| ジョージ |
かと思うとふつうの男の子、
ウチの会社の歴史にもね、
何人か伝説の新人っていうのがいたの。
あのね、売り込みに来る子がいるんだよ。
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| ノリスケ |
僕、こんなのできます！
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| ジョージ |
「僕はかなりモーチべーションの高い、
プランナーなんです」みたいな感じで。
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| ノリスケ |
いきなりそういうこと言うんだ（笑）。
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| ジョージ |
そう。やって来て。うさん臭いから、
そういうの絶対に採らないんだけど、
ウチの役員に変なのがいてさ、
採用しちゃったのね。
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| ノリスケ |
いいじゃないかと。面白いぞ、
ああいうのがいて。ひとりいると、って？
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| ジョージ |
やらせてみようって。
そしたら、何にもできないんだよ。
初日から何にもできないのが
わかっちゃうんだよね。
まあ、最初は雑用みたいなことを
やってもらってて。
商圏調査をするのにね、地図を拡大して、
書類を作ろうとしたの。彼の上司が
「この部分をＢ４に拡大して」
って言ったらね、
わかりました、って出てって、
コピー室に入ったきり出てこないんだよ。
小一時間経って、何やってんだ！？ って。
誰かが見に行ったら、すごいですよ！
とんでもないことになってますよ！ って。
さあコピー室が、どうなってたでしょう？
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| ノリスケ |
ひょっとして全部を拡大して、
大っきな地図を作ったんじゃないの？（笑）
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| ジョージ |
そう！ その通り！（パチパチパチ）
もうね、四畳半ぐらいの地図が完成間際！
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| つねさん |
ははははははははは！
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| ノリスケ |
はぁー！ １時間じゃ、
早いじゃない、仕事（笑）。
根本的に間違ってるけど。
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| ジョージ |
すごいでしょ？ もうビックリしてね。
んで、採用担当者は言うのよ、
あいつはとんでもないことをしでかすぞ、
って。
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| ノリスケ |
まだ期待してんだ（笑）。
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| ジョージ |
そしたら、しでかしたわよ。
彼の上司が、この資料を
Ａ社の田中さんって人に送ってくれと
お願いしたんですって。
んで、みんなで帰ろうかなっていうときに、
差し出し郵便物を入れて保管しておく箱を、
何気なしに彼の上司が見たんだよ。
腰抜かしてね、おい！ おまえ！
これはどうしたんだ！？ って（笑）。
さぁ、何が起こったでしょう？
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| ノリスケ |
え？ わかんない！
宛名が書いてなかった？
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| ジョージ |
書いてはあったの。封筒にね、
「Ａ社の田中さん」って書いて、そ
れだけで置いてあったの。
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| ノリスケ |
お？ お？
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| ジョージ |
にわかにわからないでしょ？
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| ノリスケ |
わからない、何を言ってるかわかんない。
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| ジョージ |
普通ね、Ａ社の田中さんに出しとけよ、
って言われたら、会社の住所録を開いて、
Ａ社の住所を書いて、Ａ社と書いて、
田中誰様って書いて、
切手を貼って、出そうとするでしょ。
ところが住所もなくって、
田中誰様もなくって、
しかも、Ａ社「の」田中様って
書いてあるだけっ！
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| つねさん |
６文字。
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| ジョージ |
しかも、切手も貼ってませんでした。
でね、おまえ！ これで届くと
思ってるのか！？ って訊いたら、
だってそういうふうにしろって
言ったじゃないですかぁ、って。
がっちょーん‥‥。
そんときは、彼以外のみんなが集まって、
ウチの近所の居酒屋で反省会したんだよ。
でも、それからいくつか伝説に残るような
できごとがあって‥‥。
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| ノリスケ |
また、長くいたのね、その人。
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| ジョージ |
いや、長くいたんじゃないんだよ、
ひと月ぐらいなんだよ。
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| ノリスケ |
あ、ひと月の間に伝説をいくつも？（笑）
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| ジョージ |
「僕はやっぱりプランニングをするのが
得意です」と言い出して。
それで訊きに来るんだよ。
いい企画書を書くためには、
どうしたらいいですか？
どういう、本を読めばいいですか？
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| ノリスケ |
まあ、考えようによったら熱心だけど。
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| ジョージ |
でも、本読んだってダメだよ、
みんなの仕事を一緒になって手伝って、
いい仕事させてもらって、
数こなさないと
いい企画書なんてできないよ、って。
そもそもいい企画書がどういうものかも、
おまえ知らないだろう、って。
そうすると、わかりました、
って帰っていって、
その30分後ぐらいに
別の人のところへ行って、
いい企画書書きたいんですけど、
どんな参考書がありますか？
って訊いてるんだよ。
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| つねさん |
同じことを（笑）。
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| ジョージ |
みんなに訊いて回ってるの。
で、みんなに同じこと言われるんだよ。
でね、彼は一生懸命
考えたんだろうと思うんだ。
ちょっと街を見てきていいですか？ って。
そのとき、ウチはね、
いくつかのプロジェクトを抱えていて、
そん中のひとつに、ラーメン屋をつくる、
というプロジェクトがあったの。
「僕、それをちょっと任されたいんで」
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| つねさん |
勝手にもう。
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| ジョージ |
んで、２週間街に出て。
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| つねさん |
会社にも来ず？
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| ジョージ |
そう、ラーメン屋を見てきたらしいんだ。
そして２週間後に企画書持ってきたんだよ。
すごいのができました、って。
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| つねさん |
すごいの？
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| ジョージ |
タイトルが「素晴らしいラーメン屋」。
コンセプトは
「どんぶりの中に指を突っ込まない」。
以上！
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| ノリスケ |
‥‥‥‥‥‥うーん！
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| ジョージ |
どうします？ これ。
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| ノリスケ |
うーむ、僕が先輩だったり
上司だったりしたらどうしよう？
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| ジョージ |
どうしよう、でしょ？
それで、その提案書をもらった上司は、
すぐ彼を雇った役員のところに行って‥‥。
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| つねさん |
見せたの？
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| ジョージ |
そう、見せたんだよ。
勘弁してください、もう、
こういうのを書いてくるヤツは、
とてもじゃないけど僕は管理できません。
お願いだから、
彼の配属を変えてください、って。
彼が来てから僕は、
もう自分の仕事もできないぐらいに
頭の中がくちゃくちゃだから、って。
ほんで、変わったんだよね、配属。
そして新しい上司っていうのが、
まあ、けっこう手取り足取り系の人で、
いろいろ教えてね、
モティーべーションを高めたわけ。
んで、まあ、配属も変わったことだし、
みんなで飲みに行くか。
飲みに行って、カラオケボックス入って、
彼は、俺はやる気あります、
素晴らしいです、よろしくお願いします、
これからも、って言って
頭にネクタイをはち巻き状に巻いて、
飲んで歌って大騒ぎをしたんだよね。
で、みんなこれで良かったかな、
これからこいつ、変わるかな、
って思うわけじゃん。
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| ノリスケ |
うん。
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| ジョージ |
ところが！ 翌日、みんなが出社したら、
彼のデスクの上から、
私物がなくなってるんだよ。
あれ？ どうしたんだろう、って。
そしたら、総務から人事の人がやって来て、
「あ、彼、昨日夜中に戻ってきて‥‥」。
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| ノリスケ |
夜中に？ カラオケの後？
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| ジョージ |
そう、夜中に。
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| つねさん |
その後。
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| ジョージ |
辞表出してったよ、って。
え〜っ！？ って。
モティべートした新しい上司、
ちょうどその日が誕生日だったの。
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| ノリスケ |
はははは、かわいそう〜（笑）。
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| ジョージ |
なんで今日みたいな日に辞めるのかなぁ？
っていうような出来事。
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| ノリスケ |
はぁ、理解できないですねぇ。
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| ジョージ |
で、しかも、辞めた後、
１ヶ月とはいえ、
やっぱりいろんな手続きとかあるじゃない？
社会保険とかいろんなのあって。
それの手続きにはね、お母さんが来た。
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| ノリスケ |
あっらまぁ。
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| ジョージ |
で、そのときから、僕たちはね、やっぱり、
みんなが僕らと同じだという
考え方はもうやめようよ、と。
世の中にはいろんな人がいると。
ね。
それ、かなりね、衝撃的だったよ？
それまで、おじさんたちの頭の中には、
世の中には男がいて女がいて、
業界のベテランがいて、
ニューカマーがいて、
偉い人がいて新人がいて、
とかっていうふうな枠組みが
あったんだよね。
で、それぞれの枠組みの
どっかに属する人間は、
こういうことを考えて、
こういうことを言えば、
こうアクションを起こすだろうと
いうふうに思い込んでたんだけど、
実は彼は、その枠組みのどこにも
入ってなかったんだよ。
それこそ、男でもなく女でもなく、
社会人でもなく学生でもなく、
彼はなんでもなかったの。
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| つねさん |
うん‥‥。
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| ノリスケ |
はぁー、実在しない人物みたいだね。
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| ジョージ |
そう、そういう人物はいないでしょ？
でも、いるんだよねぇ‥‥。
おじさんでもね‥‥。
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| ノリスケ |
えっ？ ジョージさんの会社、
ほかにもまだいるの？
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| ジョージ |
いるのよぉ。
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