タラ夫が食われている。

糸井
その鳥、被ってると音って聞こえるの?
ヒグチ
今は聞こえてますけど、
イベントとかでは、聞こえないですね。
糸井
よそでも被ってるんだ、それ(笑)。
ヒグチ
身体に生あたたかい物体がくっつくと、
「あ、誰かが写真を撮ってるな」と。

ただ、赤ん坊とか子どもとか犬とか、
ちっちゃいのが来ると、わかるんです。
くちばしから、チラッと見えるので。
糸井
へえ。
ヒグチ
先日も子どもを何人か羽交い締めに‥‥
いや、ぎゅーっと抱っこして、
低い声で
「離さないわよぉ」と言うと大泣きして、
横でお母さんが、大爆笑してて。
糸井
それ、怖いと思う‥‥。
津田
ヒグチさん、もう、イキイキしちゃって。
糸井
ヒグチさんて、
ちょっと「わるいこと」しますよね。
ヒグチ
します。しますね。

その場でつくった怖い話を
息子に話して震え上がらせるのが得意で、
このために子どもを産んだ、
みたいな気持ちに、なることもあります。
糸井
しかも、クオリティ高そうだし。
ヒグチ
前、石黒さんに電話で怖い話をしたとき、
「今の話、伊藤にも聞かせたい」
って言われたんですが、
さすがに、伊藤潤二先生を前にして、
「怖い話」なんて絶対無理なんですけど。
糸井
悪意も愛。
ヒグチ
愛です。いじわるしたいの(笑)。
糸井
すてきな旦那さんがいらっしゃるけど、
「悪意も愛」って、
何か、ためすようなとこがあるでしょ。
ヒグチ
そういう悪意はダメな悪意です。
糸井
うん、ふつうの人は危険なんですけど、
あなたは、バンバン出しますよね。
ヒグチ
夜、誰もいない公園の前を通り過ぎるとき、
息子が
「怖いから手をつないで」って言うんです。

で、手をつないだ瞬間に、
わたしが
「真っ暗だね‥‥」ってつぶやいただけで、
息子はもうイヤな予感しかしなくなって、
手を「ぎゅーっ!」と握ってくるんですよ。
糸井
わるっ!(笑)
ヒグチ
「お母さんの手を、
 ぎゅーっと握ってなきゃダメだよ。
 お母さん、
 いなくなっちゃったら、怖いよね」
って言うと、もっと、ぎゅーって。
糸井
ひどい(笑)。
ヒグチ
さらに、たたみかけるように
「イタタタ‥‥痛いけど、
 もう暗くて誰の手を握ってるのか
 わからないんじゃない?
 お母さんの目、見てくれる‥‥?」
糸井
うわー‥‥。
ヒグチ
絶対見ないですね、わたしの目(笑)。

ほんとに性格わるいよねって、
今井(昌代/ぬいぐるみ作家)さんにも
言われてるんですけど。
糸井
うん、わるいんだけど‥‥
それでもOKになるクオリティがあるよ。
ヒグチ
まあ、最近では、息子も
だまされない年齢になってきてますけど。
糸井
作品でも、同じようなことやってるよね。
ヒグチ
はい。作品は、けっこう「わるい」かも。

これ‥‥こんど東京都美術館ではじまる
「バベルの塔」展の広報の方が、
タラ夫って魚のキャラクターつくって‥‥。
糸井
あ、食われてる! わる!
ヒグチ
そう、タラ夫が食われてるのを見た瞬間の、
彼らの愕然とした顔が、忘れられない。
津田
本当に「バベルの塔」展の担当の方たちが
タラのキャラクターが大好きで、
本当にいい人たちなんですが、
「ヒグチさん、
 タラ夫、いっぱい描いてくれたんだ!」
と喜ばせておいて、
最後、「食べ終わってる」という‥‥。
ヒグチ
タラ夫の大腿骨が、いろんなところに。
津田
みなさん、かなしい顔して「えぇ‥‥」と。

ヒグチさん、それ見てすっごいよろこんで、
「してやったぜ!」みたいな。
ヒグチ
何回も思い出しては、ひとりで笑ってます。
糸井
はああ。
ヒグチ
でも、あんなに愛していたんだなあと思って。
タラ夫のこと。本当に、いい人たちなんです。
津田
わたしは、この構想を思いついたときの、
ヒグチさんの、あの笑顔を、思い出しますね。
糸井
ちょっと方向性はちがうんだけど、
梅佳代に感じる何かをヒグチさんにも感じる。
津田
ああー。いたずら心、ちょっとした悪意?
糸井
そう、そう。
ヒグチ
ふつうの人の日常を撮った写真家で、
あんなにも
一般の人にまで浸透していく力というか、
パワーのある作家さんって‥‥。
糸井
いないですよ。
ヒグチ
石黒家に、住みついてほしいです。
糸井
あ、それはいい(笑)。
ヒグチ
上のコと下のコ、
ふたりを、梅佳代さんに撮ってほしい。
糸井
梅佳代が撮ったらおもしろいだろうな。

石黒さんご自身も
「石黒亜矢子」に扮してるようなとこ、
ありますもんね。
ヒグチ
あー、「もう一人いそう」な気がする。

今井さんともよく話すんですけど、
石黒さんという人は、
会う日によって、
ぜんぜん違う人に見えるんですよ。
糸井
そうなんだ。
ヒグチ
女王様みたいな日もあれば、
本物のヤンキーみたいな日もあって‥‥
すごい不思議、あの人。
糸井
ぼくが会ったときはスカジャン着てたよ。
ヒグチ
出会ったころは上品な姿しか知らなくて、
気づかなかったんですけど、
あるときに、待ち合わせした場所で、
ジャケットを着た
なんか「シティハンター」みたいな人が、
道端に座って携帯いじってて、
なんだこの男と思って通り過ぎたら‥‥。
糸井
それが、「石黒亜矢子」だった?
ヒグチ
そう、もう、びっくりしちゃって。

「え、今日はなんで、そんな
 冴羽リョウみたいなことになってんの」
って聞いたら、
「はあ、それ、なんのこと?」って。
糸井
おもしろいなあ。

<つづきます>

2017-04-26-WED