もっともっと描けたのにな。

糸井
なにかテーマがあったわけでもなく、
ただ話をしてきましたが、
ぼくとしては、おもしろかったです。
ヒグチ
少し前に「ほぼ日」に載っていた
石黒さんとの対談が
すごーくおもしろかったので、
今日は、ああいう流れでいくのかな‥‥と
思ってたんだけど、ぜんぜん違った。
糸井
「言語」なんですよ、ヒグチさんのほうが。
ヒグチ
あ、そうですか。
糸井
石黒さんは「言語」じゃないんです。
ヒグチ
じゃあ、なんですか。
糸井
わかんない。でも、少なくとも、
ヒグチさんは
放っといたほうが、おもしろい。
芸風で言うと「さんまさん」系。
ヒグチ
そうですかね? わたし、
心を開かないとき、すごいですけど(笑)。
糸井
自分もそうだから、わかるんだけど、
ヒグチさんて
ファンとして生きてる時間が長いんですよ。

人のことを「あれはいい」とすごく褒める。
ヒグチ
それは、そうかもしれない。
津田
有名とか無名とか、まったく関係なく、
自分がいいと思ったら褒めますよね。

今週もブローチを買いに、並ぶんです。
ヒグチ
ブローチ、大好きなんです。
津田
朝からゲットしたいから行こうよって、
電話がかかってきて。

すごく仲よくしている画廊だから、
ずるしちゃえば、
並ばなくたって買えるはずなのに。
ヒグチ
石黒亜矢子の列にも並んでます。
糸井
ぼくだって、こつこつ、
ヒグチさんの展覧会に並んでますよ。
ヒグチ
あー、ありがとうございます。
糸井
そういえば、
少し前にポーラ美術館でやった展覧会、
ポーラの社長さんが、
「3本の指に入る」って言ってました。

過去、あそこでやった展覧会の中でも。
ヒグチ
え、ほんとですか!
糸井
うれしかったんだけど、
西畠清順さんが、1番だって言ってた。

2番は聞かなかったけど、
ヒグチさんの「ギュスターヴ展」は
3番に入るって、
なんの義理もないのに言ってたよ。
ヒグチ
うれしい。
糸井
でも「絵描き」を維持していくのって、
とっても大変なことでしょう。

あらためて‥‥ですけど。
ヒグチ
まあ、そうだと思います。

わたしも、
きびしい時期がずーっと長かったので。
絵を描くために、はたらいてたし。
糸井
ヒグチユウコに絵を描かせるために、
もうひとりのヒグチユウコが、
まったく別の仕事をしてたんですね。
ヒグチ
自分自身を
食わせていかなければいけないので。

誰かがやってくれるわけじゃないし、
だから、いろんなバイトをやりつつ、
絵を描いてる時期が長かったんです。
糸井
今は絵描きだけで生活できるように
なってるわけですよね、当然。
ヒグチ
いまは、そうですね。はい。
糸井
そこまで行くだけでも大変なことで。
ヒグチ
好きな絵が描けてよかったなあって、
そのことは、本当にそう思います。

だから、この先、
絵で食べていけなくなったとしても、
絵は描くことはできるぞって思う。
糸井
絵って、音楽とおなじで、
基本的には作者のわがままな世界に
連れて来なきゃならないから、
もう、えらいことですよ、やっぱり。
ヒグチ
そうかもしれないです。
糸井
あのさ、ヒグチさんって、
自分のことどうでもいいと思ってる時間、
すっごく長くない?
ヒグチ
え、そんなことないです。
すべて自分が中心ですよ。
糸井
いや、そこ、あやしいな。
ヒグチ
んー‥‥そうですかねぇ。

わたし、自分の絵を
ものすごく愛しているんですけどね。
糸井
うん、それはわかる。

でもさ、気に入らなかったりして、
描き直すときは、描き直すわけで。
ヒグチ
自分の絵が、ものすごく大事なんです。

だからこそ「描き直したい」と思って、
「この絵は、すごい好きだから、
 もっと描きたい」と思ったりもして。
糸井
なるほど。
ヒグチ
いつも「もっともっと、描けたのにな」
って、思っている気がします。

<つづきます>

2017-04-27-THU