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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

オンとオフ。その1
男たちの帰る場所。

ノリスケ こないだね、上の人に、
時間の使い方が上手い、
上手にオン・オフを切り替えるねって言われたの。
でも、僕はそんなに上手いとは思ってなくて。
そしたら、私生活がちゃんとあるからじゃないか
っていう話になったのね。
ああ、そういう意味なら、たしかに、
オンとオフは、ちゃんとあるかもな、
って思った。
ジョージさんはどう? 時間の使い方。
ジョージ うん、下手じゃないと思うよ。
だって、“わたくし”があるもん。
ノリスケ “わたくし”って
そんなに無くしがちなのかな?
みんな。
ジョージ なくすと思うよ。
そもそも経営者っていうのは、
“わたくし”がない人が多いんだよ。
だって、何やったって……
ノリスケ もう、いつも崖っぷちだもんね(笑)。
ジョージ そうそうそう。崖っぷちだからね。
ま、経営者が崖っぷちで、
“わたくし”をなくすの、わかるんだよね。
だけど、それじゃあ、普通のサラリーマンとか、
んー、極端な話、主婦っていうのも、
主婦という職業をやってるんだと思ったら、
わたくしがないのかも知んないんだよね。
つねさん あー、そっかー。
ノリスケ あー、ないねー。
ジョージ 「主婦である、だれそれさん」
がなくなると、自分がなくなっちゃうのかな?
ノリスケ うん、うん、うん。
つねさん そうだね。
ジョージ うん。で、僕らのことを考えてみると、
僕らは、表ざたにできない生活を
しょってるんだよね。
ノリスケ そうなの。
つねさん で、それが……うん。
それが大切だったりしない?
ジョージ そうなのね。
なにより大切なのが、
表ざたにできない人間関係。
それを、僕らは、持ってるんだよ。
ノリスケ うん。
ジョージ で、これ、僕もよく聞かれるの。
私生活なにしてるのか、
想像できませんよって。
これは、オープンにしていない人にとって、
僕っていうのは何をしているのか、
ぜんぜんわからないんだよ。
ノリスケ 謎の人だ。
ジョージ だけど僕、
秘密にしているわけじゃないんだよね。
ノリスケ うん。ことさら、
そこまで仲良く話をしていないだけで。
ジョージ うん、そうそうそう、そういうこと。
だけど、僕のことをよく知っている人は、
あれだけ忙しそうに仕事をしているのに、
よくそんな趣味を持ってたり、
旅行いったり、たまに料理作ったり、
どーだらかーだらできますね、って言うんだよ。
で、必ず言うのが「多趣味ですよね」。
でも、僕はね、
趣味を持っているわけじゃないんだよね。
ノリスケ だって、ただの、生活ですもの。
ジョージ そう。生活なわけだから。
不思議だな、と思うよね。
つねさん ぼくらって、けっきょく、
仕事でいるときは、ゲイかどうかってことは
関係なくいるわけでしょ。
でも就業時間終わったら
ゲイである自分に戻る。
それはもう、別になっちゃうから、
それイコール、オフっていうふうに、
人は思うんじゃない?
ノリスケ 僕もそうだと思うんだ。
そういう自分があるから、
オン・オフの使い分けが
上手いって見えるんだろうな。
ゲイじゃない人たち……たとえば
うちの会社でいうと、きっちり一人だけ、
自分の時間割を作るタイプの子がいるの。
自己管理ができるのね。
そういうタイプじゃないと、
ぜんぶがオンになってって、
どんどん苦しくなってくのかしら?
自分は、わりと、どっちかっていうと、
ぜんぶオフの繋がりで
やってるような気がするんだよね(笑)。
ジョージ でも、どゆんかな?
みんなが下手だな、と思うことあるよ。
ノリスケ ジョージさんの部下にも、
下手な人いる? そういう人に、
どゆふうに言ってあげたりとか、してる?
ジョージ んーとね、まずね、んー、ひとつには、
「役割をぜんぶ外して、自分ひとりになったら、
 何かすることがありますか?」
って言うようにしてるの。
ノリスケ うん、うん。
ジョージ たとえば、会社の役職を忘れて、
外して家に帰ったら、
家の中でお父さんや主人という役割を、
また果たしているわけだよね。
ノリスケ うん。
ジョージ そしたら、自分一人に戻れるのって、
夢の中でしか戻れないんだよ。
ノリスケ 夢の中だって、ひょっとして、
同じようにやってるかも知んないしね(笑)。
ジョージ そうかも知れないんだよね。
ノリスケ ねっ。
ジョージ ねっ。そしたら、
自分の人生はどこにあるんですか?
ノリスケ って、言ってみる。
ジョージ 自分だったら、それを考えるんだよ。
んと、仕事しているときは
自分の人生のようだけど、
自分の人生と会社の人生。
で、家庭にいるときは、
自分と家族の人生なんだけど、
じゃ自分の人生って何なのか?
じゃあ、どうすればいいですか?
それはね、究極の話、
「一人暮らしをしなさい」
って言うしかないんだよ。
ノリスケ おおっ。極論。
つねさん ああ〜。そうだよね。
ジョージ うん。で、
自分が帰っていく場所が家庭であって、
自分が行く場所が会社であるとしたらば、
どこにも自分の場所、
世界はないわけじゃない?
そしたら、一人暮らしするのがいちばんですよ、
って。だけど、ほとんどの人は、
「いや、一人暮らしはできないよ」って言うの。
OLっていう言葉でくくっていいのか
わかんないけど、その、一人暮らししている、
働く女性たちにはね、自分の人生があるんだよね。
つねさん うん。
ノリスケ ある。いちばんあるんじゃない?
ジョージ で、僕らにいちばん近いんだよ。
つねさん ふんふん。
ノリスケ うん、近い近い。
ジョージ ゲイにいちばん近いのは、
一人暮らしをしている女の子たちで、
彼女たちの私生活を、
会社の人たちは想像することもできないんだよね。
ノリスケ あ〜。
ジョージ で、彼女たちは彼女たちで、
人間関係がいっぱいあるのに、
男の人たちは、
夏休みに、家族と旅行に行くか、
会社の連中とバーベキューに行くか?
しかない休みの過ごしかたしてる人たち、
いっぱいいると思うのよ。
つねさん うん、そうだね。
ノリスケ うんうん。
ジョージ でしょう? だけど、
僕らはどっちもしないんだよね。
ノリスケ しないね。
ジョージ 休みだから、やったやったーっ、
やっと自分だけの世界で遊べるって、
喜ぶじゃない?
ノリスケ うん。そうそうそう。
ジョージ で、そういうのが必要かな? と思うね。
つねさん やりたいことがない人って多いじゃない?
仕事以外に。
ジョージ うん、そうね。
つねさん だって、OLの人とか
ぼくらとかそうだけどさ。
ジョージ やりたいっていうかね、
べつにやらなくってもいいと思うんだよ。
僕ね、その、オフの時間っていうのは、
社会から行方不明になるのが
オフの時間だと思うのね。
ノリスケ うん。
ジョージ たとえば、芸能人がハワイにお正月いきます。
あれをみんなオフっていってるけど、
仕事なんだよね。
ノリスケ あれは仕事そのものだよ。
ジョージ だって、行方不明になってないんだもん。
で、ほんとうにオフを取りたいんだったら、
ハリウッド・スターのように、
飛行機、自家用飛行機1台チャーターして、
無人島に行って、まあ、
どっかのバカみたいに私の周辺16キロに
人を近づけないでちょうだい、
っていうのが究極の行方不明なの。
つねさん 贅沢な行方不明。
ジョージ ……あそっか
行方不明になる場所を
持ってるか持ってないか。
そこらへんに、ポイントがあるのかしら。

(つづきます)

2001-09-02-SUN
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