8月28日
ラジオが変わった

現場に行くと、大工の棟梁が
一人黙々と仕事をしてくれています。
口数の少ない、働き者です。
こちらの希望で床材は栗の古材でお願いしましたが、
それが曲がったのやら、穴が空いたのやら、
いろいろなかたちの板なのです。
それを見事にきれいに合わせて敷いてくれました。
僕は毎日現場に出かけ、
棟梁と収まりをどうしようかと相談することがあります。
玄関のカーテンボックスの収まりや、
奥の棚との絡みについてとか。
あるいは新しくする大壁のところと、
古い真壁の繋がり方についてとか。
棟梁は丁寧に断面図など書いて説明してくれるのですが、
僕にはすぐに噛み砕けなくて、
一晩経った後、
「やっぱり棟梁の言った方にして下さい」
と、訂正したりしているのです。

棟梁はいつもラジオをかけています。
手を動かす人たちにとっては
ラジオは今も大切な放送だと思います。
僕も作業中は音楽をかけることが多く、
朝もラジオを聞きます。

仕事で手が離せないから、
CD主流の頃はリピートにして
何度も同じアルバムを聴いていたけれど、
今はiPodがあるから
ずっとかけ続けることができて便利です。
音楽の連続演奏、というのは夢のようなことで、
昔はドーナツ盤のレコードを10枚重ねて、
順番に落ちてくる
オートチェンジャーというプレーヤがあったけれど、
それがすごく欲しかったことを思い出します。
その自動演奏の夢を、iPodは難なく越えてしまいました。
でも、夢が実現した時、夢で思っていたかたちとは、
少しずれが生じてしまうようです。
その分アルバムに向き合う姿勢というのか、
レコードジャケットをめくりながら、
今の気分の一枚を厳選する、
ということは随分減ってしまったように思います。

話がそれましたが、実は今日現場に行ったら、
棟梁のラジオが変わっていたのです。
最初は革のケースに入ったラジオが
壁にぶら下がっていたのですが、
今日行ったらラジカセに変わっていました。
それも、専用の台がきれいに作ってあって、
その上に置かれていたのです。
そうしたところにも一手間かけて気持ちよく仕事をする、
という棟梁の性格が伝わってくるようでした。

「ラジオが変わったんですね」そういうと、
棟梁はちょっと照れ臭そうに
「いや、前のラジオが調子悪くて」と。
「テープも聴くんですか」
「いやいや、そんなことはしない」

そういうと、またすぐ手を動かし始めました。


2010-10-22-FRI

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