほど
「あー、こんな人も認めてる映画なのか」
と新鮮味をアピールできる人からのコメントがもらえないのならば、
この方法はダメだな、と思ったのです。
だってもともとジミーな作品なのに、
他の映画と同じ顔ぶれのコメントが並んでいても、
なんだか埋もれてしまいそうで…。

名前でアピールできない映画。
でも満足度は高い!
これは通常では行わない規模の試写会で、
口コミ宣伝を行うしかない、と合計7000人の試写会を
実施したのです。
そしてそこでアンケートを実施してみたところ、
やはり満足度は高く、95%の方が
「とてもよかった」か「よかった」
に○を付けてくれたので、
それをチラシの一番上に載せました。
さらに一般の方の感想コメントも抜粋。
正直言うと、この一般試写会のコメントも、
目新しい宣伝方法ではないし、
実際の評価よりもいい部分を抜粋するのは当然。
一般の方だから、
コメントを宣伝側が作ってしまうこともなくはない。

だから観る方としては「またか?」もあるかも知れません。
でも『うちへ帰ろう』では一切、作為コメントは
してないし、アンケートの95%も本当の数字です。
「97%にしよう」という意見も出ましたが、
たとえ2%でもウソはダメ。
これは、後で「ぴあ」の初日満足度調査が行われれば、
真偽が明らかになるだろうと予測していたのですが、
実際91%の満足度で同じ週末に公開された映画の中で
1位でした。
「誠実な宣伝」が証明されたようで嬉しかったです。

2001-01-07-SUN


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