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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

それが青春、それが老後。その11
男として、女としてよりも、人間として、ね。

ノリスケ その奥様と離婚を考えていたって?
ジョージ そう。
ノリスケ あらま。
ジョージ で、その、実際彼女が、
子どもを連れてイギリスに
帰ったこともあるんだ、っていうの。
僕、聞いてもないのに、
なんでそんなに
ディープな話をするのぉ? って。
ノリスケ 宴会の席でねえ。
ジョージ えーっ!? って言ったら、
いや、あなたになら素直に
僕は話せそうな気がするから、
誰にも話したことがないんだけど、
聞いてくれる? っていうの。
もう、聞くしかないじゃない。
うん、聞くよ、って。
今日は酔っ払いだし、
あんたも酔っ払いだろうし、って。
んで、こういう話だった。
結婚したときに、彼女は自分のために
料理を作ってくれたり、
洗濯をしてくれたり、
掃除をしてくれたり
するもんだと思ってた、
って言うんだよね。
ノリスケ あ!
ジョージ で、そのように教育を
しようとしたんだけど、
彼女はことごとく反発をした、
って言うんだよ。
ノリスケ うーんうん。
ジョージ んで、こんな嫁もらって、
俺、最低だな、って思ってた、
っていうのね。
だけど、今は、自分が、
休みの日には昼ご飯を家族のために作る、
掃除も僕がするし、
自分の着てるものは、
ぜんぶ自分で買いに行く、
って言うのね。
で、なんでそうやって
変わったんですか?
っていったら、
彼女が、もう堪忍袋の緒が切れて、
子ども2人連れてイギリスに帰ったのが
きっかけだったんだって。
ほんっとに、ほんっとにね、
夜逃げだったんだって。
仕事から帰って家に帰ったら、
家が真っ暗で、誰もいなかった。
で、書き置きひとつあって、
その書き置きが、
「私は人間と
 結婚をしたつもりだったけど、
 あなたは人間じゃない」
っていうものだったんだって。
つねさん うわぁ。
ノリスケ きつぅ。
ジョージ 彼のほうも、
すっごい逆上したらしいんだよ。
弁護士を呼んで、
どうやったら子どもが取り戻せるか、
っていうことしか、
考えなかったらしいんだよね。
ノリスケ もう離婚してもいいから、
子どもは奪われたくないと。
ジョージ そう。それで、だけど、
「人間と結婚したつもりだったけど、
 人間じゃなかった」っていう言葉が、
ものすごく引っ掛かったらしいんだよね。
で、ずーっと、その、結婚してから、
彼女との関係を思い出してみたんだって。
彼女がね、一度、
「おれの下着買ってきて」
って言ったら、
嫌だ、って言ったらしいんだよ。
じゃあ、私はあなたの
下着を買ってもいいけど、
あなたは私のブラジャーを買ってくれるの?
スーパーマーケットに行って、
私のブラ、あなた買える?
って聞くんだって。
や、俺は男だから、そんなことしないよ、
って言ったらね、そのときに、
「あなたは男かもしれないけど、
 人間じゃない」
って、言われたことがあるのを
思い出したんだって。
ノリスケ はぁ〜。
つねさん はぁ〜。
ジョージ それが頭の中でガンガンガンガンって。
──あ、そうか、俺は、
男であることにこだわってたけど、
人間じゃなかった、って。
つねさん はぁ〜。
ジョージ 俺はあいつを女だと思って
こだわってたけど、
あいつは女より前に
人間だったんだ、って。
ノリスケ はぁ〜!
ジョージ んで、それまではね、
一日も仕事休まなかった人なんだけど、
幹部社員呼んで、
俺は明日から1週間休みを取るよ、
こういう事情で、
女房に会いに行ってくるから、って。
絶対許してくれないかもしれないけど、
会いに行かないと気が済まないから──って、
1週間休みを取って、イギリスに行ったの。
んで、家に行って、話をしたんだって。
彼女は彼に会って、
「あなたは今日は何をしに来たんですか?」
と訊いた。で、彼はね、
「今日は人間同士の話をしに来ました」
って言ったら、ニコッとして、
「じゃあ話をしましょう」と。
「君はなんで帰ったんだ?」って訊くと、
こう言われたそうなの。
「あなたは、大人です。
 あなたが子どもだったら、
 あなたのために料理も作りましょう、
 掃除もしましょう、洗濯もしましょう。
 あなたが買って欲しいという
 下着も買いましょう。
 でも、あなたは大人で、
 自分のお金で自分で買えるんだから、
 そういうことを言って欲しくはなかった。
 私は、あなたが大人の人間だから
 結婚をしたのに、
 あなたはいつまでたっても
 大人にならなかった」。
つねさん はぁ〜。
ノリスケ うん、お見事。で、彼はなんて?
ジョージ 「うん、そう言われると思って、
 今日は来たよ」
って。
「日本に一緒に帰ってくれたら、
 僕は大人になるし、
 あなたを大人の人間として
 扱おうと思うので、
 よろしくお願いします」
って言ったら、彼女が、
わかりました、と。
帰る前に私も謝りたい、
大人であるあなたに内緒で、
子ども2人を奪った私は最低の人間です、と。
許してくれたら帰りましょう、
っていうんで
家族みんなで帰ったんだって。
つねさん すごい‥‥。
ノリスケ はぁ〜〜〜。
ジョージ で、そういう話をね、してくれたの。
ノリスケ 酔っ払って(笑)。
ジョージ そう、酔っ払って。
なんかね、今日はね、
あなたにこの話がしたくて
しょうがなかったー、って、
できて良かったー、とかって言うの。
ノリスケ はぁ〜〜。
つねさん へぇ‥‥。
ジョージ でも、そうやって考えると、
やっぱり日本の男の人ってさ、
子どもなんだろうね。
つねさん 子どもなんだろうね。
ノリスケ じゃあ今仲良しなんだね、
人間同士だから。
ジョージ そう、一山越えて、いい感じ。
そんなふうにね、このところ、
人間関係について考えることが
いっぱいあったんでしたっ。
おしまいっ。

おしまいっ! また次のテーマをお楽しみに!
ちなみに3人は、この2〜3月でまたひとつ
歳をとったそうです。
お誕生日おめでとうございました。
って言うのが遅くなってすんません。

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2004-04-14-WED
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