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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

When I'm sixty-four その2
夢を照らす明かり。


ノリスケ 自分の夢が幾ら、かあ……
でもさ、計算してさ、
それに向かってひたすら頑張る、
頑張ろうっていうふうに思えるかっていうと、
べつにそれほどのことじゃないんだよね、
そもそものきっかけが。
つねさん ん〜。
ジョージ うん、だから、考え方変えればいいんだよ。
どんな仕事をしている人でも、60歳過ぎてから
生活のために働くのは嫌だと思わない?
つねさん そうだね。
ジョージ 例えば、今、立派な経営者の人たちで
70、80でも働いてる人たちいるけど、
彼らは楽しそうに働けてるの。
老骨に鞭打って働くわけでしょ?
生活のためじゃない働き方してるから
働けてるんであって。たまにあの、どゆんかな、
この年末の時期になると、
大っきい道路の横でもって道路工事やってて、
道路工事の手旗持ってるのが
60後半とか70半ばくらいの
おじいちゃんだったりすることがあるでしょう?
で、ああいうふうな働き方だけは、
しちゃいけないんだよね。ほんとはね。
そうすると、60歳から働いてもかまわないけど、
働くのは生活のためじゃないという前提で
働ける状態に身を置くっていうことは、
60までに残りの20年か30年間を…
ノリスケ 蓄える?
ジョージ そ。一銭も収入なくっても
最低限の生活ができるだけの
蓄えを作んなくちゃいけないの。
そうすると、例えば、
60から20年間生きてくとするじゃない?
20年分の蓄えは、
20年間で稼がなきゃいけないんだよ。
そうでしょ? そしたら40だよ。
ノリスケ 40だよ!
つねさん ゾゾッてきたよ。
ジョージ でしょう? で、この人が37だから、
63歳引退のためには、
今年からお金を貯めないといけない。
ノリスケ やだ〜、やだな〜。
ジョージ やでしょう〜? これが、僕らを待っている
「深刻な老後」なんだよ。
で、いくらかかると思う?
ノリスケ いやん、なんか、背筋寒くなった(笑)。
ジョージ 例えば、アパート借りるのにいくら、
たまに映画くらい見るにしても、
外食もほとんどしないで自炊をして、
おべべも滅多に買わないで、
海外旅行も国内旅行も一切しないでも、
毎月25万円ぐらいは要るんだよ。
ノリスケ そうだね。
ジョージ で、60過ぎて毎月25万円必要な25万円は、
今月貯金しとかないといけないってことよ?
25万円の貯金、できてる?
ノリスケ できな〜い。
つねさん も、じぇんっじぇんっ!
ジョージ 恐ろしいでしょう?
なのに、みんなは、なんかー、夢を喋るの。
うつけ者?
ノリスケ それは、ほら、
夢だけを照らしてくれる明かりがあったら、
そっちの方にこう、そこにいたいな〜、って、
ねー?(笑)
つねさん ワッハッハ、思うよねー。
ジョージ そうだね〜。
つねさん そう、その後ろに大っきい現実って影があるのね。
ほんとは。
ジョージ あやややややや。頑張りまっしょ?
ノリスケ あなた、いつぐらいからそういうこと考えた?
ジョージ 僕、3年前にすごく真剣に考えた。
ノリスケ 40になる時だ。
ジョージ そうね、30後半の時。すーごい真剣に考えた。
つねさん 誰かと別れたとき?
ジョージ ん〜、そうじゃないよ、そうじゃない。
ウチの会社が初めて定年退職者を出したの。
つねさん そうなんだ。
ジョージ で、大変だね、って言ったときに、
「大丈夫です」。
その人62で退職したけど、
「85歳までは蓄えがありますから」って。
つねさん うぉ〜。
ジョージ 「86歳になったらのたれ死ぬかも知れないけど、
 85までは大丈夫です」
って言われたときに、
人ってそういうふうにして退職してくんだ、
と思ったのよ。
ノリスケ それ、さっき言った
経営している側の人間にはなかった考え方なの?
ジョージ だって、その人と同い年の
ウチのお父さんっていうのは、
毎日湯水のようにお金を使って、
貯金もほとんど無いんだもの。
だからね、そんときにね、
会社の経営者とかっていう人は、
ゲイみたいな生活をしているんだな、ということ、
金銭感覚……自分って、なんなんだろう?
ゲイ・かける・経営者、
うわー、化け物だ、みたいな感じで。
つねさん 何かそういうきっかけがないと、
考えないんだろうな。
ノリスケ だよねー。両親とも健在だし、
とくにおっきな借金があるわけでもないし、
健康に問題があるわけでもないし、
自分が食べていくお金は稼ぐことが
できてるわけだし、
将来の保証は仕事の面でもべつに、
あるとは言えないけれども、
生きるための仕事じゃないところでも
仕事をしているつもりだから、
そういう中で、すごく真剣に
老後のことを考えるっていうきっかけは、
なかった。
ジョージ 若いころっていうのは、
勢いに任せて仕事を楽しめるんだよ。
だけど、悲しいことに、
経験を積んで年を取るごとにしたがって、
責任のある仕事を与えられて、
みんな責任に負けていくんだよ。
んで、「仕事がつまんなくなる」って
言うんだけどね。
つまんなくなる理由調べてみると、
生活のために与えられた責任を
果たさなきゃいけないと思うから、
どんどんつまんなくなってくんだよ。
ノリスケ うん。
ジョージ 若いころってさ、嫌な仕事だったら
辞めてしまえばいい、って思うでしょ?
ところが年取るとね、
辞めてしまうといけない理由が
いっぱいできてくるんだよ。
それで、どんどんどんどん
仕事が楽しくなくなるの。
生活のために仕事をするようになるの。
それこそ、明日、今の仕事を辞めてしまうと、
その瞬間から老後がやってくるんだよ。
ノリスケ いまの仕事は明日辞めることになるかも知れない、
そのことについては、
そういうこともあるだろうって
想像がつくんだよね。
若い、同世代ぐらいで蓄えがあるとしたら、
そんなに将来のこと考えてるわけじゃなくって、
仕事を辞めた後、失業保険が下りるまでの
例えば3ヶ月間を、食べられるような貯金。
例えば25万だとしたら
75万から100万あったら、
明日ケンカして辞めてやるってなっても、
とりあえず平気かな? っていう意味合いで
貯金を考えている人は、周りにいっぱいいる。
ジョージ ちょっと考え方を変えてね、
……あんまり古い映画観ないんだよね?
つねさん うん、なに?
ジョージ マルチェロ・マストロヤンニと
ジャック・レモンが出てる、
『マカロニ』っていう映画。
つねさん ああ、あんまり憶えてないな。
ジョージ ピーコなら、知ってると思うわ。おすぎですっ。
つねさん ワッハッハッハ…
ジョージ で、これはね、観なさい!
若いあなたたち、観なさい! 『マカロニ』。
マカロニ・ウエスタンじゃないのよ、
『マカロニ』。あのね、その二人が
年をとってから撮った映画なんだよ。
んで、主題がね、若いころから心を通じ合った
友だち同士っていうのはものすごく大切だ、
年を取れば取るほど大切だっていうのが
テーマなんだけど、そんなかでね、
マルチェロ・マストロヤンニと
ジャック・レモンが、んと、港町。
埠頭かなんかの、デッキの上に二人で座って、
平日の真っ昼間、
若い人たちは働いている時間にだよ?
二人がボーッとしてるの。
でね、ジャック・レモンがね、
「あー、時間の無駄遣いだ」って言うの。
嬉しそーに。そうするとマストロヤンニがね、
「そうだね、これから先、
 時間が残り少なくなってきた自分たちが、
 二人で時間の無駄遣いが
 安心してできるのって幸せだよね」
って言うんだよ。
若いころってね、時間を無駄にしたくないから
一生懸命生きているわけじゃない?
つねさん うん。
ジョージ だけど、心の余裕だとか、
人生の楽しみだとかっていうのは、
時間の無駄遣いの中にあるんだよね。
一年に何回か、
海外のリゾートに行くっていうのは、
積極的に時間を無駄遣いするために行くんだよ。
だから、あれ、考えてみたらね、
一時の老後を買ってるようなもんなんだよね。
ノリスケ まさしくそうだ。
そのためにお金を一生懸命貯めて。
ジョージ でしょう?
ノリスケ うん、切り崩していく数日間を送るわけだから。
ジョージ でしょう? 自分が今、蓄えているこのお金、
あるいは自分が今仕事をしていて
稼げているこのお金で、
どういう無駄な時間が買えるんだろうか?
って思いながら働くんだよね。
ノリスケ そうか。買い物すると思えばいいんだ。
ジョージ で、若いころに蓄えた無駄な時間の積み重ねを、
一挙に放出するのが老後なんだろうね。
そんな感じがするね。そうすると、どゆんかな?
時間の無駄遣いが上手じゃないとだめ。
付き合ってくれる人がいないといけない。
つねさん うん、ひとりじゃだめよねえ。
(つづきます)

2001-12-24-SUN
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