53
矢沢永吉、50代の走り方。

第1回 45歳になると……。







人間の一生は、トーナメント戦じゃない。
勝ったり負けたりをくりかえすリーグ戦だ。

敗れっぱなしなんてない。
親父も負けた。おまえも序盤戦で負けた。
いいよ、中盤戦から盛り返せよ。
逆転しろよ!

        (『成りあがり』[角川書店]より)




おじさんのツッパリっていうのはマジだ。
命かけている。おべんちゃらじゃ済まない。
ダメだからといって、
知らん顔して逃げるわけにはいかない。
子どももいれば、女房もいて、会社もある。

それでもしまいに頭に来て、
お膳ひっくり返したいこともあって、だからツッパリだ。

突っ張るっていうことは
倒れないようにしようとすることだから、
前に出るしかない。
今の日本の元気のない中年の人たちこそ、
ツッパらなきゃいけない。今ツッパらなきゃいけない。
これだけキツいんだ、世の中が。
後ろに下がったら、そのまま倒れる。

オレは逃げるわけにはいかない。閉じるわけにもいかない。

そうすると、男ってけっこう切ないよ。
切ないのはサラリーマンだけじゃない。
オレだって、あんただって、こいつだって、
マジに張ってるヤツは、みんな切ない。
切ないからって逃げるわけにはいかない。


   (『アー・ユー・ハッピー?』[日経BP社]より)





この『53』というコーナーは、
しばらく「スタートダッシュ!」ということで、
月曜日と水曜日と金曜日の
週3回の連載形式でお届けしていきたいと思います。
毎回、「センス・オブ・ワンダー」と言うか、
「あぁ……なんだろう?それは!」的な驚きを
みなさんに提供できるようにがんばりますので、
どうぞ、ご愛読をヨロシクおねがいいたします。

このコーナーでは、
おもに矢沢永吉さんの53歳の姿を特集してゆきながら、
「50歳って、なんだ?」
「経験を積むことって、どういうことなんだろう」
「仕事、家庭、生き方で、こういうことがワカりたい」

そんなことを、みなさんと一緒に考えていきたいのです。
10代や20代や30代や40代や50代の方々……
それぞれの人の思う「こういう50代がいい」っていう
考えもご紹介していくコーナーにしたいと思っています。

ですので、
「自分の50代はこうありたい」
「このコーナーで、こういうことを扱ってもらいたい」

などといった、さまざまなご意見、お待ちしております!
postman@1101.com
↑メールはこちらで募集していますので、
 件名を「53」として、送ってくださいね。

では、第1回をお届けします。

今週からの数週間は、まず、
矢沢永吉さんのスタッフから見た、
「矢沢永吉の53歳」についてを、
インタビュー形式で伺ってまいりたいと思います。

矢沢さんの事務所というのは、
一般的な「いわゆる音楽関係の事務所」とは
すこし、仕事の内容が異なっています。

と言いますのも、矢沢さんは、
アルバムやコンサート制作というような
音楽活動を、ほとんど自前で展開しているのです。
ですから、事務所のやることも、
「スケジュール調整をして、おわり」
ではなくなります。

例えば、レコード会社のリスクとしてではなく、
自分の事務所のリスクとして、アルバムを作る。
レコーディングにかかる費用からセッティングから
すべて自分たちで責任を取るというスタイルでやる。

ですから、
矢沢さんのスタッフが言うことは、
そっくりそのまま、
「矢沢さんと一緒に音楽や興業を
 生んできたパートナーが言うハナシ」
だと思ってくださいね。

現在40代のスタッフTさん。
20年近く毎日仕事をしつづけた人。
その人がいちばん近くで見る、
矢沢永吉の53歳とは、どういうものなのでしょうか?
では、インタビューをお送りいたします。







ほぼ日 すこし前に、糸井重里と
「50代って、いいよね」
という話を熱心にしていらっしゃいましたよね?

はい。
あの話は、とてもおもしろかった。

その時に糸井さんが言ってたんですけど、
「40代の半ばぐらいを過ぎてみると、
 いままでに自分のやってきたことも見るし、
 いま自分がどこにいるんだろう、
 というところも、当然見る。

 だからこそ、
 『オレって、50歳になったら、
  どうなるんだろうなぁ……?』
 ということが、すごく気になってくるんです」
ということなんだそうです。

その話をうかがっていると、
確かにそうだろうなぁ、と感じました。

やっぱり、そこには
非常に大きな不安があるだろうと思うんです。
45歳というと、40歳と50歳の間ですよね。
45歳をこえると、四捨五入すれば
50歳になっているわけじゃないですか。
そこでやっぱり、糸井さん、
「50歳になった時、
 自分はどうしているんだろうなぁ?」
「今までの自分の人生って、
 はっきりいって、どうだったんだろう?」

とか、50歳のことを考えたんだって言ってた。

40歳でも人生が半分と
言えば言えなくもないけれども、
50歳っていうと、確実に人生としては
「終わりに向かって近づく」という
リアルな感覚が、やってくるんだそうです。
だからこそ、50歳になる目前というのは、
すごく不安なんだって、おっしゃっていました。

「でもね……その50歳に行く吊り橋を
 渡りきっちゃうと、すっごくイイのよ!」

そう、糸井さんが言ってたんです。
へぇ、そういうものなんだ、と思いました。
矢沢も50歳になってから、
「50代っていうのは、すごくいいもんだ」
とつくづく言ってます。
同年代のふたりの言葉を聞くと、
なるほどな、わかるな、と思わされました。

と言うのも、矢沢の50代って、
それまでに一生懸命走ってきているわけだから、
自分のやってきたことに、後悔がないんです。
もちろん、
「あん時ぁ、こうすればよかったな」とか、
あれがどうしたとか、そういうのは当然ある。
あるだろうけれども、その時その時には、
一生懸命にやってきた自負がありますから。
それは、糸井さんも同じだと思うけれど。

そういう人が50歳をこえると、どうやら、
自分の若い時にもがいたり試したり
全力をつくしてきたりしたことを、
すっごく、愛おしく思えたりも、するんですって。

もちろん、50歳をこえる頃には、
カラダをぶつけてやってきたことに関して
酸いも甘いも、わかっている。
わかった上で、
「じゃあ、これから、どうしたい?」
そういうところに、考えがいく
わけじゃないですか。

お金のことも、いろんなことがあって、わかった。
人間づきあいのこととかも、わかってきた。
男と女、っていうテーマについても、わかる。
いろいろ成功したり失敗したりしたうえで、
わかったうえで、今後どうしたらいい、
それを実行していくのが、50代なんだそうです。

矢沢本人が、インタビューで言ってるのは、
「やっぱり、人間って、やりがいなんだよね」
というところに、尽きるそうです。
「自分は音楽でこれまでやってきた。
 いま、もっと音楽をやりたくてしかたない」
50代になると、それが、
ハッキリわかってきた
っていうんです。

「自分には、やることがある」
「やりがいの持てるものが、確かにある」

それって、大切だろうなぁということは、
横で見ていても、それにもちろん、
自分で仕事をしていても、よくわかります。

もっと若いころ、たとえば10代や20代には、
「やりがい」って、わからないじゃないですか。
わからないというか、本当のやりがいを
感じることができていない、
と言いますか。
つまり、若い人たちは、
「なんかの目標に向かって走っていく」
という方向のエネルギーのほうが、
とても強く発揮できると思うんです。

矢沢で言うと、
「サクセスしたい」
「スーパースターになりたい」
「お金が欲しい」
そういうことで、最初は成りあがっていった。

でも、ぜんぶ掴んじゃった。
掴んじゃったあとに、
いろんなことがわかってくるわけじゃないですか。
「お金で解決できないことって、
 ホントは、いっぱいあるんだな」とか。

サクセスしたけれど、なんにも幸せじゃない。
じゃ、幸せってなんだろう?
そういうことに悩みはじめるのが、
30代や40代
であって、さらに
やりがいのあることをほんとうにやりたい、
というのが、矢沢にとっての50代なのかな?
そんなふうに、思っています。





(次回に、つづきます!)

2002-07-03-WED


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