APPLE
新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。


バレンタイン? ふん。その3
走り抜ける女。

ジョージ よくないのは、
「まわりがあげてるから私もあげなきゃ」。
たとえば、まわりがみんなあげてるんだったら、
私はあげない、ぐらいの、
気概があってもいいしね。
でも、男の立場にしてみたら、
自分の嫌いなものでも、
貰わないよりは貰ったほうが嬉しいんだよ。
つねさん まあ、そうだ。
ジョージ で、街中がバレンタイン・デーって
騒いでるのに、自分の彼女が
チョコレートのひとつもくれなかった自分は、
ものすごく切ないんだよね。そしたらね・・・
つねさん 愛想でもいいから、って?
ジョージ そう。
男の期待に応えることは
しなきゃいけないと思う。
だけど、普通の人が応えるように応えていては、
自分は伝わらないわけで。
ノリスケ そうかなあ。
それは、チョコだけで伝えようとするからだよ。
ジョージ でもね、自分が好きな男の人を、
もう精いっぱい、
自分がチョコレートで喜ばせてあげる、
と思ってみたら?
けっこういろんなプレゼントの
仕方はあると思うよ。
それこそ、僕だったらあれだな、
バレンタイン・デーに
チョコレートを一緒に買いに行くの。
男の子と一緒に。手つないで。
ノリスケ それ、素敵だね〜。
してみたいなあ。できないけど……。
ジョージ 表参道かなんかに行くんだよ。
んで、メゾン・ド・ショコラに入ってって……
つねさん そこ、好きだね。
ジョージ 今日バレンタイン・デーだから、
チョコレート買いに来たの〜、って言いながら。
で、一口試食してね・・・
ノリスケ 臆面もなく! それが素敵!
恋する二人は、バカになってるのよね。
ジョージ これが僕の気持ち、
とかって言いながら・・・
ノリスケ いいね〜!
ジョージ で、メゾン・ド・ショコラの
反対側のアニベルセールのカフェでもって、
ホット・チョコレートを飲むんだよ。
素晴しくない?
ノリスケ 石投げられてもいい。
ジョージ 今年はたぶん、これ、使えますっ。
ノリスケ 僕は使えない。でも、かわいいよね。
つねさん かわいい?
ノリスケ うん、かわいい。
そうしてる女の子はとてもかわいいと思う。
すごくおもてなししてくれてる感じするよね、
男の子はね。
ただ、そういうのを「けっ……」と思うような
超・男性性にあふれた男には通じないけどね。
ジョージ さり気なさが必要でね。
ダメなのは、たとえば
「バレンタイン・デーだから、
 私のお家に来て」って行ったら、
鴨のチョコレート・ソースがけがあったり、
チョコレート・ケーキの
ものすごく大っきいのが焼いてあると、
引くよね。
つねさん ハッハッハッハ! 重たいよね。
ジョージ あ、この女は、暴走する女なんだ。
で、男的にはね、たとえば、
たとえばさっき言った、
キス・チョコの袋を持ってきて、
あなたと一緒に飲みたいの、って、
キス・チョコをお皿にのっけて出してくる女は、
あ、こういう可愛いことを
ずーっと考えてくれてたんだ、
って思うんだよ。それで、ほっとするの。
だけど、その、部屋に行って、
チョコレート・ケーキ焼いてあると、
ああ、この女は
このチョコレート・ケーキ焼きながら、
俺のことをずっと思っていたのか、
怖いぞ、ちょっとこれはつらいぞ、って。
つねさん 怨念こもってるわけね。
ジョージ 男は一切れしか食えないわけでしょ?
で、食えなくて残ったら、
この女はどうするんだろう?
これ、みんなムシャムシャ食うのかい?
で、食いながら、
あなたが好き好きって思いながら
食っちゃうのか? って思うとすると、
これは暴走なんだよね。
つねさん あんた、あるの? そういうの。
ジョージ うん、なんか今、景色が思い浮かんだんだよ。
景色的にね、
たとえば冬の海辺に立ってるわけだよ、男が。
風が吹いてきます、バーッと。
コートがビタビタビタビタビェーーッ!!
ってたなびいてて。
つねさん (笑)。
ジョージ 向こう側から女が、
デァーーッと走ってくるんだよ。
「あなたーっ!」って言いながら、
デァーーッ! と走ってきて、
途中でなんか、つっかえながら、
ハイヒールを、こうやって脱いで、
両手持ってですよ、バァーンって。
バァーンってですよ、
こうやって飛び込んで来る女は、可愛い。
ノリスケ うん。
ジョージ ね? だけど、デァーッと走りながら、
ブヮーーッと走り去って通り抜けて行く女が、
もしいたとしたらば、
うゎーーっ、この女、こえーぞーって。
自分んちで作ったチョコレート・ケーキは、
「走り抜ける女」です。
ノリスケ 走り抜ける女。
つねさん おぁーっ。ハハハッ、恐ろしい。
ジョージ 愛情を越えた
怨念に近い重たさがあるね。
たぶん、愛情っていうのは、
それを提示されたときに、
断れる程度の愛情がいいんだろうね。
自分んちにウィスキーと一緒に持ってきた
キス・チョコっていうのは、
出てきて1粒でいいんだよ。
1粒食べて、あ、やっぱり俺、
チョコレート苦手だ、って男は言えるの。
言うんだけど、それは、
お前が嫌いなんじゃなくて、
チョコレートが嫌いなだけなの。
でも、嬉しかったよ、
今日はバレンタイン・デーだったから、
一緒に飲もう、になるんだけど、
焼かれたチョコレート・ケーキは、
俺、チョコレート・ケーキ苦手なんだよ、
って言えないんだよ。
ゴキブリホイホイにかかった
ゴキブリみたいなもんだよね。
つねさん あーの、笑い飛ばせないとダメなんだよね。
ジョージ 笑えない。で、そういう愛情はね、
内緒でしちゃダメだね。
もし、そういう愛情を示したかったら、
言うべきだね。
ノリスケ どういうふうに?
ジョージ 「今度のバレンタイン・デー、
 チョコレート作ってあげようか?
 チョコレート・ケーキ焼こうか?」
ノリスケ あ、それは可愛いね。
ジョージ そしたらさらっと言えるじゃない。
「あ、ごめん、俺、
 チョコレート・ケーキ苦手だから」
つねさん そっかー。エーーッて泣かないのね(笑)。
せっかくーって。
ノリスケ 「せっかく」はダメだな。
ジョージ エーッて、こっから先は個別責任ですから。
自分で考えて下さいね。
つねさん そうね。ま、もちろん
相手が好きだったらの話だけどね。
ジョージ そうそうそう。
「わ、いいね、いいね、いいね」って。
焼いてくれたら、
「せっかくだから友だち集めてパーティしようか?」
って、それはそれで素敵な話なんだよ。
バレンタイン・チョコレート・パーティで、
自分の女が焼いてくれたケーキを
友だちと一緒に分け合うことが出きる男っちゃ、
これ、ニ重三重の喜びだよね。
も、ホワイト・デーは期待できるわね。
男にとっては、
バレンタイン・デーに対する
ホワイト・デーっていうのは、
どんな親しい中にも、
愛情をもっておもてなしされたことに関しては、
必ずお返しをしなくてはいけないという、
人間としての礼儀を、
再認識する日と思えばいいかな。
……あんたなんかくれたっけ?
つねさん な〜んにも。
ジョージ ま、肩たたき券でもいいや。
(つづきます)

2002-02-11-MON
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