会いたい人に、会っちゃう人。

ヒグチ
わたし、トラと暮らしてみたい‥‥。
糸井
トラ!?
ヒグチ
‥‥というのが子どものころの夢でした。

それは「叶わぬ夢」ですけど、
ラッキーだったのは、絵が描けたことで、
つまりトラを描いたら、
もう、そいつは、わたしのものなんです。
糸井
あー。
ヒグチ
だから、ワニなんかでも、
絶対ひとつ屋根の下では暮らせないけど、
「描く」ことはできる。

さっきのソコトラ島でも、
行くことはできないかもしれないけど、
絵に描く、
それで「ひとまず満足」できるんです。
糸井
その画集、見たいな。
ヒグチ
がんばりましょうか。
糸井
昔と違って、資料になるような情報は、
ネットでもなんでも、
それなりには、手に入るわけだからさ。
ヒグチ
あとは、ただ想像してるだけのほうが、
いいこともありますよね。

あんまり夢に描きすぎて、
現実に行ってみて、
ちょっと落胆することもあると思うし。
糸井
刑務所のお雑煮、みたいなもので‥‥。

いや、お正月が近くなってくると、
中に入ってる人たち、
お雑煮だとかおしるこの話を、
毎日するようになるらしいんだよ。
ヒグチ
へえ、出るんですか。
糸井
出るみたい。いいでしょ、この話。
ヒグチ
うん、出るかなあって話してるときが、
きっといちばん、たのしいですよね。
糸井
男子高校生のスケベ話もそうだけど、
思いの強さというか、
それが「その人そのもの」だよね。

で、ヒグチさんの絵にも、
そういう「思いの強さ」を感じます。
ヒグチ
ふるさとは遠くにありて‥‥じゃないけど、
楽園ははるかかなたにあるもので、
追いついちゃったらつまらない、みたいな。

そういう気持ちは、あるかもしれない。
糸井
だってさ、作品の中に
追いつきっこないものがバンバン、さ。
ヒグチ
描きたいものがもうなくなっちゃって、
ぜんぶ描き終わっちゃった、
みたいな状況は、わたしにはないので。

横尾先生が「技術がほしい」って、
ずっとおっしゃっているということも、
だから、すごくうれしい話です。
糸井
「技術さえあれば、もっと描けるのに」
って、いつも言ってる。
ヒグチ
あれだけの技術があっても。
糸井
あらためて言うことでもないけど、
横尾さんて、おもしろい人なんですよ。

前、原美術館で展覧会をやったときに、
どれも素晴らしい作品なんだけど、
ひとつだけ、
なんだか「ダサい絵」があったんです。
ヒグチ
ダサい?
糸井
うん、なんて言ったらいいのかな‥‥
川の向こうで
焚き火してる人を描いているみたいな、
ちょっとよくわかんない
「つまんなさ」を描いてるというかな、
横尾さんの絵にしては
「めずらしいダサさ」を、感じる絵で。

で、その絵が妙に気になって、
「横尾さん、あの絵は、なんですか?」
と聞いたら、
「ただ、あったから飾ったんだ」って。
ヒグチ
へぇー‥‥。

横尾先生、すごい奥行き深いですよね。
ツイッターでフォローしてますけど。
糸井
すごいよね。
糸井
ある日、自転車で走ってたら、
カンカンカンと言いながら消防車が通って、
どこかで火事だな、と。

で、全速力で追いかけてったら
「自分の部屋のあるマンションに着いた」
みたいな話をツイートしていて、
「ボヤだった」って(笑)。
糸井
30世紀に名前の残る人だからね。
ヒグチ
残ると思います。
糸井
もう、横尾さん、ただひとりだと思う。
30世紀に名前が残る人って。

それくらい、
横尾さんってとんでもない人だと思う。
ヒグチ
なんか不思議そうな方ですよね。
宇宙人っぽい。
糸井
お会いしたことは?
ヒグチ
ないです。
糸井
ぜったい会ったほうがいいですよ。
ヒグチ
このあいだ、宇野亜喜良さんのところに
遊びに行ったとき、
「きのう横尾さんから手紙が来てさぁ」
みたいなこと言ってました。
糸井
一緒にやってましたもんね。
ヒグチ
宇野さん、その手紙、
適当なとこに「シュッ!」って挟んでたけど。
糸井
どこか確信を持ってないような感じが
混じってくるところが、おもしろいんですよ。

おっしゃってることは、もう信念だらけなのに、
「え、そんなにいいの?」とか、
「だんだんぼくもよく見えてきたな」とか、
そこは考えてなかった、みたいな。
ヒグチ
とても「偉そうじゃない」ですよね。
糸井
うん、それは、そう。
ヒグチ
その感じが作品にも、短い文章にも出てる。
糸井
ただ、「善良な人柄」ではないですよ。
ヒグチ
そこも、出てますよね(笑)。
糸井
善良ではないけど「いい」んだよなあ。
ヒグチ
「みんなオリジナリティとか言うけど、
 俺なんか
 ぜんぶ真似してるからね」みたいな。
糸井
言う言う。
ヒグチ
ああいうところ、本当に素敵だと思う。
糸井
やっぱりヒグチさん、
横尾さんに、
会っておいたほうがいいと思います。
ヒグチ
うわあー、なんか‥‥話せるかなぁ。
糸井
ある意味で、いちばん気楽な人だから、
ぜんぜん大丈夫ですよ。
ヒグチ
わたしは、昔から
「会える人とは、会える運命にある」
と思っているんです。

自分で「あれ、いいなあ」と思ってたら、
そこからオファーをいただいたり、
偶然の出会いがあったり、
こちらのグラフィック社の津田さんとも
お仕事したいなあと願ってたら、
いつのまにか
こうして、ご一緒できるようになったり。
糸井
会いたいと思う人って、
過去の人を入れたら無数にいるけど、
「いまのいまイキイキしている人」って、
折り数えたら、
そんな何人もいるわけじゃないから。
ヒグチ
ええ。
糸井
ヒグチさんなら、
「会いたい人には会っちゃう」と思うよ。

どうしたって。

<つづきます>

2017-04-25-TUE