しりあがり寿さん、祖父江慎さん、糸井重里に加え、
田中宏和さん(某大手広告代理店勤務)や
柳瀬博一さん(某経済新聞社系出版社勤務)という
男子的な企業ではたらいているゲストをお招きしました。
三国志、宮本武蔵、梶原一騎から島耕作に至るまで、
「男らしさ」の今昔物語は、みんな、止まらないのよ!


第1回
あ、男がいた!
糸井 「男はどこへ行った?」っていう、
わけのわからないタイトルの座談会に
集まっていただき、ありがとうございます。

だいたい、なんでこんな座談会を
やりたかったのかと言うと、
「ほぼ日」のスタッフが、なんだかんだで
たし算をしてみたら、20人近くまで増えていて、
ふと思ってみたら、男って
その中で4人ぐらいなんですよ・・・。
その話を、他の会社の社長にしてみたら、
「あ、ウチも、そうなんですよねぇ」と。
柳瀬 ぼくの職場も、女性、増えてます。
糸井 職場に「男っ気」はほとんどないし、
精神的な意味でも、男たちはぜんぜん、
オトコオトコしてないみたいだし・・・。
「今、男はどこへ行ったんだ?」と。

もともと、そんなにないほうだと思うけど、
自分の中でも、「男成分」は、前より
かなり失われたり風化したような気がしてるし、
あっちこっちでも、
「男だ!」みたいな姿を、
あんまり、見かけないような気がするんです。
Vシネ系の仁侠系の人たちぐらいかなぁ。
でも、それも「業務としての男」ですし。

男成分の行方を探りたいっていう時に、
思いついたのが、このメンバーでして・・・。
それぞれの人の、社会における
「男」との出会いの変遷を聞きたいんですよ。

まずは・・・誰かなぁ。
いわゆる一部上場、いかにも大会社で
会社員とマンガ家の二重生活をしつつ、
いまはマンガ家の、しりあがりさんからかな?
しり
あがり
(以下
  しり)
何だか忘れていることが多くて、
思い出しながらになっちゃいますけど、
とにかく、ぼくは、なんか、
ずっと男らしくなかったんですよ。
中学では軟庭やってたし、
高校入ったら美術部行っちゃって、
大学は美大でバトミントン部で・・・。

男っぽいのが苦手で、
当時だと梶原一騎っぽいヤツとか、
すごいイヤだったんですよ。
痛そう・・・
男って、なんか、痛そうじゃないですか。
糸井 (笑)
田中 痛いですね。
しり で、会社に入ったら、なんだかそこに・・・。
糸井 男がいた?
しり ええ。
糸井 おお!
しりあがりさんがいたのは、
酒類販売の会社だったから、
やっぱり、男は、いたんでしょうねぇ。
その出会いが知りたいです。
しり ぼくらの隣のシマが特販課っていって、
ベテラン社員4人にリーダーがひとりみたいな、
お客さんの中でも、たとえば西武球場とか
デカいところで営業をやっている、
デキる男の集まる課がありまして・・・。
糸井 「スゴ腕」だ。
しり はい。
そのスゴ腕のベテラン4人、プラス、
もっとデキるリーダーが1人いたんですけど、
その5人は、いつも昼は一緒で、
原宿の裏道の狭い道を、
Gメン75みたいに・・・。
糸井 わはははは!(笑)
目に浮かびます。背広の前がヒラヒラする・・・。
しり あれは、見て、「あ、かっこいいな」って。
糸井 すごい。
「男」のアウトプットができているわけだよね。
しり そこでまた、みなさん、
歳イッてるっていうのがまたかっこよくて。
糸井 あぁ、わかる。
しり ヘナヘナしてない。
糸井 当然、酒がらみの話はありましたか?
しり そうですね・・・。
会社に独身寮ってのがあって、
男がパンツ1丁で人がウロウロ歩いてるし、
部屋に鍵がないんですよね、だいたいからして。
糸井 あぁ、イヤなくらい、男くさいなぁ(笑)。

しり で、まぁ、その独身寮とかで、
新人歓迎っていうことで、毎日、
何かと趣向を凝らしては飲まされたんですけど、
いやぁ、あれは、けっこう吐きました。
毎朝、急行とか乗れないんですよね。
いつ吐くかわからないから各駅で途中で降りて。

会社の先輩が、
「いくら飲んでもいいし、
 会社に来たらどこかでぶっ倒れててもいいから、
 とにかく会社に来い」って言うんで、
とにかく会社に行って、
そのまますぐに2階のトイレでオオオッて吐いて。
しばらくトイレで座ってたり・・・。
柳瀬 うわぁ(笑)。
しり やっぱり男の人と女の人の違いを感じたのは、
女の人って、そういう時、
「体調が悪くて」って平気で休むんですよね。
田中 それ、ありますねぇ。
しり おい、昨日あんなに飲んでたからだろ!みたいな。
糸井 (笑)
しり 女の人は体調悪いって休むし、
男は会社に出てきて吐く。
ま、どっちが利口か全然分からないんですけど。
糸井 もともと男臭さが苦手だったしりあがりさんは、
「・・・ここは、俺のいるところじゃないなぁ」
というふうには思わなかったわけですよね。
しり あ、それはそれで、
「絵に描いたように」というか、
分かりやすくて、単純でしたから。
目上と目下、位の上下がハッキリしていて、
下の人はどうふるまう、上の人はどうふるまう、
うまくいくかどうかは別にして、モデルがあるので
糸井 なるほど、つかみやすかった、と。
しりあがりさんがかっこいいと思った
「男くささ」は、何かありました?
しり やっぱり、責任を取ってくれるところ。
糸井 そのシンボルとしての絵が、
さっきの歩くGメンですねぇ。
しり (笑)もう、5人一丸で。
糸井 責任の5人が歩いてる・・・
そりゃ確かに、見たら「おお」って思うね。
しり まぁ、そうやって歩いて
どこ行くかって言ったら、
千円ぐらいの定食を
食いにいくだけなんだけど・・・。
糸井 (笑)
しり ぼくも会社で、けっこう
いろいろ失敗してたんですけど、
怒らないで「・・・わかった」と言うとかね。
「俺を甘やかさないほうがいいよ」
とか、内心では言われながらも思ってるんですけど。
「そんなことしてると、図に乗るよ?」とか。
糸井 (笑)
しり でも、さしあたり、
「ああ、いい人だなぁ」と。
糸井 さしあたり(笑)。
しり リスクを飲みこんでくれる感じは、
かっこいいですよね。
糸井 「リスクを飲みこんでくれる」か。
それは何か、今日のテーマの
大きなヒントが隠れていますね・・・。
  (つづく) 


第2回
男は、つまんない?
糸井 次は、祖父江さんですね。
祖父江さんは、最初は工作舎という
ややこしいというか、特殊な会社に
はじめは勤めていたわけですけど・・・。
祖父江 そこにいた時は、ややこしいなんて
感じなかったんですがね・・・。
しり 忙しすぎたんじゃない?
糸井 働き者だったって話ですよね。
祖父江 働き者だったねぇ!!
しり うん。
糸井 やっぱり、
しりあがりさんと祖父江さんは、
多摩美の漫研で一緒だったから、
おたがい知ってるんだ、そのことはもう。
しり そうです。
祖父江 ぼくは生まれてから、
あんまり、男と女について
考えたことがなかったんですよ。
だから、ちょうど
今日、いい機会だなぁと思って・・・。
糸井 あははは(笑)。
「ちょうどいい機会」!
祖父江 男くさいっていっても、
別に筋肉とかではなさそうだし、
何だろうなぁって・・・ただ、もともと、
「男子っておもしろ味がないな」
とは、思ってたんですよ。
糸井 おお!
祖父江 男子って、つまんないですよねぇ。

男社会の中にいたことって、あまりないんです。
大学の時に男子寮だった、
というくらいなんですよ。あとはだいたい、
男も女もいるようなところで生きてきたんです。
ただ、男子っていうか、
「男!」みたいな感じの男子って、なんか、
やってることが同じようなことばっかりなんです。

・・・「よく飽きないな」って感じでね。
糸井 (笑)うまいこと言うなぁ。
祖父江 大学の寮にいるのは全員男だったんだけれども、
毎日やることが必ずもう決まっていて、
ぼくの部屋は、麻雀を打つ部屋だったんですよ。
糸井 うんうん。
祖父江 それで、みんな食べてるものも
それぞれ好きなものが決まっていて、
この人はこれを必ず食べるし、
この時間にみんな集まるし、
同じことをやって、くりかえしの毎日で、
「ワーッと行って、ドーンとかやって、ワー!」
そういうような・・・。
田中 (笑)
糸井 その通りだよ。
祖父江 飽きちゃってねえ。あんまり寮にいなかったよねえ。
糸井 その観察は、見事です。
たとえば、経済新聞片手に
赤鉛筆使ってる人でも、毎日で言うと、
同じことをくりかえしているわけですよね?
柳瀬 そうです。毎日やってます。
糸井 で、毎日だいたい
同じような話をして、飲んだくれてますよねぇ。
柳瀬 ええ。「日本の経済について」とか。
田中 (笑)
糸井 しりあがりさんが言ってた
Gメン75たちも、
お昼食べに行く時は毎日その姿だよ。
男からすると「・・・バレたか」っていう
すごい観察ですよねぇ。
 
祖父江 だけど、工作舎の時に、男子のことを
「あ、かっこいいな」
って思ったことは、あるんです。

それは何かって言うと・・・
だいたい、女性社員って、
「ほどあい」を知ってるんですよ。

「もう疲れたから帰りたい」とか、
「それはちょっと無理です」とか・・・。
女子には、身体と仕事のバランスがあるんです。
糸井 うん。
祖父江 ただ、男は身体が壊れても
半分寝ながら原稿を書いているし、
靴の紐を結びながら睡眠してるし・・・。
とにかくね、やり過ぎるというか、
がんばっちゃうんですね。

で、がんばっていいかどうかは
わからないんですけど、
何かその夢中になるなり方っていうか、
とてつもなくハマッていくところが、
逆にかっこいいなぁと思いまして。
糸井 そこは肯定的にとらえることが
できたわけですか。
祖父江 うん。
糸井 自分もそうだったんですか?
祖父江 自分も、そうでしたねえ。
なんか、やっていくとどんどん・・・。
糸井 もしかしたら、そういう祖父江さんを見て、
他の社員たちが祖父江さんのことを
「男っぽいなぁ」って見てたかもしれないですか?
祖父江 あ、それはぜったいないんじゃないかなぁ。
女子と遊ぶのが、割と好きだったんですよ。
そのほうが、ラクなの。
男子と遊んでる時って、何か気負いと言うか、
「よしっ!」っていう気持ちが必要で・・・。
「この人とおつきあいするぞ」という・・・。
糸井 男とは、人間関係が「社会」ですよね。
祖父江 はい。社会。
男子とは、気楽にお話できないんですよね。
しり そうですね。
漫研でも、女の子といる時は
すごいキャーキャー話してるけど、
男といる時には敬語になってたりしなかった?
祖父江 してたしてた。
糸井 (笑)
祖父江 そういえば、しりあがりさんも、
「戦争」っていう
鉛筆立ててチョンチョンチョンってやるのが
すごく好きでねえ。
同じクラブだったんですけど、
部室に行く度に
「戦争やろう、戦争やろう」って言って、
みんなが「またかよ・・・」って。

「戦争」
田中 (笑)
糸井 それも、過剰にやってたわけですね。
祖父江 過剰なんですよ、必ずそれなんです。
それ、きっと鍵じゃない?
糸井 なるほどなぁ。
共通して確かに、
「過剰」っていうことについては
男像として、浮かび上がってくるね。
しり 過剰っていうか、
女の人って「自分が大切」とか
「自分」っていうのをモロに出すけど、
男の場合は仕事とか会社とか、
漫画なら漫画に燃えるっていうような
大義名分がないと、
何か、かっこつかないような・・・。

「自分のために何かをする」っていうのは、
ちょっとダメみたいな気が起こっちゃってて。
糸井 それもキーワードですよね。
ぼくも確かに「男らしい」っていうのは
基本的には、ニガテなんですよ。
でも、虚構としてはすごく好きで・・・。
さっきのGメン75の画面みたいっていうのも、
俺は絶対に「おー!」って感動するんですよ。
田中 (笑)
糸井 それに、スポーツも好きなんです。
そこのところで、過剰に男っていう
マッチョな世界をものすごく好きで、
泣いたりしてるわけ・・・でも、
自分の生活の中には、その要素がまったくない。

つまり、ポルノグラフィと同じように、
男像がファンタジーなんですよ。
勝新がおもしろいっていうのはわかるんだけど、
「ほんとは、そういうヤツは強くない」
っていうのを、同時にどこかで感じているわけです。
その「過剰の滑稽さ」を、
いつもたのしんでいるような気がするなぁ。
 
(つづく)   


第3回
男の通過儀礼。
糸井 続いては、いまだに兜町のにおいさえ漂わせる
「某経済新聞社」系の出版社にいる柳瀬さんですが。
(※柳瀬博一さんは、今年のはじめの「ほぼ日」の、
  こちらで「イトイ経済新聞編集長」として登場)
柳瀬 ええ、そこの雑誌部門の会社です。
入社して配属されたのは、
ビジネス雑誌で、
もうモロに新聞系編集部!
って感じでした。
会社に入ったのは1988年でして、
バブルが来るちょっと手前だったんですが。

編集部に配属されて、
オフィスに入ってまず思ったのは、
マンガやテレビで見ていたように、なんか、
部屋の上のあたりに、煙がたちこめてて・・・。
糸井 おお!(笑) タバコね。
柳瀬 朝いちばんなのに、すごい煙・・・。
泊りでソファにシャツ半分出して
寝てる人は、当然見かけましたよね。

当時は、まだ、
ワープロすらほとんどなかったんで、
みんな鉛筆で書いていました。
片手に煙草をこう持った感じで・・・。
みなさん、椅子をナナメにしながら、
並んで原稿を書いてるわけでして。

カタいビジネス誌だったんですが、
雰囲気的には、当時はまだ、
事件記者の世界だったんですよ。
大学出て、ビジネス雑誌の記者になって、
いきなり「男らしさ満載」の世界。

今、ぼくは38歳なんですが、
当時のデスクがそのぐらいの年齢です。
ただ、感じとしては、デスク、
ざっと今のぼくより10歳は老けてましたね。
その老けかたが、なんか、男くさかった。
糸井 あぁ、なんとなくわかる。
怒鳴ったり、原稿を破いたりという
ドラマで見るような世界は?
柳瀬 ありました。
糸井 (笑)ワクワクしてきたねぇ・・・。
柳瀬 ぼくが編集部に配属された初日、
いきなりデスクに、
「とりあえず原稿書け」
「あ、何を書けばいいんですか?」
「ここに電話しろ」
当時、原宿に
ヴィッテルアクア何たらクラブというものが
できたところだから、それを取材しろと。
ただし、時間がないから電話取材でイイぞ、と。
で、今日仕上げろ、と。

取材の仕方もぜんぜん知らないまま、
電話で取材して、まぁ、原稿を書いたんです。
17字×25行の原稿だったんですけど。

この原稿がですね、
まずデスクの前にキャップがいまして、
キャップは30歳くらいなんですけど、
この人のところを通るのに
7回ぐらい書き直しさせられまして。

まず、最初に見た時、
「何言いたいんだか、ワカらない」
と言われまして。

そのあと、
ダメ、ダメ、ダメ、ダメっていって
7回書き直させられて、
その間すでに4時間くらい経っていまして。
5時くらいから書いて、7回突っかえされて、
10時ぐらいにようやくキャップの関門を抜けて、
デスクんところに原稿持って行ったんですね。
糸井 うわぁ・・・。
柳瀬 40歳ちょい過ぎのデスクが、
これがまた、タバコを・・・いや、
「ヤニ」って言ったほうが合ってるかもしれない。
ヤニをくわえながら、低い声なわけですよ。
パッと原稿見て、
「オメェ、日本語ワカってねェみたいだな」
糸井 (笑)
柳瀬 「さっき7回書いたのは何だったんだ」
という心の叫びがあったんですけど、
それでそこから、デスクのところで
7回ほど、また、書きなおさせられまして、
その25行の原稿が、
結局夜中の1時半くらいに、ようやく
「じゃ、そろそろこれで、通すか」
っていうことになって・・・。
糸井 それでも「しょうがない」というレベル?
柳瀬 はい。
当時は鉛筆書きの原稿に
赤ペンで朱を入れられるんですが、
「おう、できたぞ」
とあがった原稿が、もう真っ赤っ赤。
25行の原稿のうち、ぼくのオリジナルの原稿で
残っていたのは、3行ぐらいだけでした・・・。
「合計14回も書き直して、それかよ!」と。
祖父江 よく数字を覚えてますねえ・・・。
糸井 いや、それだけやられたら、
よっぽど、覚えてると思うよ。
柳瀬 よっぽどぼくがヒドかったのか、
それとも、「そういう通過儀礼」だったのか。
どちらにしても、そういうのが
軟弱なぼくは、すごく苦手でしてねぇ。
糸井 はじめに、精神をボコボコに殴っちゃう、
みたいなことですよね。
柳瀬 そうです。
「ウエルカム・トゥー・ザ・新聞ワールド!」
みたいなそういう話は、けっこうありまして、
3〜4年経った先輩記者でも、
デスクと原稿をやりとりしていて、
何度やっても、通らないんです。そのうち、
「あんた、向いてないよ」
「窓あいてるから、飛びおりてイイよ?」
とか。

しり (笑)
糸井 言うねぇ。
柳瀬 ワープロが普及したての頃は、
電源抜くと、データが消えちゃいましたよね。
「今書いてるオマエの原稿はダメだ。
 どんだけ書き直したってダメだ!」
ってブチッて電源を抜かれてぜんぶ消されたりとか。
「キミの原稿を見てると、目が腐るんだよねえ」
そういう世界だったんですよ。
その男くささ、好きなやつは好きなんでしょうが、
ぼくはけっこう苦手、というか(笑)

ただ、その一方で
こういうデスクが侠気あるんですよ。
自分の通した原稿は責任を持つというか、
どんなクレームが来ても、
「おう、クレームが来たら、
 ぜんぶオレに任せろ!」って感じでした。
糸井 そこで、「ホロリ」だ。
柳瀬 バンバン殴られた後だから、
そういうの、効くんですよね・・・。
ほとんど洗脳みたいですが。
糸井 カツアゲされた後、
「電車賃、持ってんのか?」と聞かれると、
ああ、いいひとじゃないかって思うという、
そのシステムだね。
「いいひと」でもなんでもないのに・・・。
柳瀬 ぼくのやっていたビジネスの方面って、
ほとんど男社会だけの仕事でして、
アシスタントの女性は何人かいるんだけど、
女性記者は一人しかいなかったし、
ぼくが配属されたころは、
「めずらしいから、女社長に取材に行こうか」
というくらい、男ばっかの世界でした。
マーケット男濃度が世間でいちばん濃そうな、
ほとんど、男子高みたいなとこだった。

だから、男はどういうものと言われると、
あまりにも毎日男だったから、
パッと、思い浮かばないぐらいで・・・。
比較対象としての「女の論理」が見えないぐらい、
同僚に女がいない世界だった。
今は、同じ雑誌に女性記者も10人単位でいるし、
ずいぶん違うと思うけど。

日々男っぽい空気で、
男の足のひっぱりあいだとか、
男の女々しさなんかも含めて、
男しかいないから、とりたてて
「男とは何だ?」なんて改めて思わない。

お酒も好きな人が、多かったです。
ほんと、血ヘドを吐くまで飲む人もいましたし。
糸井 (笑)やっぱり、飲む打つ買うなんですか?
柳瀬 新聞記者って割とカタいので
「買う」はぼくのまわりではなかったですけど、
「飲む」「打つ」のほうは、ありまくりですね。

「ヤナセ、原稿しあげとけよ」と言われて
こっちは原稿書いているんですが、
「じゃ、オレ、飲みに行ってくるから」
って飲みにいっちゃうんですね。

今から考えると、あの人たちは
よくあれで仕事をデキてたなと思うんですけど、
ほとんど真っ赤な顔をして、
「おう、デキたか?」
みたいに、夜中に帰ってくるわけですね。

「できました」と言うと、酔った目で原稿を見て、
「おい、ここの話、詳しく言うとどうなってる?」
って来るわけです。
あるメーカーの記事だったんですけど、
酔ってるのにポイントを突いた質問をされまして。
糸井 当たってるの?
柳瀬 当たっているんです。質問に答えると、
「オマエ、そこんとこがおもしろいんだよ。
 ちょっと待ってろよ・・・」
とダーッと赤字を入れてくわけですね。

で、1時間ぐらいして
赤字の入った原稿が戻ってきて、
「おう、じゃあ、あとはきちっとやっとけよ」
とまた飲みにいっちゃう。

改めて清書した原稿を読むと、
ツボを突いている原稿で、
「俺の原稿と全然違う! プロじゃん!」
しかも、原稿用紙の隅に
赤字をぐちゃぐちゃに入れて
書いていたのに、原稿の行数も
ほとんどピタッと収まっている。

もちろん、全員じゃないんですけどね。
なんか、そんな本宮ひろ志的な人が、
その頃は、何人もいたんです。
糸井 理屈は通っていないけど、
あることはあるんだなぁ、そういう世界。
柳瀬 過程のめちゃくちゃさと
アウトプットのよさにギャップがあるので、
そのギャップが、男くさかったですね。
糸井 あぁ・・・。
 
(つづく) 


第4回
男らしさの境界線。
糸井 じゃあ次は、
某大手広告代理店の田中さん
見事に「男社会」のハズですよね。

とっても大きい会社で、
営業が大きなチカラを持ってますから、
「飲む」だの「抱く」だの、そういう話は
きっと、昔はさんざん飛びかっていたでしょう。
今はどういう感じかも含めて、
伺いたいんですけど。
田中 最初、会社に入った時の「男らしさ」は、
やっぱり、「おごってくれる人」でした。
糸井 (笑)わかりやすくてイイなぁ。
田中 それまでは学生で、焼肉を食べるのも
ちょっと躊躇するような暮らしだったのが、
会社に入ると、お昼はおごってもらえるわ、
夜には4軒5軒連れまわされるわ、みたいな。
「よくお金を使う人たちだなぁ」と思いました。
あと、やっぱり、男はお酒を飲みますねぇ。
糸井 来たね、「金」と「酒」という要素。
田中 金と酒でした・・・。
当時はやっぱりまだバブル期でしたから、
会社も余裕がありまして。
社員のほうから、率先して
景気をよくしていた感じがありました。

会社に4〜5年もいると、
別の男らしさに感激しちゃうんですよね。
つまり、「責任を取る人」でした。
糸井 お、いい感じの話が来たよー。
田中 敏腕営業部長系なんですが、
お前ら好きにせいと。
でも得意先の情報はこまめに入れたりして、
企画やプラン自体を誘導していくわけですよ。
で、最終的な責任は、ぜんぶかぶると。
「お前らのせいにはしない」という・・・。
今の男らしさは、そっちかなぁというか。
糸井 それは、参考になるなぁ。
田中 それと、もともとは
「金払いがいい」「よく酒を飲む」「よく食う」
そういうのが男らしく見えてたんですけど、
だんだん、やっぱり女性が増えて来たんです。
そこでちょっと、動きがありますね。

特に、ぼくがいたマーケティングは
女性が入りやすい部門だったので、
ちょうど、雇用機会均等法1号っていうのが、
ぼくの5年くらい上にあたる人なんですよ。
今年、40歳になるくらいの人から・・・。
入社した時は男子高みたいだったのが、
今は国立大学ぐらいの男女比になっています。

会社の中でいちばん男っぽいとされる局は、
もう、博打打ちみたいな男の世界なんですけど、
その世界でも、最近、女性が入ってきてまして。
宴会で脱ぎ芸を出しにくくなってきたとか、
そういう話は、聞きますけどねえ・・・。
糸井 脱ぎ芸は、男の範疇ですね。
女性が増えてきて、
仕事的には、どういう変化が出てきましたか。
田中 団塊の世代とそれより下との違いって、
「団塊の世代には、
 男っぽい演技をしている人が多いなぁ」
ということだと思うんです。

まず、男の先輩からの、
「女の怒りかたがわからない」
という話を、よく聞いてたんですよね。
男はわりと怒鳴りやすいと。
「こら、田中!」みたいな感じで大声出せばいい。
でも、女の怒りかたがわからん、みたいなことが、
たぶん、男っぽい演技の
崩壊の兆しだったような気がするんですよ。
糸井 それは大きいなぁ。おもしろい!
田中 立場があると、責任が増えて、
演技をしやすくなるじゃないですか。
だけど、団塊の世代は人数が多いので、
だから、ポストがあまりなかったりして、
のびのびと演技をする場がなくなってきている。
そういうところは、ありますね。

どこの会社でもそうなってきてる気がするから、
見渡せば、「男の演技」っていうのだけが
浮わついている時代になってるかもしれないです。

糸井 参考になったなぁ。

柳瀬さんの最初に勤めた職場では、
女性が増えたことで何か変わりましたか?
柳瀬 ずいぶん変わってきました。

昔は、女性がほとんどいなかったから、
女性記者は男以上に過激な男になって、
そのへんでゴロッと寝てたりしてましたが、
今は、全体的には、違いますもん・・・。

ぼくの勤めているところで、
職場が禁煙になったということが
まず、大きな変化だと思うんですけど。
糸井 ああ、タバコとの関係は大きいですねえ。
柳瀬 3人くらいマッチョな人がいて吸ってても、
もうタバコはにおわないんですね。
そういうデオドラント効果が・・・。
糸井 (笑)デオドラント効果。うまいこと言うなぁ。
柳瀬 50人中、仮に女性が1人だと男化する。
今度、10人以上に女性が増えてくると、
今度はまた、別の組織になります。
糸井 消し合うんですね、匂いを。
柳瀬 そうなんです。
だから、ぼくが新人の時に
デスクを見ていた感じで「こわい!」とは、
今の大卒新人たちは、思っていないだろうと。

小学校の時に想像していた
「オトナになった時の自分」よりも、
今の自分はガキみたいだという話とは、
かなり違うところで、そうなんじゃないでしょうか。

サザエさんの波平さんは54歳で、
実はイトイさんと同い年なんですよ。
波平さんが男らしいかはさておき、
昔のお父さんって、
波平さんのイメージじゃないですか。

でも、島耕作は55歳で取締役になっている。
島耕作は、波平よりも年上なんです。
糸井 あいたたた。
柳瀬 島耕作は、作者の弘兼さんと同年齢だから、
34歳で課長になったところから、ずっと続いて、
部長になって、取締役になって、と来てる。
そのへんの団塊の人たちが、ちょうど、
ぼくが入社した時のデスククラスの下の方で、
男らしさの分水嶺になっているんですよ・・・。

だから、団塊の世代以上の人と話さないと、
男くささのマーケットには、
もう、触れられなくなってきているような。
ですから、さっきぼくが言ったような
男くさい職場は、新聞社でもなくなってきました。
糸井 なんか、おもしろいねえ。
晴れから雨になったり、
雨から晴れになったりする途中には、
「くもり」があるように、
男くささが消えていく過程には、
「くもり」の時代があると思うんです。

ぼくはちょっとわかったんですけど、
その「くもり」にあたるものって、
「ビジネスマン」や「ニューヨーカー」という
そういう媒介物なんじゃないでしょうか。
アメリカンでMBAな人が、
男のイメージの間に入ってきたんじゃないですか?
田中 あ、確かに、前は、
男っぽい人はみんな英語できなかったですね。
糸井 で、「英語できる派はかっこいい」という
流れになって行ったんです。
田中 そうですね。
社内でも、最近は昔よりも国際派が活躍してる。
糸井 (笑)「国際派」かぁ・・・。
その大きなジャンルも、語りあいたいぐらいだ。
つまり、民族派の「男らしさ」は消えてきた。
田中 やっぱり、その男っぽさでは、
グローバルに利かないんですよね、きっと。
糸井 (笑)つまり日本民族としての
武士(もののふ)ぶりが、そこで消えたと。
万博あたりがあやしい時期かもしれないね。
柳瀬 やっぱり世代としては団塊の世代とか。
糸井 団塊が変わり身したやつと・・・。
田中 泣き別れで、転向派が出てきた。
糸井 (笑)転向派が出て来たんですよ。
だからその、今でもおふくろの味を懐かしむように、
たまに、「男」というものの演歌をうたうんですね。

おとなりの韓国でも、きっと昔は
「マッカリ飲んで殴りあった仲」
とか、そういうものがあったと思うんです。
でも、今は、安貞桓みたいな顔で、
ロン毛で指輪にキスですから・・・。
柳瀬 ・・・ああ、いかんですねえ。
糸井 (笑)「いかんですねえ」って!
 
(つづく) 


第5回
 男の博打性。 
糸井 一周まわったところで、
自分の男観を言うと・・・
ぼくが、「男らしいなぁ」と
最初に思ったのは、橋本治くんと話した時です。

男らしいという言葉は
こういう時のためにあるんだと思ったのは、
単純なんですけど、若いころのある日、
「糸井さんさぁ、お金貸してくんない?」
って訊かれたことなんですよ。
「いくら?」
50万円か20万円か、10万単位のお金。
若い者どうしだから、右に左に、
ポンポン動かせる数字ではなかった。

その時に、自信を持って
「お金を貸してくれ」と言った態度が、
まず、ものすごくかっこよかったんですよ。
「悪いねえ」とかいう言いかたではなくて・・・。
それだけキッパリ頼まれたら、
こっちも勢いで「いいよ」って言いますもの。

「家賃が払えないから、
 返すのはいつのつもりだけど、
 それよりも後になるかもしれない」
とか、もう理路整然と言うわけ。

オレもなんでそこで
男らしいなぁと思ったのかわかんないけど・・・
「自立してる感じ」があったんですよ。
「借りる」っていうことについても、
自立して確信を持った人が
「貸して」と言った時には、爽快感さえあった。


返そうが返すまいが、
彼はもうキッパリしてるの。
「お金渡すの、いつがいいの?」
とぼくが訊けば、
「なるべく早いほうがいい」
とふつうに言う。卑屈なところがない。

翌日会ってお金を渡した時、本気で
「このお金、返ってこなくてもいいな」
と思いました。
柳瀬 あぁ。
糸井 その後にも、
勝手に向こうのタイミングで、
「このあいだのお金だけど、
 返せるようになったんで返すよ」
って言うのも、何にも邪念がないんですよ。

「あ、この男は・・・」という感じなんです。
それ以来、ぼくは橋本くんを
男らしさのひとつの基準にしていますね。
柳瀬 へえー。
糸井 マッチョな男の人は、
みんなそこから見えるんですよ。
ムキムキしてる人が「俺も男だ」と言う時は、
そこに至るための演技プランがある、とわかる。
「男らしさの演技」って、
絶対にどこかで先に考えてるんですよね。
「ここですっくと立つべきだ」みたいな。
田中 (笑)

糸井 男を売る商売の人を
ぼくはたくさん知ってるけど、
みんな、斬ったはったってことは、
やっぱり、ちょっと無理しないと
できないことなんですよ・・・。

そのさびしさや弱さが見えるから、
橋本くんの自立した感じが、
すごく男らしく見える。

・・・あ、そうだ。
今してた話とはぜんぜん関係ないけど、
妙に喧嘩が強かったりいっぱいしてる人とかの
知りあいがいたりするんだけど、
そういう人って全員卑怯なんですよ。
腕に覚えがあったり、力がある人ほど、
下駄で殴ったり、物を投げたりします。
弱い人ほど、素手で戦う・・・。
しり ああ。
糸井 それは、教養として覚えておこうと思った。
田中 一般に、フェアプレイって
男らしいとされてますよねえ・・・。
フェアプレイでは、
勝てないってことなんですか?
糸井 強い人は、フェアプレイをしない。
宮本武蔵って、きたない男ですよね。
坂口安吾の青春論は、
まるで、宮本武蔵の生き方じゃないですか。
どのくらいきたないことをして
どちらも、生き抜いてきたかっていうのを、
誇張しているわけですけど・・・。
柳瀬 (笑)
糸井 男って言うと、ヤニ臭さとか酒とか、
小道具としては、いっぱいあるだろうけど、
ぼくの「男」の中心軸には橋本くんがいます。
それに比べたら、自分も含めて、
たいしたことないなぁと思えるんです。

「お金、戻ってこなくてもいいや」
と思えたくらいの強い気持ちで、
「こいつと一緒に失敗しよう」とか、
そういうことを考えて仕事をやるようにすると、
リスクを取るというより「ナイス失敗」という
そういう捉えかたに、なりますよね。

そういう仕事ばっかりするようになると、
酒を飲んで思い出ばなしなんかしなくても、
プロジェクトを組んでいるそれぞれの中に、
必要な情報が蓄積するというか・・・。
いま、ぼくはそうなっています。

そうなると、
ずるい気持ちで依頼して来たやつは、バレますね。
ノーアイデアなんだけど、
仕事をこなすとギャランティだけは動くなぁ、
というところで来る仕事って、あるじゃないですか。

「ちょこちょこやっておくと、
 何か格好はついて、
 けっこう大きなお金が動く」

そういうタイプの仕事を持ってくる人の
浅ましさについては、よく見えるようになった。

「そいつは滅びるな」っていう予感があるんです。
死臭が漂っているから。
活気づいてイイ仕事をしてる人は、
そうじゃなくて、新しい価値を生むことへの
「責任を取る組みたて」を持っていますね。

それは、かっこいいんですよ。
柳瀬 うーん、なるほどなぁ。
糸井 これって、わかるまで実験を続けないと、
リアリティのない話なんですけど。

こうなってくると、
男っぽさの話かどうかはわからないけど、
責任を取る感じって、
リスクをおそれないってことですよねぇ。
リスクへの覚悟って、「賭博」だもんね。

確信を持って賭博をして、負けた時には、
「ああ、気持ちよかった!」って言える人。
これには、男女問わず説得できるんです。

それって、早い話が、
家庭を持つ時のプロポーズだって
ほんとは同じじゃないですか。

失敗の可能性を押し隠すわけにもいかないし、
失敗については語らないという手もあるし、
いろんな方向がありますよねえ。
その中で、「俺んとこへ来い!」って言うのは、
やっぱり、すごいリスクですよ。
柳瀬 いまだに取れませんもんね。そのリスクを。
田中 (笑)
糸井 まあ、めぐりあわせとかも、あるでしょうけど。

「責任を取る」という男らしさの時には、
最初のヤニ臭さの要素は
ちょっとは残っているのかな。
それとも、もっとすごく違うものなのかなぁ?

なんだかんだ話していても、
血の中に含まれた男性性みたいなものは、
まだ、自分の中に残っている気がするんです。
しりあがりさんがGメン75を見た時に
「オオッ!」って思ったように。
それは一体、なんなんでしょうねぇ・・・。
 
(つづく) 


第6回
 男の神。 
糸井 ある種の独身男性の幻想が、
「少年マンガのマネージャー役が
 眼鏡をハズした状態」

に、いったりしますよね。
田中 あはははは(笑)。
糸井 「もうっ!」とか言いながら、
心配したり、洗濯したり、
お花を見た時に止まっていたり、
子犬とたわむれてみたりするイメージ・・・。
柳瀬 (笑)でも、試合の時には、
スコアブックをキチッとつける。
糸井 「それはいない」っていう・・・。
昔はいたのかなぁ?
母親の中には、そういう成分は、
ありましたっけ。
柳瀬 ああいう女の子は
「絶対に存在しないけど
 男のほうは求めている」という、
そういう存在だと思います。

だから、少年マンガには
よく出てくるのに、どんな少女マンガにも、
たぶん、あのキャラは、いないですよね?
糸井 男の足りない部分を埋めるっていう
四角(空欄)があるんですよ。
「ここに人を埋めよ」という空欄のある問題。
田中 (笑)
糸井 その空欄にはめる答えなんですよ。
神ですよね、言わば・・・。
柳瀬 (笑)「神」かぁ!
糸井 男らしさの行く末って、どうなるんだろう?
・・・まぁ、
どっちでもいいような気もするけど(笑)。
ただ、もともとは、「過剰な何か」だし、
男の「過剰」という要素は、
変わらないと思うんです。
柳瀬 うん。
糸井 暗く言えば、その過剰さは
すべて犯罪に集約するという言い方だって、
できないことはないですよねえ・・・。
祖父江 目的のある過剰さって
犯罪に走りやすいけど、目的のない
ムダな過剰って、やっぱりたのしいんです。
どっちでもいいことへのうれしさって、
「だいじなこと」に
なって来るんじゃないかなぁ、

と思うけどなあ・・・。
糸井 「だいじなこと」ね。なるほど。
祖父江 最近、ムダなものが少なくなってきちゃったし。
「どっちでもいいこと」って、
減ってきましたよね。
糸井 うん。
祖父江 どっちでもいいようなムダが、
男だったりして。
糸井 それってさ、
「買えないものに価値が出る」
という時代が来そうなことと、
もしかしたら、関係あるかもしれない・・・。

自分のことを
「男っぽい」と思う時はありますか?
しり ぼくはありますよ。
自分を「男だなぁ」って思うようなことが、
けっこう最近は多いですよね。
糸井 歳取ると、増えてきませんか?
しり 増えてます。
三国志のテレビゲームが好きなんですけど、
もう、中国全土を統一するのが
えも言われぬ快感
で(笑)。
柳瀬 あはははは(笑)。
しり でもそのゲームをやってる時、
「ああ俺ってダメだなぁ」と思うのは・・・
決して一騎討ちはしない。
もう、圧倒的な強さで敵を滅ぼすんですよ。
「ああ、俺、男らしくないなぁ」って。
糸井 (笑)あはははは。
男らしいわりに、男らしくない。
しり 戦って相手を征服するとかいうのが、
なんか、好きで好きで・・・。
祖父江 コツコツやるのが好きなんですよ。
糸井 おぉ、テーマが出たね。
「男はコツコツやるのが好き」。
祖父江 女の人は、案外、
「よぉ〜し、一騎討ちぃ〜!」とか言って。
糸井 あぁ、女の子がロールプレイングゲームで
買いものをし過ぎたりしてる話とか聞くと、
すっごい男らしいなぁとか思いますよね。
男って、ゲームなのに、
意外と細かいこと考えてるから・・・。
柳瀬 (笑)計算しちゃったり、
ウラ技さがしに躍起になったり。
糸井 俺も、ヨメと話してると、
よく「男女、逆じゃないか」と思いますよ。
「言いなよ」とか「いいんじゃない」とか言うのは、
だいたい、ヨメのほうですねぇ。

祖父江さんのところはどうですか?
祖父江 うちもやっぱり、
「だいたいでいい」
という感じがするのは妻側ですよ。
糸井 祖父江家でもそう。糸井家でさえだよ。
田中 ああ、だいたい、そういうのかもなぁ。

糸井 たとえば仮に、俺が、
まあ、今の仕事のやり方をしてて
言うのもヘンだけど、
「転職する」とか家庭で言った時に・・・。
しり (笑)糸井さんが、転職。
糸井 俺だったら、うじうじしますよねえ。
「これがこうだからこれがこうで、
 この場合にこのくらいの借金が重なって、
 女房に何て言おう」とか、考えますよねえ。
しり うん。
糸井 ものすごい綿密なシナリオをもとに、
かなりの勇気を出して
「実はなぁ・・・」とか言っても、
「ま、いいんじゃない」
「しょうがないよね」で終わるかもしれない。
田中 (笑)
  (つづく) 


第7回
男の受注。
糸井 柳瀬さんは、肉体はけっこうマッチョですよね。
性格は・・・?
柳瀬 会社で手が空いてる時は、
アシスタントの女の子と
どうでもいい話をしてる時間が一番長いですねえ。
祖父江 落ち着くよね。
田中 (笑)
柳瀬 電話なんかでも、
ふつうのともだちの女の子と、
話すのが8割ぐらいかなぁ。

どうでもいい、
足し算にも引き算にもならない話を
ダラダラしてるのが、いちばん落ち着く。

そもそもただおしゃべりが好き、
ってのがあるんですけど、
男相手だと、なんか話の内容に
意味を求めようとしちゃうじゃないですか。

ぼくの血中の男濃度が低いのかもしれない。
糸井さんも、実は、
血中男濃度は低いじゃないですか・・・。
糸井 今、男についてしゃべってたら、
どっちなんだかわかんなくなって来たんです。
しり (笑)あはは。
柳瀬 糸井さんも、女の子と話すほうが
実はラクじゃないですか?
糸井 両方好きなんですよ。
ぼくは意外と、
ゲイとかにすごいシンパシーがあるんだけど、
「中性」っていうジャンルじゃないかなあ。
「引き受けましょう」「断らない」「ドスン」
みたいな要素は、あんまり・・・。
柳瀬 あの、そこなんですよ。
編集者の仕事って基本的に細かいじゃないですか。
で、まず引き受けるかどうかってところで、
ぼくの場合は、ドーンと構えて
「オウ」って引き受けるんじゃなくて、
気が弱いから、こう、
なんだかけっこう引き受けちゃうっていう。
しり (笑)
糸井 「気が弱いから引き受ける」
っていう話かぁ、なるほど。
柳瀬 相手が「おもしろいですねえ」と言ってて
話が盛りあがっているうちに、いつのまにか、
「わかりました」「やります」みたいになって、
それで実際に届いた原稿が、
「あちゃあ、こりゃちょっと大変だなぁ」
というレベルでも、ぼくのところで
何とかしようって思っちゃうんですね。

編集者の男っぽさって、ふたつあると思うんです。
「キミのためを思って言うけど、
 この原稿じゃダメだよ」と諭す男っぽさと、
「原稿ありがとうございます」と引き受けた後、
こちらでぜんぶ直しましたという男っぽさ・・・。

何を男っぽいと呼ぶかによって
違ってくると思うんですけど、
ぼくに男っぽさがあるとすれば、ほぼ、後者です。
気が弱いがゆえの男っぽさというか。
糸井 うんうん。
柳瀬 で、けっこう抱え過ぎちゃう・・・。
糸井 「男」を考える、いいヒントだね。
柳瀬 編集者として引き受けたからには、
なんとかしようと思いますが、
「こんな原稿直せねえよ」
って夜中にひとりでキレたり、いろんな原稿が
束になって届いて、机の上が崩れ落ちたり・・・
そこらへんが乱雑になってゲラゴミがたまったり。
まぁ、ホームレスのような机になってるんですけど。
それで、資料がなくなって困ったり。
糸井 あぁ・・・。
柳瀬 それでアシスタントの女の子とか
先輩女性記者に、何とかしてって泣きついたり、
まぁ、半径5メートルぐらいの人から見ると、
「もっとも男っぽくない人」なんですね。

でも、社外の仕事相手からみると、
「柳瀬さん、スパッと引き受けてくれて
 どうも、ありがとう」
・・・もしかすると、相手はぼくのことを、
男っぽいと思っているかもしれない。
糸井 なんか、その仕事のやりかた、
田中さんに似てませんか?
田中 聞いてて、似てますねえ・・・。
糸井 (笑)そうとう似てた。
しりあがりさんの引き受けかたも、
ちょっと、近いですね。バリバリ受ける。
しり やっぱり、何かトラブるのがイヤだっていうか、
仕事とかを選んでいると、
じゃあ、受けた仕事って、かなり
一生懸命やんないといけなくなりますよね。
糸井 (笑)
しり だから、
「受けておくから勘弁してよ」と。
いいわけをつけるためみたいな、
自分ではそう思っているんですけどね。

糸井 なるほどなぁ。
一方で、祖父江さんは
1年待ちと言われるくらい、
「ほんとは無理なんですよね・・・」
という状態で、やっているでしょう?
祖父江 だいたいは、
「受けるのはOKでも
 ・・・できないかもしれない」って。
しり (笑)
糸井 ぼく、ちょっとわかる。
まずは、そこからですよね。
祖父江 うん。
糸井 その割には、どうして引き受けたんだろう、
っていうくらい、いっぱい仕事してますよねえ。
タダに近いようなことも含めて。
祖父江 うーん。
何か、やっちゃうんですよ。
時間や予算がないほどがんばってしまうとこが、
あるかもしれない。
「もう間にあわない!」っていうことになると、
「・・・でも、今できかけている案で
 おわらせるべきではない」
って気持ちに、どんどん行っちゃうんです。

ムダにタイトル文字をひと文字ずつ書きはじめたり。
糸井 (笑)それは、マゾとは違うんですか?
祖父江 どうだろう。
マゾではないと思うんですけども。
好きなこととかやりたいことっていうのを、
あとまわしにしちゃうことがあって、
糸井 ああ、なるほど。
祖父江 好きなことが、いちばん
間に合わなくなってくるんですよ。
しり (笑)
祖父江 これだけはきちんとやろうとすると、
どんどん、その時間がすくなくなってくるんです。
そのせいかなぁ。
糸井 (笑)つまり、おいしいものを、あとで
食べようと思っていて、給食の時間が終わると。
祖父江 うん。
だけど、
おいしいものを充分味わないと
気が済まないから、
5時間目に、大好きなものだけ、
歯の横において授業うけたりして・・・。
田中 (笑)
祖父江 それを、仕事でもできればいいんですけどねえ。
糸井 今の祖父江さんの
「安くてむずかしい仕事ほど燃える」
っていうのと同じような気持ちに、
表現者って、ぜったいなるんですよね。

「わかってないヤツから来た話だけどさぁ」
って、親しい人に
愚痴だか自慢だかわかんない話をするという。
田中 (笑)
糸井 「何か答えはあるんだよね?」
って言ったまま日が暮れたり。

だけど、実はある業界の1位を
ひっくりかえすっていう話には、
1位以上の予算も
時間的なコストもかかるんです。
そんな準備できる会社って、ほとんどない。
だから、だいたい、
「惜しかったですねぇ」
っていう思い出づくりになっちゃうんですよ。
柳瀬 (笑)
糸井 負けた太平洋戦争でも、
軍事的な自慢話はできるというか。
しり (笑)ははは。
糸井 そこまで見通しがきいちゃうと、
どこかのところで、
負け戦を肯定できる人生になってくる。
だったら、10位のものを9位にあげるでも
何でもいいんだけど、自分から、
「ぜひやらせてください」って
お願いするような仕事を見つけたら、
そっちをやってたほうが、
大きなものが得られる、
ということがわかったんです。
柳瀬 なるほど。
糸井 ここのジャンプはねえ、
ぼくにとってはね・・・あ、
人類にとっては後退かもしれないんだけど
田中 (笑)
糸井 俺にとっては、長大な第一歩だったんですよ。
頼まれ仕事は、自分から頼む仕事に
還元できるかということを、1日おくようにして。
変換できない仕事は、絶対やっちゃいけないんです。
それを実験してみると、
全仕事がおもしろいんです。魔法のように・・・。

相手は全然やりたくないと思ってるのに、
こっちからやらせてくださいっていう
プレゼンテーションをする機会を、
これからは持ちたいんですよ。
しり うん。
  (つづく) 


第8回
男に好かれる男、
女に好かれる男。
祖父江 「なんかうまくいかない男子」
って、男から見ると、魅力的ですよね。
しり ふーん。
糸井 そうですか?
祖父江 何でもかんでも成功していく男子って、
男の目から見て、なんか、
おもしろ味がないような気がするんです。


「人気がありそうなんだけど、
 ぜんぜんみんなに
 相手にされてなさそうな人」
っていうのに、男っぽさを感じますけどね。
糸井 なるほどなぁ・・・。
祖父江さん、すごい発言が多いなあ。
男って、じゃあ、
弱さを中心にまとまるんですか。
柳瀬 どうなんですかねえ。
祖父江 「なさけない」とか
「どうしようもならない」とか、なんか、
そういうのが伝わってきちゃう人って・・・。
糸井 男は、好きですよねえ。
祖父江 やっぱり、「うんうん」って感じで、
気持ちが移動しますよね。
糸井 あぁ、お笑いもそうだね。
田中 ああ。
柳瀬 ああ、なるほど。
糸井 どう失敗したかの話を持ってないと、
お笑い、やれないですからね。
柳瀬 うん。
糸井 人生かけて失敗してた芸人さん、
たくさんいますよね。
祖父江 あれが気持ちいいですよね。
カラダを張って、
すべてを捨てて失敗するのっていうのは、
やっぱりかっこいいなぁっていう・・・。
しり 「何かを捨てられる人」
って好かれるような気がするね。
柳瀬 ああ・・・。
祖父江 そうだよねえ。
糸井 しりあがりさん、
ギャグ漫画を書くじゃないですか。
あれも思えば負けの話ですよね。
しり そうですよねえ。
みんなの前で転んじゃっておかしいとか。
タンコブできましたとか、いろんな
「オレってダメでしょう」
みたいなことなんだろうけどね。
糸井 ただ、女子にモテる男って、
大成功バリバリの人だったりしませんか?
祖父江 そうですよねえ。
糸井 「キミたち」って
高飛車に来るじゃないですか。
それがモテたりする。
失敗もへったくれもないよね・・・。
祖父江 失敗のない人がモテますよねえ。
糸井 ぼくのテーゼがあるんです。
「女は強いもん好き」っていう。
だいたいの女の人は「強いもん好き」ですよ。
「あんな人」とか言ってても、絶対に、
強い者のそばに、磁石のようにひかれてるね。

だから、ほんとうは、
「さんざんな目に遭ってもキミがいる」
みたいな歌って、実現しづらいんですよ。
だいたいは、ダメな時って、
「キミさえいない」ってところまで
簡単に追いつめられるんですよね。
しり (笑)ああ・・・。
糸井 サンザンな目にあってる人のところには、
恋人はいない。
つまり、女は強いもん好きだから、
サンザンな目に遭っている男のそばには、
いないんだよ・・・。
柳瀬 あぁ、非常に正しいですねえ。
糸井 でも、たとえば息子がいたら、
それを前提にして、
「男は強くなければならない」
というところを、教えられるかなぁ?
教えたいけど教えられないというか・・・。
しり うんうん。
糸井 そもそも、まわりを見ていると、
マッチョな生き方でしのいできた
お父さんは、だいたい甘いんですよ。
どれぐらい自分が大変だったか、
知ってるんだろうね・・・。
柳瀬 あ、マッチョであることの悲哀。
この苦労をこの子には・・・と(笑)。
糸井 「この芸風のつらさ」が身に沁みている。
祖父江 子どもがケンカに負けて来た時、
「戦って来い」
って言うのは、今はたぶん女性ですね。
男は言わないでしょう。
糸井 母は強いもん好きだから、弱いの嫌なんだ。
祖父江 母親は負けてきた子にむかって
「やっつけて来い」って言うけど、
父親は「おまえが何かやったんだろう」とか、
その場で収めようとするんですよ・・・。

糸井 (笑)うわあ。
どうしていつもこう、祖父江さんは、
真理にいつもタッチするんでしょうか。
そのとおりだよね。

小さい息子をもった母親を知ってますけど、
やっぱり「子どもが弱虫で」って心配して、
遠くから、強くなりますようにって祈ってますよ。
モテてほしい、強くなってほしい、さらに、
自分をのびのび表現してほしい、みたいな・・・。
柳瀬 すごい、足し算がいっぱいついて(笑)。
糸井 子どもは何にも変わんないんだろうね。
しり あはははは(笑)。
柳瀬 「女は強いもん好き」に関しては、
ぼくも取材経験から一つ明確な法則がありまして。
元気のいい会社は、美人が多い。

リリー・フランキーさんが
「金持ちの奥さんには美人が多い」って
エッセイに書いてたのと、
基本的には一緒だろうと思うんですけど。
売りあげや、利益率や、給料のいい会社には
どうも、美人が多い……ような気がするんです。
糸井 たぶん、美人から採用するというのは、
勢いが露骨に見えている会社のことですよね。

美人を選ぶ方針って、
ほんとは経営的にはまちがってるらしいですよ。
美人がひとり増えるごとに、問題がひとつ増える。
大きく言えば、社内の風紀が乱れるんです。
柳瀬 (笑)確実に乱れるでしょう。
糸井 あいつの前でいいかっこしようとか、
そういう余計なところでの影響が
ものすごくあるので、理想は、
「感じが悪くなくて、愛嬌のいい人」
っていうところに落ち着くらしい・・・。
  (つづく) 


第9回
男の欠点はコレだ!
糸井 『じみへん』っていう中崎タツヤのマンガで、
こういうのが、あったんです。

まず、男が故郷に帰って、
おふくろと黙ってメシを食う場面が延々とつづく。
そこで男が訊くんです。
「おふくろ、何か考えたこととか、あるの?」
そうすると、おふくろが表情を変えずに、
「あるよ。寝る前にすこし」
・・・あれは、スゴイと思った!
しり (笑)あはははは。
糸井 女とか母とかが、
ぜんぶあの中に含まれている。
ぼく、かみさんに対しても、そう思うもん。
きっとあいつは
「寝る前にすこし」なんだろうなぁ、と。
田中 なるほど。
糸井 あるいは、ひとりでいる時だとか、
ともだちの話をきっかけにして、だとか。
男には、そういう大らかさはないよね。
柳瀬 (笑)ええ。
男は、もっとチマチマしてます。
糸井 祖父江さんは、
寝る前に少し派ですか、
それともチマチマずっと?
祖父江 チマチマです・・・。
「どうしたらたくさん寝る時間をとれるのか」
についてさえ、寝る前に、チマチマ考えてます。
糸井 (笑)殿山泰司の『日本女地図』という
文庫本の解説は、ぼくが書いてるんです。
なんで解説してるのかっていうのも、そもそも、
「あれは名作だから文庫で出すべきだ」
って言ったのがぼくだからなんですけど・・・。
柳瀬 あ、そうなんですか。
糸井 その解説の中に、
「男の悪いところは、
 考えることとやりたがることだ」

って書いたんです。
柳瀬 (笑)あはははは。
糸井 つまり、女は、
考えたがっても、やりたがっても、
いないんですよ・・・。
田中 ああ・・・。(笑)
糸井 この二つの大欠点があるおかげで、
男はほとんどの失敗をしてるんですよね。
「やりたがりさえしなければ、
 あんなトラブルにはならなかったのになぁ」
「考えたがらなければ終わってたのに」
そんなことが、男には、よくある・・・。
このふたつは、神から授かったくらい、
真理だと思ったんですよ。

『日本女地図』って哀しいんですよ。
どこの女はこうだとか、
「千葉の女は乳しぼり」
だとか、県別に書いてあるんだから。
田中 (笑)
糸井 やっぱり、男は、
考えるからそういうことを書くんだよ。

じゃあ、考えすぎたり
やりたがらなければいいのかなぁ。
・・・「ガマンしてる」ってどうですか?
けっこう、かっこよくないですか。
しり (笑)かっこいいと思いますねえ。
最近、ガマンないですもんね。
ガマンしないほうがいい、みたいな。
祖父江 あんまり感情が男から出て来ると、
みっともないですよね。
糸井 (笑)そうですよね。
祖父江さん、意外とこういうこと言うんだよ。
むずかしいことを・・・。
しり (笑)
祖父江 女性から見た「いい女」っていうのは、
また、男性から見たのと違いますよねえ。
糸井 女性が言う「いい女」って、基本的には、
男性性の強い人のことを誉めていませんか?
祖父江 そうですかねえ。
糸井 そんな気がするだけなのかなぁ。
すごくオンナオンナしてる人って、
だいたい、キラわれますよねえ。
祖父江 あ、そうかも。
「フェロモンで〜っす」
っていう人は、ちょっと・・・。
糸井 叶姉妹くらいになると、
あれは過剰であるっていう意味では男ですよね。
しり (笑)あははは。
柳瀬 セクシャリティが攻撃型になるから。
糸井 オトコ性って、過剰性ですか?
柳瀬 どうなんだろう。
祖父江 どこ行くか分からないような、ねえ。
糸井 松田聖子がブリッ子だと批判を浴びても、
ブリッ子性が過剰だったりすると、
女の人の人気って下がんないですよねえ・・・。
祖父江 もしかして、過剰に憧れるのかしら?
・・・『過剰(課長)島耕作』って・・・。
糸井 (笑)あはははは。
祖父江さん、案外ダジャレ好きなんですよ。
祖父江 ぶちこわしでしたね・・・。
しり (笑)
糸井 過剰と言えば、しりあがりさん、
Gメンの姿みたいな「男」は懐かしいですか?
しり ちょっと懐かしいなと思うことありますね。
あの、そのモデルがあって簡単だったみたいなね。
もしかしたら、ちょっと肯定的かもしれない。

複雑な事情とかキモチとかを飲みこんで、
「オレはこれでいく!」と
どっかに力入れてるような、そういう美意識は、
ちょっと、残っているかもしれません。

糸井 ぼくがスポーツに惹かれるのと近いね。
「価値のルールを簡単にしてくれよ」
ってことなんですよね?
しり うん。
糸井 早い話、遠くまでタマを飛ばす人がスゴイとか、
足の速い人がスゴイとか、スポーツって、
日常生活の複雑さに耐えられなくて見るんだよね。
柳瀬 (笑)それはありますねぇ。
しり 日常生活は、入る点数が多すぎるんですよ。
柳瀬 ふつうの暮らしでは、
何が点数なのかもよく見えないし・・・。
昔はお父さんもいばっていればよかったけど、
今はいばると娘は出ていくわけで。
  (つづく) 


第10回
アコムレディの幻想。
祖父江 男は、おおまかな全体像を
つかむのってにがてですよね。

「これがイイ」っていうガイドラインがあると、
ちょっと、安心してしまうところ、ありますよね?
糸井 ああ・・・。
祖父江 部分は得意だけど、
世界は見えてないんじゃないかなぁ・・・。
糸井 男は、生まれた時から不安ですからね。
しり (笑)あははははは。
祖父江 女性は「これくらいがホドホド」とか、
「あ、今こう見られてるな」っていうのを、
自分のカラダで確認しながらやってるけど、
男ってそういうのが少ないから・・・。
柳瀬 男には、尺度が自分の中になくて、
誰かに決めてもらってるっていう感じが
ありますよね。
糸井 生まれた時から不安ってことで言うと、
将来、自分で食ってかなきゃなんないという
恐ろしい恐怖を、少年時代から持ってましたね。
それはほんとにイヤでした。できたら逃げたい。

で、女の子は、ぼくの時代だと、
将来の夢って、だいたいお嫁さんだったんです。
そこでの、「のびのびした感じ」は、あったなぁ。
今は、女子もはたらくから、
そのあたりで変わっているかもしれない。
祖父江 うん。そーかも。
糸井 女に男の病が移ってるかも・・・。
しり うんうん。
柳瀬 ああ・・・。
祖父江 最近は、女子が異常なくらい
がんばっちゃってますよね。
そういえば、いろんな公募や就職試験とかでも、
男って必要以上には頑張らない気がします。
自分に優しいのかなんか、わからないけど。

例えば単純に、イラストの持ちこみにしても、
女子だと、「今ちょっと見れません」と言うと、
「いつなら見れますか」って次に来ますよね。

でも、男の人から電話がかかってくると、
だいたい、
「今ちょっと見れません」
「あ、そうですか。どうもすみません」
で終わっちゃうんですよ・・・。
糸井 ああ。
祖父江 このごろの男子って、頑張らないんですよ。
過剰さが薄まってきてるみたいなんです。
なんとなく、身をひそめている。
男の頑張りって美しいというか、
何か儚くて美しいはずなんですけどね。
逆に、女子の頑張りって何となく・・・。
ちょっとうまく言いにくいけど、
女子は、あんまりがんばるとね、
「無理」になってね、
違っちゃうような気がするんだよなぁ。
糸井 違っちゃう。なるほどねぇ。
祖父江 頑張れば頑張るほど
つらくみっともなくなっていくのが女性で、
頑張れば頑張るほど、
味が出てくるのが男かなぁ、と。
糸井 この座談会、いいキャスティングしたなあ。
祖父江さんって、なんでも知ってる! すごい。
祖父江 (笑)・・・いやん。
糸井 何か、内臓が納得したなぁ。

いま、男女の差をみんなで話してましたけど、
女性の中に、男性性が寄生してるんじゃないか、
という時も、ありますよね。
祖父江 寄生、してますよねえ・・・。
「おやじギャル」でもないけれども、
親父像、幻想の男像かな?
そういうものを通して、
男っぽくしてる人が多いですよね、女性の中に。
糸井 うん。
祖父江 あれは、なぜですかねえ?
糸井 うん。
「人は、このくらい男らしかったのか」
って、俺も女の人の姿を見て思うんですけど。
しりあがり家は、女らしい奥さんですか?
しり いわゆる「おしとやか」とか、
そういうのではないですね。
祖父江 明解です。
糸井 きっぱりしてる?
祖父江 ウジウジさがなくて、
悩むよりはスッと行っちゃう。
しり そうですね。悩まなすぎ。
祖父江 それが気持ちいい感じですよね。
しり 笑い声がギャハハっていう・・・
祖父江 で、怒る時は
「もうーっ!」とか言って、怒るよね。
糸井 (笑)そういうのが、
たぶんふつうなんじゃないか、
とぼくは想像してるんですよ。
しり 最近、そうですよねえ。
みんな、「ギャハハ」って言いますし。

糸井 ただ、独身で、夢いっぱいの
いわゆる玄宗(幻想)皇帝たちは・・・
ちがう女性を求めてる。
田中 あははは。
糸井 つまり、独身男性は、
アコムのCMに出てくるような
お姉さんが好きなんですよ。
田中 (笑)ああ、悩んでるうちに、
ボールペンでおデコに跡をつけちゃったような。
(※編集部註 「ボールペンでおデコに〜」
  は、「アイフル」のCMでした。
  ここで語られているのは、
  「アコム」のCMのお姉さんです。 )
糸井 ああいう人がいるという幻想を、
サラ金は、ふりまいてるんですね。
田中 ああ、言えてる。
糸井 ああいう女の人は、見事に「いない」よね。
しり ・・・ひょっとしたら、いるかも。
見た目とか、2時間ぐらいはボロ出さないで。
祖父江 アコムってどういうの?
糸井 要するに、あのう、独身男性の好きな
「言うこと聞きそうな女の子」・・・。
柳瀬 (笑)あぁ・・・。
ハキハキしてるんですよね。
で、肝心なことは、
「言うことを聞いてくれる」と・・・。
糸井 アコムのCMを見て、
「あんな人が、かえっていいんだよなぁ」
とか、全国の幻想を抱えた男たちが
思っているに違いないんですよ。

でも、そんな姿は、
「看護婦さんの優しさ」や
「プロレスラーの殴る姿」と同じぐらい、
仕事としてのモノなんですよねえ・・・。
柳瀬 (笑)アコムレディの清潔感は
レスラーの強さと同じかぁ、なるほど。
ただ、営業スマイルには、
いいことがありますよねえ・・・。
糸井 営業スマイルは、「あってほしい」よね。
田中 向こうも商売でやってたりすると
ゲンナリしますけれど。
糸井 でも、ポテトもつけますかって言った時に、
「なくてもいいです」
とは、言えないようなチカラがありますよ。
柳瀬 うんうん。
糸井 独身男性の幻想ってことで言うと、
たとえば水着も、いったん、
どんどん裸に近くなるじゃないですか。
ヌーディストがいたりとか。
だけど絶対にキープしてる分量ってある。
しり ええ。
糸井 また戻ったり。
あんなふうに残っていくんだね。
「あったほうがいいな」という気持ちが。
しり (笑)
糸井 つまり、男どうしで集まったって、
「町の女がぜんぶハダカだったら最高だなぁ」
とは、誰も言わないですから・・・。
田中 (笑)
糸井 中学生を集めても言わないだろうね。
誰かがいったんは言ったとしても、
あとで誰かが、反論出すよね。
「脱がせるからいいんだろ?」って、生意気に。
柳瀬 (笑)
糸井 「オマエ、脱がしたことあんのか?」
「ねぇけどさあ・・・」みたいな。
しり (笑)
糸井 服の起源って、そういうところにないですか?
たぶん、答えに行き着く前の
儀式というか、演説というか・・・。
田中 スカートの、
「のれん」みたいな感じは、
あるかもしれないですよね。
糸井 ただ、
ウエストコーストのギャルみたいな、
ヘソ出し系みたいなのは、
あれは意外と男ウケ悪いですよね。
柳瀬 (笑)あ、ダメですね。
糸井 ダメですよねえ。
「答えに近すぎる感じ」ですよね。
しり (笑)あはは。
  (つづく) 


第11回
男の修羅場。
糸井 すこし、話を戻したいと思います。
倫理の中の男らしさで、よく例に出るのは、
「暴漢に襲われた彼女とオレ」・・・。
これは、みなさん、どうお考えになりますか?

相手は、ヤクザとしましょう。
もう明らかにバッジなんか見えてたりする。
・・・どうでしょう?
田中 あんまり、無理できないですよね、
自分としても。
糸井 (笑)そういう非常事態を、
田中さん、考えたことはありますか?
田中 ありますね。
当座のところは、
暴漢と仲良くしようっていう風に・・・。
糸井 カギカッコで言うと「話せば分かる」と。
田中 (笑)
糸井 柳瀬さんは、考えたことありますか?
柳瀬 ありますねえ。いくつかありますねえ。
「話せばわかる」も「逃げるが勝ち」も。
ただ、自分だけ逃げるとマズイから
追いつかれたらどうしようという要素がある。
糸井 (笑)
柳瀬 話せばわかる振りをして、
隙をついて何かしちゃうとか、考えますね。
糸井 つまり、物語仕立てじゃないと、
答えにならないわけですね・・・。
柳瀬 ならないですね。
だいたい、つまらないドラマが出てきて、
あまりのドラマのつまらなさに、
途中で考えるのやめますよね。
糸井 やっぱりそこは「保留」っていうことですね。
柳瀬 ええ。保留です。
糸井 三国志好きのしりあがりさんは、
そういうの、考えたことありますか?
田中 (笑)
しり つい2〜3日前も、彼女じゃなくて
「子どもは守れるか?」とか聞かれました。
田中 ああ・・・。
糸井 マンガの中では、ギリギリ、
そういう話を書こうとしますよね。
しり ハッピーエンドになんないですけど(笑)。
柳瀬 (笑)
糸井 マンガだったら
死んじゃっても、かまわないんだよねえ。
しり 自分で考えたのは、
「ケガまではいいかな」と思うんですよ。
糸井 うん。
しり でも死ぬのはイヤなんですよね。
やっぱり子どもだろうと彼女だろうと、
自分が死ぬのはどうもちょっと
受け入れられないかなとか思ったんですよ。
「自分が死んだら、
 きっとその人も死んでしまうじゃないか」
とか、言いわけも含めて考えると、
「その時はね逃げるかもしれないけど、
 仇は伐つべきだなぁ」とか。
こーゆーの、ヒキョーかなぁ。
糸井 (笑)現実として考えると、
ほんとにみんな、保留になるねえ。
祖父江さんは、
そういうことを考えたことありますか?
祖父江 ・・・つらいことは
なるべく考えないようにしてるのかも。
糸井 (笑)ほう。
まずは単純に言うと
君子あやうきに近寄っちゃいけないよ、
っていうのが、前提としてありますよね。
祖父江 そうですねえ。
糸井 でもまあ、この場合は、
「あやうき」が走ってくるわけだよねえ。
柳瀬 (笑)
糸井 ・・・いや、ぼく自身もわかんないんですよ。
だから、みんなに聞いてみたかったんですけど。
ここにいる人が偉いのは、
少なくとも、ウソついてないですよね。
ほら、よく「男なら助けるべきだ」とか、
すぐに答えられる人も、いるじゃないですか。
ぼくはそういうことに対する
「ほんとかな?」っていう気持ちが強いんです。

まぁ、一方では、実際は、案外、
できちゃうんじゃないかなぁっていう
期待値があるんですよね。
しり あぁ。
2〜3日前に聞かれた時に出てた例では、
小学校の校長先生とかに、
「子どもがおぼれていたら救いますか?」
という話になった時に、案外、
たくさんの人が飛びこむって言うんですよ・・・。

「飛びこまなかったら、
 あとで何を言われるかわかんない」とか。
要するに、飛びこむべきだっていう方の
プレッシャーが強ければ強いほど、
飛びこむっていうか、自分が盾になれるという。
糸井 うんうん。
しり もう、男らしさでも何でもないんですけど、
「できないけど、そうすべきだ」みたいなものが、
案外、人を救うこともあるかなぁ、と言うか・・・。

糸井 「べきだ」でついに動いちゃったことも、
ひょっとして、みんな、経験あるんじゃないですか?
ともだちが何かに巻きこまれた時に、
若いころ、ぼくもよく当事者になったんだけど、
結局は「なんで俺が!」って思うようなケンカとか
させられたりしてるんですよねぇ。

自分のことだったら、
逃げたりガマンしたりするんだけど、
他人の時には、妙にバーチャルになっちゃって。
柳瀬 なるほど。
糸井 そういう要素も考えると、正直に
ここで答えようとしても、
ほんとうの現場での答えはわからないですよね。
田中 案外、やっちゃうかもしれないですね。
柳瀬 ええ。
シミュレーションしていると、
実際に動く時とは、
ぜんぜん違う動きになるでしょうね。
糸井 ただ、今までそういう
巻きこまれたドタバタが何回かあったけど、
実は自分の中には、1個だけポイントがあって、
絶対に勝ちか引きわけるヤツとしか
やってなかったわ・・・(笑)
田中 ああ・・・。
柳瀬 なるほど。
しり ぼく、昔事務所に泥棒が入った時があって、
ドアを開けたら
いきなりそいつが飛び出してきたんです。

その時、もう夢中だけどなんか大声出して、
「おまえ、何やってんだ!」
みたいなことを言って
ちょっと追っかけたりもしてて、
「いやぁあの時はよくやったなぁ」
と笑ったんだけど、やっぱり
あとで考えると、小っちゃかったですね。
糸井 (笑)相手が。
しり 小っちゃかった。
糸井 だって、ボブ・サップが来たら?
しり (笑)サインもらったりして。
糸井 攻撃はしないけれども、
話しあいのきっかけを作る、
みたいな行動をとるんだろうね・・・。
白旗に近いような。
祖父江 そうですね。
田中 一応、直感的に、
負けの歩留まりっていうのを
パッと判断するんでしょうね、本能的に。
糸井 (笑)このへんだ、と。
田中 思えば男らしかった、
っていう話で思い出したんですけど、
昔、彼女と彼女の友だちと高速道路に乗って、
パーキングエリアに停まったんですよ。
みんなトイレに言って、
走り出した瞬間に、彼女が
「あっ!」とか言ったんですね。
「トイレに財布忘れて来た」って言ったんですよ。

その時にぼくは、
無意識に500mくらいバックしたんですよ、
高速道路を。

あとから思えば、
男らしいことしたなと思ったんですね。
糸井 (笑)男らしかったんだ・・・。
田中 ただ、今あらためて考えてみると、
やっぱりその時、バックしても
追突されないだろうなぁというのは、
本能的に見えてたからやっちゃったんじゃないか、
と思いますね・・・。
糸井 やっぱり、本能的というか、
動物的直感みたいなのがはたらくのかなぁ。
祖父江 きっとそうですよ。
糸井 でしょうねえ。
祖父江 カンで動くしかなくなりますねえ。
糸井 そのセンスを持ってないと、コワイね。
柳瀬 もしかしたら、
けっこう実は演算値みたいなのが
その人なりに蓄積されているのかも。
たとえば、スポーツ選手は、
反射のスピードで
どんなシチュエーションでも、
パンと反応できるじゃないですか。

バスケットやサッカーの選手だったら
習ってないフォーメーションプレイでも
パッとできるみたいなのがあって、ただ、
訓練されてない人が訓練されてない場所で
訓練されてないシチュエーションに出た時には
凍っちゃうとか・・・。
糸井 凍っちゃうってのはダメだね。何にせよね。
柳瀬 うん。
だから動ける時っていうのは、
実は自分の中で、1回は
演算をしているようなことなのかもしれない。
田中 うん。
  (つづく) 


第12回
ハリソン・フォード
問題。
糸井 あ、ちょっとこのあたりで、
それぞれの「理想の男像」みたいなものを、
いろんな角度で、すこし挙げてみましょうか。
・・・いいんですよ、アントニオ猪木を入れても。
柳瀬 (笑)ええ。
糸井 田中さんの理想の男像は?
田中 「敏腕デカ」みたいなエリアは、
残したい感じがしますよねえ。
柳瀬 (笑)敏腕デカ。
糸井 さっきのGメン75の映像にも
入って来るような・・・。
田中 ええ。
糸井 つまり、そういう映画は
残ってほしいなってことだよね。
田中 そうですね。
糸井 ダーティーハリーとか。
田中 ええ。
クリント・イーストウッドって好きなんですよ。
糸井 いいですよねえ。
田中 あれ、残したいですよね。
柳瀬 アメリカでも、
彼が死んだら、もうあとには
誰も残んないんじゃないかって感じですよねえ。
糸井 ハリソン・フォードじゃ弱いもん。

・・・男は、禁欲好きかもしれないけど、
快楽的な男で一票を入れる人、いないですか?
しり フリオ・イグレシアスって古いですか?
田中 (笑)見た目は快楽的ですけどね。
柳瀬 村上春樹さんが、
いちばん許せない男の話を書く時に
フリオ・イグレシアスを必ず・・・(笑)。
「女にだけモテる」って。さっきの、
「成功だけしつくしてきたから
 男は誰も評価をしないけど女は好き」
っていうのが、フリオ・イグレシアスですね。
田中 杉良太郎みたいな感じですね。
糸井 でもさあ、
トム・クルーズにOK出してませんか?
フリオ・イグレシアスに比べたら。
柳瀬 トム・クルーズはそうですねえ。
田中 うん。
糸井 不思議だねえ、その辺・・・
男同士で何考えてるんだろうね、俺たち。
しり (笑)何だろう。
糸井 ハリソン・フォードより、
トム・クルーズの方が上じゃないですか、
ひょっとしたら。
田中 上ですね。
糸井 (笑)何、それ!
しり (笑)何だろう。
柳瀬 ハリソン・フォードの男のファンって
実はぼく、そんなにいないと思ってるんですよ。

しり うん。
柳瀬 あれ、女票ですよね。
糸井 ハリソン・フォードに比べたら、いっそ
もう、リチャード・ギアだっていいくらいだよね。
「甘いマスク」とか言われてるけど・・・。
しり うん。
糸井 この微妙な自分たちの心の中は・・・?
柳瀬 リチャード・ギアは、
ちょっと負けの匂いがするからかな?
糸井 (小声で)ああ、するね。
しり (笑)あはははは。
糸井 するする!
柳瀬 ハリソン・フォード、
つまんないじゃないですか。勝ちっぱなしで。
しり リチャード・ギアって、
けものっつーか、牛とか、
あっちの、蹄が割れてきたみたいな。
柳瀬 (笑)
糸井 理想の男って、映画の中での
「男心に男が惚れて」みたいな、
画面から出て来る人、いないですかね?
しり ジャン・レノみたいなのを、
男は好きなんじゃないですか? そうでもない?
糸井 ジャン・レノは、ゲイのアイドルですねえ。
2丁目に行くとジャン・レノだらけですよ。
ぼく、彼らの社員旅行の時に、
たまたま前を通りかかったんだけど、
ガードレールにジャン・レノが4人。
しり ボブスレーを見てるような。
糸井 (笑)
田中 ジャック・ニコルソンはいいんじゃないですか?
ヤニっぽい感じはしますよね。
糸井 うーん。
それは理想っていう言葉を使っても大丈夫ですか?
田中 ・・・ああなりたいかっていうと、ちょっと。
「脇にいたらいい」っていうくらいかもしれない。
糸井 しりあがりさんの、理想の男像は?
しり 何かあの、おこられそうだけど、
一夫多妻がいいと思うんだけどなぁ。
田中 あはははは(笑)。
しり 少子化とかよく言ってますけど、
子ども欲しくない人は欲しくないでいいし、
欲しい人はものすごくいっぱい作れれば、
いいのになぁって思っていまして。
糸井 それは、深みがあるねえ・・・。
しり 男は、自分の子どもをたくさん作りたくても、
10人も20人もは、できないですよね?
あ、女の人もできないか。
もちろん、一妻多夫もありで、
つまり結婚の自由化というか・・・。
糸井 (笑)変わっているような、
新しいような、古いような・・・。
しり まあ、現実には許されないんだろうし、
そう言ってる男に限って、
女の人をみんな取られていくんだけど。
柳瀬 (笑)
  (つづく) 


第13回
理想の男のゆくえ。
糸井 ぼくは、理想の男をひとり挙げるとすると、
小野田寛郎さんですね。
柳瀬 ああ。
糸井 クールさと冷静沈着さ、責任感。
演技でもあるかもしれないけど、
優しくないと部下はついて来ないしという。
ガマンの限りを尽くして生き抜いた。
あれはすごい。あれは入れたいですねえ。
柳瀬 なるほど。
糸井 ただ、あの人も女子社員の怒りかたが
わからないだろうなって気は、ちょっとします。
田中 (笑)
糸井 そうすると、藤田元巨人軍監督とかね。
女子社員の怒りかたも知ってそうで、
「マッチョを抜けた姿」がありますから・・・。
あとは、サッカーのゴン(中山選手)かなぁ。
柳瀬 わかります。
軟弱ぶってるけど実は男という・・・
ルパン三世系、というか。
しり ああ。
糸井 男の票は、入るよねえ。
柳瀬 ヘナヘナしてるけど、ナヨッとしてないから。
でも、基本的には、日本人で理想の男って、
あんまり思いつかないですね。
糸井 そうか。日本どうしよう?
・・・森喜朗とか、ダメですよね。
しり (笑)
糸井 ラグビーボール抱えて、
文武両道のシンボルみたいに、
一応なっていたはずだけど。
柳瀬 (笑)うーん。
糸井 つまり、
失敗しちゃってるってわけですよねえ。
勝新は、今の時代には票が入らないし・・・。

祖父江さん、なんか・・・
好きな男はいないですか?
「これはいいなぁ」っていうか。
祖父江 うーん。
男らしい見た目のっていうのが、
どうもよくわかんないですけど。
糸井 じゃあ、見た目は男らしくなくていいけど、
「これは何かいいな」っていうのは?
祖父江 ぼくが好きな男の人はねえ、けっこう・・・
えーと、あれなんですよ・・・
せんだみつお、とか。
田中 (笑)
祖父江 みのもんたとか。
糸井 (笑)はぁー、スゴイ。
祖父江 なんというか、
がんばりがいきすぎてる感じと
ほどよいかなしみとが同居してる感じ?
かなぁ・・・。
糸井 ほー!
祖父江 そんな人を見てると、
「いいなあ」と思うんですよ。
ただ、そんな男になりたいっていうこととは、
ちょっと違うんですけど・・・。
柳瀬 (笑)
糸井 (笑)「なりたい」は、こっち置いとくんだ?
祖父江 「なりたい」
というのは、よくわからないんですよ。
柳瀬 すごい。
祖父江 でも、その2人は、
やっぱりいいなあと思いますよ。
田中 (笑)すごい組みあわせですね、でも!

柳瀬 普通の雑誌のランキングで言うと、
ここで松田優作が出てきたり、
ブルース・リーが出てきたりするもんだけど・・・。
糸井 (笑)出て来ないですよねえ・・・。
柳瀬 ここのテーブルで、まったく出てこない!
さっきから、リチャード・ギアの負け感とか、
せんだみつおだとか・・・。
糸井 (笑)しょうがない話してるな。
柳瀬 何か、デブ専の人たちで話してるみたいな。
祖父江 (笑)対談の人選を
誤ったんじゃないかっていう気が・・・。
糸井 (笑)いいです、これはもう、
ある意味、かえって貴重な座談会で・・・。

あのう、ひきつづき、
理想の男像を出していきますけど、
まさか、もう今さら、桜の木を切った
ジョージ・ワシントンとか・・・出ないよね?
柳瀬 (笑)正直者神話。
田中 出ない!
祖父江 日本のお父さんって感じを
よしとするんだったら、
ジャイアント馬場とかも。
糸井 (笑)・・・それは!
祖父江さん、さっきからイロものを。
祖父江 イロものしか、知らないんですよ。
糸井 イロもの好きではあるんですね。
祖父江 そうかもしれないけど、
人が出てこないのがネックだなぁ・・・。

わかった!
ぼく、あんまり人のこと、知らないんだ。
糸井 知らないと同時に、たぶん考えてない(笑)。
祖父江 いやあ・・・
今までみんなから挙がった名前の人たち、
実は知らない人ばっかりで・・・困ったなあ。
しり 祖父江、昔のことを言っていい?
祖父江 うん。
しり 学生の時に、祖父江、
日本の総理大臣を知らなくて、
「じゃ、日本人の偉い人で
 誰か知ってる人いるか、知ってるか?」
って言ったら、「王さん」って・・・。
糸井 (笑)一貫性があるねえ。
柳瀬 ブレがない!
糸井 多摩美では、どっちが先輩なんですか?
祖父江 (しりあがりさんを指して)先輩。
しり いちおう、ぼくが先輩。
糸井 そうなんだ。
わかんないね。
・・・傍目では何もわかんないね(笑)
田中 (笑)
糸井 でも、なんか、
ほんと、理想の男っていないですねぇ。
世間的にいいなぁと言われてる人も、
せせこましそうとか、弱そうとか、あるし。
祖父江 尊敬できる男の人がいないのは寂しいですよね。
糸井 欲しいですよね。
でも、せんだみつおがいる(笑)
祖父江 あ、そうですね!!
・・・でも、目標ではないから・・・。
糸井 ・・・いまのところ、理想の男として
合格してたのは、誰でしたっけ?
田中 ゴンと、イーストウッド。
糸井 それで、小野田さん、せんだみつお。
柳瀬 (笑)この座談会のタイトルを抜くと、
どういう共通項で集まった名前なのか、
さっぱりわからない感じが・・・イイですね。
糸井 (笑)うん・・・。

いままで、さんざん話したことって、
「ほぼ日」にぜんぶ載るとは限らないですけど、
なんか、このメンバーじゃなければ
できない座談会っていう実感でいっぱいです。
柳瀬 雑誌だったらボツになりますね、まず。
田中 (笑)
柳瀬 編集長にテープ起こしを持って行くと、
ぜったい怒られそうな話題ばかりで・・・。
糸井 「柳瀬、お前が行って、
 どうしてそうなったんだ?」
って。
柳瀬 (笑)
糸井 今日は、みなさん、ありがとうございました。
  (おわり)