APPLE
新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

涙。その4
泣きながら歩く。

ノリスケ ちっちゃいことでね、僕、
カマボコを焼いて泣いたことある。
ていうか、今でもうっかりすると泣くよ。
ジョージ 焼いたカマボコってっ!? なに、それ?
ノリスケ それはねえ、また、おばあちゃんなんだけどね。
僕が小学生のときなんだけど、
父と母がとっても仲が悪い時期があってね、
で、家も借金があったらしくて、
とても大変だった時代があるの。
借金があることは、
小っちゃいから聞いてないんだけど、
とにかく大変そうなわけ。
いつもケンカしてるし、
父は呑めば酒乱になっちゃうし(笑)。
で、なんか、家ん中がいつも
しっちゃかめっちゃかなの。
で、けっこう子ども、冷静に見てんのね。
母がどんなに泣いてわめこうが、
何やってるんだろうな、
ぐらいに思ってるんだけど……。
つねさん で、カマボコは?
ノリスケ そうそう、母は働いていたから
祖母が全部ご飯を作ってくれてたの。
その定番メニューていうのがあって、
フライパンで焼いたカマボコと
バターで炒めたホウレンソウと、
それから、甘辛ーく煮た鶏の、
けっこうクズ肉だと思うんだ、安ーい、
モモのクズ肉を甘辛く炒めたのと、
えーと、スクランブルエッグが
付くことがあるかな?
それに、えーと、串に刺して揚げた、
あの、ウズラが、買ってきたやつが付くことも、
っていうのが、かなりの頻度で出てきたのね。
それ、よく食べてたの。
で、そのことは、祖母が死んでからも、
ずーっと忘れてたのね。
それが、つい、わりと最近に、
カマボコがあまって、ちょっと古いかな?
みたいになったときに、
焼いたの、フライパンで。
で、食べたとたんに、たーっ、て泣いた(笑)。
ジョージ あ〜、そういうの、あるかもねー。
ノリスケ あれっ? って思って。
なんで泣いてんだろう? って思って。
あ、そうか、これつくってくれた
ばあちゃんは、もういないんだ。
つねさん は〜、いいなあ。
ノリスケ 言いながら泣けてくる(笑)。
なんか、おセンチねー。
幸せな涙かもしれないけれど。
ジョージ 不幸せは、経験しないほうがいいよ。
あのね、すっごい不幸を経験するとね、
小さい幸せに感動するようになるの。
そうすると、涙はいっぱい出るよね。
つねさん うん。
ジョージ 父の会社が潰れてね、その年の大みそかってね、
すごいんだよ、会社潰れてね、
家差し押さえになるとね、
借金取りに来る人が、
目ぼしいものはみんな持ってくんだよ。
ノリスケ はーっ、恐ろしい。
ジョージ 僕たち生活してるのに、
目ぼしいものなくなるの。
ノリスケ 目の前で持ってくの?
ジョージ そう。ピアノだとか食卓だとか箪笥だとか、
そういうのはみんななくなるわけ。
だけど、食器は持ってっても、
仕方がないじゃない? そうするとね、
食器が入ってた食器棚持ってかれて、
食器が地べたに積んであるんだよ。
つねさん はぁ〜、すごい。
ジョージ んで、畳持ってくでしょ。
絨毯とか持ってくでしょ。
でね、最後のほうはね、
フローリングの床を、剥いでくの。
ノリスケ えーっ!?
つねさん すごいねー。
ノリスケ ……材木にすんのかしら?
ジョージ そうするとね、あーの、
足場組んであるじゃない? 床載せる。
そこしか残らないんだよ。
ノリスケ すごいね。
ジョージ で、その上にね、
段ボールとかねベニア板とかをね、
色んなとこから貰ってきて……、
すっごい大っきい家なんだよ? なんだけど、
その中で、なんか、
ホームレスみたいな生活をするのね。
ノリスケ 家は、持ってかれなかったの?
ジョージ 家は、差し押さえで
抵当権が付いてるから、
誰も手を出せないの。
ノリスケ ああ、そういう状態なんだ。
ジョージ そう。
ノリスケ で、住む場所はある、と。
ジョージ そう。住む場所はあるんだけど、すごいんだよ。
ほんでね、なのに、なんか知んないけど、
年越し蕎麦を食べたくなっちゃうんだよね。
そんな状態じゃないのに。
ノリスケ 「一杯のかけそば」
みたいになっちゃうのね(笑)。
ジョージ カップ麺かなんか、買ってきちゃうの。
んでね、食べるとね、すごいね、情けないよ。
も、これはね、情けなくて、
情けなすぎると、涙、出る。
ノリスケ それは、出る。
ジョージ も、悔しいとか悲しいはないけど、
情けないのは涙出るね。けっこうね。
でもう、翌年からはぜったい、
年越し蕎麦食べなくなった。
ノリスケ 今でも食べないの(笑)?
ジョージ 東京出てきて、んーと、なんとかなって、
その思いをひきずって10周年記念で、
解禁になったけどね、年越し蕎麦。
ノリスケ ふ〜ん。もう、今は笑って食えると。
ジョージ 今は笑って食える。
茹でるの間違ってみんなが怒鳴り散らしながら。
「誰が茹でたのっ!? こんなのーっ!!」
とかって言いながら。もう、どゆの?
のど元過ぎれば熱さ忘れる。
つねさん 人ってそういうものなのね。
ジョージ そんなもんよ。
ノリスケ 情けなくて涙が出るかー。
それは、あるだろうな(笑)。
一時、恋愛の相談みたいな電話を
かけてくる友だちがいて。僕に。僕なんかに。
相談じゃない、聞いて欲しいだけなんだろうけどね。
つねさん うん、そうね。
ジョージ 相談じゃなくってね(笑)。
ノリスケ 相談なんかしないよ。相談したって、
何も返ってこないんだから(笑)。
つねさん めんどくさがるしね(笑)。
ノリスケ そ。でも、聞くんだよ、僕。
他人の話って面白いからさ(笑)。
で、情けなくて涙、っていう話なんだけど、
ずっとつき合ってた人と別れたのに、
すごくその人が良くしてくれるんだって。
遠慮なしにすぐ泊まりに行っちゃったりできる、
いい人、らしいの。
でも、もう、ちゃんと別れなくちゃいけない、
一人でちがう人生見つけなくちゃいけない、
その人に迷惑かけちゃいけない、
と思いながらも、つい、
ずーっと甘えてしまっていたんだって。
で、なんか、ある日やっぱり
他の男とゴタゴタして、
惚れたはれたで大げんかして、
その男の家を出てきて。
で、夜中で行く場所がないからって、
またその人んちに、
甘えて行こうと思ったんだって。
つねさん ついつい、なのよね。
ノリスケ でも、そんとき、はじめて、
彼を都合よく使ってる自分が情けないっ、
と思って、涙出てきたんだって。
で、涙出てきたんだけど、腹も減って(笑)、
コンビニで、泣きながらおいなりさん3つ買って、
がしがし歩きながら
わんわん泣きながら
むしゃむしゃ食べながら、
その人んちに行ったって(笑)。
いい話だな、と思って(笑)。
ジョージ いいね。いい話かも、それは。
いい話だと思う。
つねさん そうなんだよね。お腹空いたら、
やっぱり、そうだと思うよ。
情けないけどね。
ノリスケ 親が死んでも腹は減る、って(笑)?
でも、怖いわよねえ、夜道に向こうから
泣きながらおいなりさん食べて歩いてくる
ひげ面の大男がいたら。
つねさん ふふ、かわいいかも!
(かわいいのか。つづきます)

2001-08-23-THU
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