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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

When I'm sixty-four その4
婚姻届を書いてみたよ。


ジョージ 昔の日本には、
典型的な老後の
イメージがあったんだよ。ね?
つねさん あのー、縁側で…
ノリスケ お茶を飲む?(笑)
そういう意味じゃなくって。
ジョージ だいたい65歳で亭主が仕事を辞めて
退職金を貰って、
その退職金を運用することによって、
亭主65歳、妻が62歳かなんかで、
亭主80で死ぬまでの15年間。
女房88歳まで生きるから、
女房10年間余分に
一人で生きなきゃいけなかったりするっていうね。
ノリスケ 前提で。
ジョージ で、その、女の人は、だいたいね、
だいたい年取った男なんてだらしなくってもう、
ほんとに老人介護やるようなもんだよね。
ノリスケ 何にもできなくてね。
ジョージ そ。だけど、この人を看取ったら
10年余分に神様がボーナスくれてると
思いながら一生懸命、二人で支え合って、
退職金を使いながら死んでいくという
シナリオがあったと思うんだよ。
ノリスケ そうだね。
ジョージ ね? で、子供たちがたまに孫を連れてきて、
その、勇気づけてくれるとかっていうのが
あったんだけどね。でも今、
そういう典型的な老後っていうのは、
そろそろなくなり始めているでしょう?
ノリスケ んー、そうねー。まあ、あるだろうけど、
そっちがめずらしいよね。
ジョージ これは、ゲイ、ノンケに関わらず、
僕たちが知らない老後を、
これからみんなで送っていくんだよ。
つねさん じゃ、作んなくっちゃいけないの?
新しい老後の世界観、みたいな?
ジョージ そう。だから、ボクは、
基本的に一人の老後を集めるっていうことに
なるんだろうと思ったのね。
つねさん あー。
ジョージ 夫婦二人の老後じゃなくて、
たとえ結婚していても、
夫の老後と妻の老後が
一緒になってるっていうのを。
うんと、例えば、女の人が個人として
老後を考えることがあるのか? って思うよね。
つねさん んー。個人としてはやっぱり、考える人、
結婚してたらやっぱり、ないでしょう。
ノリスケ だから、結婚するしないに関わらず、
働いて、自立してる女の人は、あるんじゃないの?
それは、ゲイよりもあるんじゃないの?
つねさん そうなのかなー。
ジョージ あるかも知れないね。だけど、主婦、専業主婦が
自分の老後のことを、
自分として考えるということは…
ノリスケ 考えないかもね。セットになってるね。
つねさん あとやっぱり、そのために私は専業やってます、
っていう、かたちなんじゃないのかな?
だって、自分の分、
そこ貯めるわけにもいかないし。
ジョージ そうだね。難しい問題だね。
でもあれだよ、
老後はある日突然やって来るんだというふうに
考えていれば、経済的な備えもできるだろうし、
心構えとしても、備えもできるだろうね。
つねさん あと30年はあるわけだしね、って?
ノリスケ ううむ。老後に関わることで、
ジョージさんに聞きたかったこと、
もう一個あるの。パートナーシップなんだけど。
『婦人公論』でさ、
婚姻届のようなものを作って盛り上がるって話が、
さも冗談のように語られていたんだけど。
ジョージ (笑)盛り上がったんだもん。
ノリスケ でも、それって…そこらへんをもうちょっと
詳しくお聞きしたいなと思って(笑)。
ジョージ あれは、勢いよ。ただの勝手な。
つねさん あれは、ノリ、ノリ。
ノリスケ 遊びなの?
つねさん 遊びっていうか、なんかね…
ノリスケ 二人で、たとえば今、
指輪もしてるじゃない? 二人して。
つねさん あのー、変な話、今まで付き合った人と
そういうことしたことなくって。
それこそ指輪も、交換したことなかったし。ねー?
婚姻届なんかやったことなかったけど、
なんだろうな? 異様に盛り上がったよね。
僕が盛り上がったのかな?
ジョージ うん、あんたが盛り上がったのよ。
ノリスケ ほんとー?
ジョージさんが盛り上がったんじゃなくて?
つねさん いやー、僕が盛り上がったね、なんかね。
ジョージ あのね、基本的にね、
引っかけるまでは僕はものすごく盛り上がって、
引っかかったら、この人が勝手に
盛り上がったんだよ。だいたいそんなもんでしょ。
こう、抜きつ抜かれつ、じゃない?
ノリスケ ここんちは違うと思ってた(笑)。
ジョージ どういう意味? 逆と思ってた?
ノリスケ 逆っていうか、ジョージさんが、
そういう色んなことをリードするんだろうな、
と思ってた。
つねさん あ、そこら辺に関しては、ぜんぶ僕だよね。
ジョージ けっこうね。
ノリスケ えーっ、びっくり。すっごいびっくり。
つねさん だって、婚姻届もらいに行ったの、俺だもん。
世田谷だったっけ。
ジョージ 置いてあるのはウチだけどね。
ノリスケ それは、判を押して? 封して?
ジョージ 僕まだハンコ押してないからね。
ノリスケ ハッハッハッハ。
つねさん そうなの?
ジョージ サインはしたけど、ハンコがないもん、ウチに。
ノリスケ そういう実務的な理由で。
つねさん ハッハッハッハ、知らないっ。
今の、すげー嫌なんですけどっ(ぷりぷり)。
ノリスケ ハッハッハッハ。
つねさん 結婚したつもりで、
実は結婚してなかった夫婦とかって
あったじゃない、テレビで。
そういうかんじっ!
ジョージ んー。でもね、あれなの、
それをもらったときに、思ったのが、
ゲイ・カップルはね、
結婚のようなことはできるんだよ。
ノリスケ のような、ではあるけどね。できるね。
ま、結婚式挙げようと思えばできるからね。
ジョージ できるでしょ?
ノリスケ できる、できる。
披露宴だけでも、できる。
あの、アメリカでは…
ジョージ あ、アメリカはね。
だけど、離婚はできないのよ。
ノリスケ それは、あの、法律的に結婚してないから?
ジョージ そう、離婚はできないの。
でね、僕、結婚できる、
法的に結婚ができるという
ノンケのカップルが
羨ましいとも何とも思わないけど、
法的に離婚が突きつけられる
ノンケのカップルが羨ましいな、と思うな。
ノリスケ ハハハハハ。
ジョージ だって、だってね、僕の周りに、
離婚経験者って山のようにいるんだよ。
で、彼ら全てが言うのが、
結婚をするに際してのエネルギーよりも、
数倍のエネルギーが離婚に対して必要だ、
って言うんだよね。
ノリスケ あ゛〜。それ、ちょっと違うかも知んないけど、
退職するときって、実はそうなんだよね。
つねさん そうなんだ。
ジョージ うん、そんなもんなんだよ。
だけど、ゲイ・カップルって、
つき合い始めるときは
ものすごくエネルギーを必要とするけど、
別れるときってエネルギーいらないじゃない?
その、個人的なエネルギーは
必要かも知れないんだよ、忘れ去るという、
エネルギーは必要かも知れないけど、
だけど、対外的なエネルギーって、
一切必要としないで別れることができるでしょ?
ノリスケ うん、やろうと思えばねえ。
ジョージ だからね、なんかね、わーすごいな、と思ったの。
この人が婚姻届を持ってきたときに、
あーそっか、この人と別れるときは
離婚の手続きが必要だな、と思ったの。
つねさん あらっ。でも、だから、
ハンコ押してないとか、言わんでよ(笑)。
逆手にとって、だって、って。
なんだ、そうだったっけー?
ジョージ だって、ウチ、ハンコないもーん。
つねさん あ、そっかー。いや、俺、今度、
芋判、作って行くよっ。
(つづきます)

2002-01-05-SAT
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