HIGE
ゲイを生きる。
〜婦人公論井戸端会議より〜

第1回
「当方J官」をご存じ?
糸井 僕のホームページでは、
『新宿二丁目のほがらかな人々。』
というタイトルで、
ゲイの人たちによる座談会を連載していて、
ジョージさんはそのメンバーです。
読者の方々のために説明すると、
新宿二丁目は、
ゲイの人が集う場所として有名。
ジョージさんは会社の経営者で、
ゲイであることをカミングアウトしてるけど、
ここでは本名である必要もないので、
いつもの「ジョージさん」という
愛称でいきましょう。
今回ご登場いただいたのは、
ゲイについて女性たちに
教えてさしあげてほしいと……。
女の人は好きなんですよね、ゲイの話が。
糸井 『新宿二丁目のほがらかな人々。』も、
読者はほとんど女。
で、なぜ南伸坊がこの場にいるかと言うと、
何にでも貼りつく膏薬みたいなもので、
この人はあらゆる偏見がないのよ。
『さぶ』(ゲイ専門誌)で
イラストを描いてたこともあるし。
そう、20年くらい前にね。
その『さぶ』の通信欄が面白かった。
今で言う出会い系サイト。
一番気に入っているのは、
「当方170センチ、中肉」とかあって、
希望のタイプ「真面目で毛深い人」。
やっぱり、真面目な人じゃないとヤだと。
だけど、真面目でもツルツルはイヤなの。
自分が本当に探してる人を書いてるんで
切実なんだけどさ、
真面目と毛深いが
一緒になってるのがすごくいい。
糸井 「当方J官」というのも僕は好きでしたね。
自衛隊が「J」一文字で、
Jポップみたい。(笑)
ジョージ 警察官は「K」。
糸井 「当方J官P大A可」というの、
俺、いちばん好き。8文字で。
PだのAだのって、
これ、『婦人公論』なんでしょ?
糸井 「毛深い」まででよかった。(笑)
そう言や、糸井さん、以前、
ゲイバーに行った時、ばかにモテてたよね。
糸井 それは彼らの芝居でしょ。
ただ、外国でゲイに間違えられたことは
何回かある。
僕はどちらかと言うと
男っぽくはないですから。
単純な見方だと、「あらっ」と言ったり、
なよっとしてる人を
そのジャンルに入れるじゃないですか。
普通の人が考えるのはそこだもんね。
ジョージ うん、それだと、この場で
一番オカマっぽいのは糸井さんですね。
糸井 あらっ。(笑)
ジョージ ちょっと無防備になると
小指が立ってそうという……。
糸井 立ちます、立ちます。(笑)
ジョージ でも、ひとことでゲイと言っても、
ゲイを職業として生きてる人と、
ゲイを人生として生きてる人の
違いと言うのか……
つまり、現実の社会では、
ゲイを表現したくない人たちが
いっぱいいるんです。
そういう人たちは、
むしろ一所懸命に
男っぽくするかもしれないなあ。
糸井 自分は違うんだぞって、
かえって男っぽさが
過剰になってる場合がありますよね。
「役割」を演じてるから。
ジョージ そう、役割ですね。
僕の場合、物心ついた頃には
もう男の人が好きで、
男である前に自分の中に女の子がいたんです。
野球なんかより裁縫に興味があって、
フランス刺繍が大好きだった。
でも、好きなことを頑張ると、
「おまえ変だよ」「刺繍やめなさい」と
言われるわけでしょ。
で、「キャッチボールしよう」と
父親から誘われれば、
いい息子、元気で利発な男の子の役を
やんなきゃいけない。
糸井 難しいねえ、子どもには。
ジョージ ゲイって、ほとんどが
子どもらしい時代がないの。
ひと足先に大人になるから。
社会に出ると、
上司にほめてもらうには
何をしなきゃいけないか考えて、
その役割を演じるようになるじゃないですか。
だけど僕らは子どもの頃から
ずっとそれをやってきてる。
そのうちに、自分の中の男と女を
どんどん
コントロールできるようになるんです。
はあ、なるほどね……。
ジョージ でも、中には
コントロールできない子もいてね。
それで不必要に男っぽいだけの
粗野な妙ちくりんのものができあがったり、
あるいは
自分の得意なことばかりで生きていく
ニューハーフのような人たちに
なるんだろうと思います。
ただ僕にしても、
一度たりとも本当の男になったことはないし、
本当の女であったこともなく、
そういう意味では
男の気持ちも女の気持ちもわからない。
だけど社会的には男として生きていて、
おうちに帰ると女になっちゃうんだから。
糸井 お言葉を返すようですけど、
ゲイでなくたって、
本当の男になったりしてないですよ。
俺はしてない。
普通のお父さんにも、
「自分は男である」という実感なんか、
ないと思うなあ。
中には、「男とはこうだ」と
男ぶってる人もいますけど。
それは無理をしてるんですよ。
まあ、してるうち
自分でそう信じ込める人もいるけどね。
糸井 人形やフランス刺繍に代表される分野が
好きなことと、同性を好きなことは、
本当は関係ないと思う。
だけど自然と、男は野球で
女はフランス刺繍みたいになってるのは、
不思議だよね。
最近は脳について、
どんどんわかってきていることがあって、
男の脳と女の脳があるんだって。
性質の違いってあるわけでしょ。
いわゆる男の脳がしがちなこと
――機械が好きだったり、
競馬好きだったりとかね。
でも、男の脳と女の脳が、
必ずしも最初から
画然と分かれているわけじゃないらしい。
もともと人間は女として生まれてきて、
男の場合はホルモンでもって男の脳になる。
だから微妙に段階を経て、
男になっていくんじゃないかな。
育つ間にだって段階がある。
こうしたら社会から
男として認められるとかって
学習するわけでしょ。
自分は男の範疇に入りたくない、
だから自分は違うって思うのは、
この脳ミソのあり方みたいなことらしい。
(つづきます)

2003-04-21-MON

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