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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

涙。その3
ジョン・アーヴィング的人生。

ノリスケ 「ガープの世界」、映画じゃないな、
本読んだとき泣いたな。
つねさん あ、そうなんだ。
ノリスケ 映画になった、あの後のことね、
ガープが死んじゃった後のこと、
延々書いてあるの。
エピローグで。この人はこうなった、
この人はこうなった、っていうことが
ずーっと書いてあるの。
ロバータ・マルドゥーンって覚えてる?
つねさん 覚えてる!
ノリスケ 映画はジョン・リスゴーがやった、
元フットボール選手の
オカマっていうのがいて。
つねさん 性転換しちゃって、女性の権利のために
活動するガープのお母さんの
手伝いしてるのよね。
ノリスケ その人が死ぬシーンがあるの。
すごく綺麗なメイン州の海辺の家の
おっきなベランダに、揺り椅子があるの。
その揺り椅子に腰かけながら、
レモネードを飲んでるの、ロバータが。
で、飲み終えて、しみじみと、
ああ、美味しいな、
人生がこんなに美味しい
レモネードのようだったらいいのにね。
そうつぶやくの。
で、もう一杯、作ってきてもらうまでに、
ひっそり死んじゃうの。ぽっくりと。
つねさん いいね〜。泣ける、泣ける。
ノリスケ そこはねー、そこはねー、泣いたよ(笑)。
僕の中ではね、「ガープの世界」の人はね、
みんな生きてる。なんか、そういうふうな、
変なかんじがあってね。
つねさん あ〜、でもね、わかる、わかる。
ジョージ うん、わかるな。でもね、あれだよ、
たとえば飛行場でね、
恋人同士が泣いているシーンを見て、
2人はどっち? 旅立ちなのか、到着なのか。
つねさん 僕、旅立ちだなー。
ジョージ そっかー。
ノリスケ 旅立ち、っていうふうに、まず思っちゃうなー。
何か理由があって、離れ離れになるんだな、って。
ジョージ そっかー。
旅立ちでは、僕、泣かないからなー。
頑張らなくっちゃ、って思う。
帰ってこなきゃいけないし。
つねさん 帰ってきたときには安堵で泣けるってこと?
ジョージ 帰ってきたときはもう、
もう、さめざめ、さめざめじゃない、
しみじみ泣けるね。
ノリスケ 安心して。
ジョージ 安心して。
ノリスケ それはね、そうだと思うんだ。
ただ、そういう経験、ぜんぜんないんで。
つねさん 僕もないから、わかんないや。
ノリスケ きっとね、あの、今、だから、
とっても大事な人を、どうしても置いて、
自分がどっか行かなきゃいけなくて、
それも、とてもハードなことで、
帰ってこれるかわかんないような状況で、
で、帰ってきたときに
その人が迎えに来てくれたら、
そりゃあ、泣くよ。
ジョージ うちは、あれだもん、
遠距離恋愛があるから。
ノリスケ あ、そっか。
つねさん いや、俺も遠距離はあるよ。
ノリスケ 遠距離の距離が違うんじゃない?
つねさん あ、違うか。
ジョージ 僕は太平洋を挟んでたから。
7年間つき合ってた人の、
最後の2年間は遠距離だから。
つねさん ロス・アンジェルスの人か。
ジョージ ロス・アンジェルス。
そうするとね、もう、涙なんか出ないんだよ。
明日、ロス・アンジェルスに行きます、って。
でも、たとえば、
半年後にロス・アンジェルスに
行っちゃうからって、言われたときはね、
けっこうね、泣けたりとかするんだよね。
もう二度と会えないかも知れないとかって
泣くんだけど。でも、半年目が近づいてくると、
忙しいんだよ、しなきゃいけないことが
いっぱいあって。もう、すごいんだよね。
んで、んーと、
成田でバイバイってするときには、
次にどこで会いましょう、
っていうことを決めてから別れていくから、
もう、そこに向けて一生懸命なの。
だから泣かないの。
ノリスケ そうだよね、泣きゃしないよね。
ジョージ そのかわりね、たとえば3ヶ月ぶりとかに、
そう、ハワイとかで、2人が落ち合うのね。
そうすると、もう、もう、あれだよ、
通関して表に出て、そこにいたら、
びゃ〜〜〜って走って行って、
ぎゃ〜〜って抱きついて、
ブチュブチュブチュとかってやりながら、
もうどうでもいいや、みたいな。
で、泣いてんの。
ノリスケ 2人で。
ジョージ そう。2人で。バカ。キ●●イ。
ノリスケ (笑)。
ジョージ で、離れ離れになってるときに、
たまに、安ーいテレビのドラマとかで、
似たようなシチュエーションで、
それでも2人が支え合って生きてるわ、
みたいなん観ると、泣けてくるんだよね。
つねさん あ、それは泣けてくる。
ノリスケ なんか、自分だったら泣けないのに、
人だったら泣けるシチュエーションって
多くない? そういうの。
ジョージ んー……そう。それで、
何か、自分の幸せを……
つねさん 再確認するの?
ジョージ そう、再確認するの。
そうすると、泣けちゃう。ぎゃ〜って。
つねさん 幸せだったのね。
ジョージ あんときは。あんときはね〜。
でも、すーごい7年間もったいなかったな、
と思いながら別れたんだけどね。
ノリスケ 別れるときは(笑)。
ジョージ フガッ(笑)。うお〜〜っ、
遠回りしたわーっ、とかって(笑)。
特に最後の遠距離恋愛の2年間。
あーっ、遠回りだったーっとかって。
ノリスケ とっとと別れればよかった?
ジョージ そう、私がいちばんかわいかったときの、
この2年間をだいなしにしてーっ、て。
つねさん でーも、遊んでたんでしょ?
ジョージ うん。でも、
今の方がもっとかわいいかな? って。
つねさん ハハハハハハッ。
ノリスケ だから、いいのね(笑)。
ジョージ んー、でもねー。ほんっとにね、
不幸のどん底では、人は泣けないよ。
つねさん あ、それはそうだと思うよ。
あーの、何とかしなくちゃいけないと思うから。
ノリスケ 泣いてる場合じゃないもんね。
つねさん うん。
ジョージ 家、ね、父が会社を潰したときなんて、
もう、親子5人、泣けないんだもん。
つねさん 泣いてちゃだめだもんね。
ジョージ そう。
つねさん 生きてけないよね。
ジョージ お父さんとお母さんは、
1回別れることになるけど、
あんたたちはどっちつくんかいっ? とかって。
ノリスケ もう、実務的な通達が……(笑)。
ジョージ そう。ほんっとだよ、ほんっとだよ。
それで、母はいちおう実家に戻ったの。
対外的には「母さんは家族を捨てて家を出た」
ということにして、迷惑かからないようにしたのね。
僕は父のとこついてって。
で、もう、父は必死なわけじゃない?
子供たちもとりあえず、
お父さんに迷惑かけらんないから一生懸命で。
んー、そのうち妹たち2人は、
母の里のほうに預けられて、
僕、ばあやさんのとこにいて、
お父さんは東京のほうで事業を
やらなきゃなんないからって。
もう、ほんとに一生懸命だったよ。
ノリスケ うん。戦後の日本みたいな感じね?
ジョージ そう。そんな感じ、そんな感じ。
ノリスケ 泣いてないよね、みんな。たぶん、
ものすごいエネルギーがあって、元気で。
つねさん 逆にね。
ジョージ そうなんだよ。それで、1年ぐらいして、
お父さんの仕事がめどがついたからって、
東京に呼ばれて。
ノリスケ 早かったね。
ジョージ そう。で、そんとき、母も来てたんだよ。
んで、母も必死なわけよね。
建前上は母は家族を捨たことになってるから、
人前では「戻ってこれた」というふうには
言えないの。どの面下げて、って思われるから。
だからね、母は、みんなの前で羽田に降りてきて
「一生無休で働けるお手伝いさんが
 一人欲しかったら、私を雇いませんか?」
って言ってたんだもん!
ノリスケ すっごい。はーっ!
ジョージ も、そんときはね、けっこう泣けたよ。
だけど、そこで泣くと格好良くないから、
みんな我慢するんだよ。
それで、車に乗ったときにみんな、
びぇーーーっっ!! て泣いたの。
ノリスケ 再会して。
ジョージ ほんで、びぇーーーっっ!! て泣いて。
バロンちゃんもいたんだけど。
ノリスケ バロンちゃんて、ブルドックね?
ジョージ それがねえ、ブルブルが屁たれるんだ。
臭いの! 人が泣いてるのに!
ノリスケ もう、ほんと、アーヴィングの小説みたいな家っ。
ジョージ そうそうそう。そんな。
だから、ほんっとに悲しいときには、
泣けないものなのよー。
(つづきます)

2001-08-22-WED
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