本棚からひとつかみ

日曜の昼間、車に乗っているときは、
山下達郎さんのFM番組をよく聞きます。
よく聞くと言いましても、
ある特集にあたると身を乗り出して聞くわけです。
時に「棚からひとつかみ」という特集がそれでして、
ご本人が自分のレコード棚からお薦めを見つくろいで持参、
思い入れたっぷりに紹介される
その並々ならぬ音楽への偏愛ぶりがおかしいんです。
「よくもまぁ、こんなレコードを」と
あきれるのが、この番組の楽しみかたであります。
山下達郎さんには及ばないですが、
うちの本棚でもやってみます。

さて、どんな本棚事情かと言いますと、
毎月だいたい5万円ぶんぐらいは本を買っておりまして、
うち半分は途中で読むのをやめて、部屋の隅に追いやります。
残り半分は全部読みますが、
そのうち半分は部屋の隅に積んでいきます。
なんだか算数の文章題みたいになってきましたが、
生き残った本は本棚に収納していくことになります。
ということで、今、本棚に納まってる、
もしくは積み上げられている本は、
感心した本ということになります。

イメージ映像

では、
一番上のほうからいきますね。

山口椿&代々木忠

『至高体験 そのメカニズムと変容』
(徳間書店 、 ISBN: 4198610363 、1999年)
AV監督による濃密なコミュニケーション論になってます。
自分が変ることが、コミュニケーションの最深部なんですねえ。

その左隣。

山岸俊男『心でっかちな日本人』
(日本経済新聞社、ISBN: 4532149665、2002年)
4年ほど前の暮れ、この人の『信頼の構造』を読み、
動悸おさまらぬ興奮で
糸井さんにメールしたのをよく覚えています。
新作も、新しい日本人論がきっちり語られています。

山岸本の左下のデカイ本。
キャメロン・クロウ、ビリー・ワイルダー

『ワイルダーならどうする?』

(キネマ旬報社、SBN: 4873762367 )
トリュフォー、ヒッチコックによる
名作『映画術』に迫る出来です。
ワイルダーのいけずな素顔がたまりません。
映画を見る目が磨かれますよ。

この下で横になってる本。

西原克成『顔の科学』

(日本教文社、 ISBN: 4531062779、1996年)
「内面にあるものは必ず顔に出る」と前々から思ってたのですが、
生物学視点で語られると「なるほど!」です。
三木成夫の弟子筋にあたる筆者による本です。

その3冊下へ。

平尾昌晃『知のスピードが壁を破る』
(PHP研究所、ISBN: 4569576583、1999年)
間違えました。ラグビーの平尾誠一さんの本です。
組織論として、教育論として、戦略論として、感心しきりでした。

では、1階下の本に。
『中井正一全集』
(美術出版社、1981年
 編集部註:絶版のようです。古本屋さんなどでどうぞ

全集なのに全4巻というのがさっぱりしてていいです。
前世紀前半の京都の美学者、哲学者ですが、
その視点は今も斬新です。

逆サイドにふってみて、文庫本の列へ。
金子光晴『どくろ杯』
(中央公論新社、 ISBN: 4122003288、1976年)
『どくとるマンボウ航海記』や『深夜特急』が好きな方は、
ぜひこの生々しい詩魂に触れてみてください。

そのとなり。

スピノザ『エチカ』

:岩波書店 ; ISBN: 4003361547
 :岩波書店 ; ISBN: 4003361555 )

読み返し回数、第1位かもしれません。読むたびに発見できます。
「人間はいかに都合で生きているか」が思いしらされます。
脳のシナプスを太くする訓練としてお試しください。

2階下へ。

ジル・ドゥルーズ『差異について』
(青土社 、ISBN: 479175817X、1992年)
この著者によって哲学書の読み方を教わった気がします。
もちろん会ったことは無いのですが。
本文でたびたび登場する「差異」という言葉を
「違い」と読んでいけば、
かなり難しい印象が目減りするはずです。
「何かに役立つ」という期待抜きに読んでみるのはどうでしょう。

そろそろ、締めくくり、年末年始的な1冊を取りたいと思います。
小説や音楽ものや経済ものなどなど、
まだまだご紹介したいものがあるなぁ、と
きょろきょろ見渡してみました結果、

ジャン・ルノワール『ジョルジュ大尉の手紙』

(青土社 、 ISBN: 4791754905、1992年)
高名な映画作家による小説です。
ストーリーはすっかり忘れてしまったのですが、
読み終わって、ポジティブな涙をだらだら流したのを
はっきり覚えています。
涙の差異について思うに、めずらしい種類の涙でした。
「生きるのが楽しみになる涙」とでも言うのでしょうか。

もうご想像の通り、うちの部屋は本屋みたいです。
実はレコード屋も開店していますけれども。
この秋、本邦2度目の東京暮らし視察に乗り込んできた母は、
ベット脇の本棚を見上げてつぶやきました。
「あんた、ここで地震に遭ったら死ぬで」

本の神様、そのときはよろしくー。

2002-12-30-MON

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