糸井

電池が切れるまで絵を描くような、
そんな人なのに、
旦那さんがいて、息子さんがいて、
そこの関係、
ぜんぜん壊れてませんよね。

ヒグチ

やー、わかりませんけど（笑）、
ただ、主人と出会ったときにはすでに、
わたし、絵を描いていたので。

糸井

この人は、そういう人だと。

ヒグチ

息子は息子で、この姿しか見てない。

糸井

うん。

ヒグチ

さすがに赤ちゃんだったころは、
寝ているときしか描けませんでしたが、
家族は、応援してくれてますね。

とくに主人は、すごく協力的なタイプ。
「この人はこの仕事だから」って。

糸井

「描いてるわたし」を尊重してれてる。

ヒグチ

はい、息子を産むのは不安だったけど、
産んだら産んだで、
こういう親のもとに生まれちゃったね、
よそのお母さんみたいに、
料理のレパートリーがたくさんあって、
みたいなのは夢の世界でごめん、って。

糸井

すごーく、いい子に育ってるじゃない。

で、息子さんの描く絵も、いいんだよ。
後ろ姿のゴリラとか、最高。

ヒグチ

あれ、ちょっと悔しかったんです。

息子がもっとちっちゃかったとき、
幼稚園をズル休みして
「行こうぜ動物園」って行くと、
平日だから人がいなくて、
ドローイングするのに、いいんですよ。

糸井

うん。

ヒグチ

わたしが描いていると、
となりで息子もまねして何か描いてて、
のぞき込んだら、
鳥を、頭のてっぺんから
左右、逆さまに描いてたりするんです。

左利きで、絵も字も鏡文字だったので。

糸井

大好きな「水木しげる」については？

ヒグチ

あ、わたしが「与えて」ます。

このあいだ、
水木しげるさんの「ゲゲゲの人生展」に
息子を連れて行ったら、
水木先生の奥さまが、いらっしゃってて。

糸井

あ、松屋銀座の。

ヒグチ

そう、奥さまとすれちがってから、
息子に、
「いまの人、水木先生の奥さんよ」
って教えてやったら
「え、あんなおばあちゃんだったの！？」
って、ビックリしてた。

糸井

いいねえ。

ヒグチ

「あんた、前、水木先生のお葬式、
　行ったでしょ」って。

糸井

あとさ、石黒亜矢子さんが描いてる、
上のコと、下のコ。

ぼく、あのふたりもファンなんです。

ヒグチ

石黒さんとこのお子さんについては、
上と下で、
タイプの違いがおもしろいですよね。

うちの息子と石黒さんとこの上のコ、
年が近いから、気が合うみたい。

糸井

一緒にいるところを
想像するだけで、おもしろい（笑）。

ヒグチ

ふたりとも、
ふっと自分の世界に入っちゃうタイプで、
ワーワー盛り上がって遊んでても、
次の瞬間、ビー玉みたいな目をしてたり。

糸井

おさる同士みたいだね（笑）。

ヒグチ

で、石黒さんちの下のコは、
上のふたりの間に、割って入りたくて。

糸井

ニットデザイナーの三國万里子さんと、
料理家のなかしましほさんも、
話を聞いてると、おもしろいんだよ。

ちっちゃいころは、
棒きれ持って、走りまわってたみたい。

ヒグチ

姉妹って、おもしろいですよね。
そう、上のコは文章がすごいんですよ。

親のほう、あんまり
ピンと来てない感じもするんですけど、
もうね、くらーい詩なんです。

糸井

へえ。

ヒグチ

将来、詩集かなんかを出すときには、
ぜひ、わたしに挿絵を描かせて、
というくらい、
暗くて、いい感じの詩を書くんです。

で、下のコは、とにかく絵がうまい。

糸井

なにしろ、両親が
「伊藤潤二」と「石黒亜矢子」だし。

ヒグチ

将来、どうなるか、たのしみ。
ふたりとも。

糸井

絵だけじゃないけど、
独自の視点の親に育てられた子どもって、
それだけで宝物ですよね。

みんな親になったら、
独自の視点を、否定するじゃないですか。

ヒグチ

まあ、そうですよね。

糸井

それじゃ子どもがつまんなくなると思う。
ヒグチさんとこも、ねえ、おもしろいよ。

ヒグチ

そうですかね‥‥まあ、
うちの子、お遊戯が大嫌いだったんですけど、
幼稚園の先生に呼び出されて、
うちの子だけ踊らないから説得してくれって。

「踊らないと、
　お母さんが運動会に来たときに悲しむから、
　って、やんわり伝えてるんですけど」
って先生が言うので、別に悲しくはないので、
「悲しみませんけど」って言ったら、
「えええ、それじゃ困りますよ、お母さん！」
と言われたりとかは、しますけども。

糸井

うん（笑）。

ヒグチ

あとで息子に
「あんた、なんで踊らないの」って聞いたら、
それ自体、
言いたくなさそうだったんだけど、
「怒んないから言ってごらんよ」と言っても、
「踊りたくない」一辺倒で。

糸井

「それ自体、言いたくない」って表現は、
「子ども」というものに、ぴったりだな。

ヒグチ

その話題すらしたくない‥‥という感じ。

なので「いいんじゃないの、じゃあ」って。
ただ、みんなしゃがんでるのに
一人だけ突っ立ってたら、すごい目立つから
「しゃがむのだけは、しゃがめば？」
と言ったら、しゃがんではいました（笑）。

糸井

いい。

ヒグチ

結局、幼稚園の３年間、
いっさい踊りませんでしたね、うちの息子。

＜つづきます＞

2017-04-23-SUN