クロマニヨンは、いい男。

糸井
ぼくの家に、
あるおじいさんの話が伝わっていて、
けっこう好きな話なんだけど、
「タンスの引き出しに、
 まんじゅう隠してた」っていう。
ヒグチ
へえ。
糸井
ぼく自身は会ったことないんだけど、
とにかく甘いものが好きなんだ、と。

悪い人じゃなかったらしいんだけど、
語り草になっている
その「甘いものを隠してた」って気持ち、
ぼく、ちょっと、わかるんです。
ヒグチ
そうなんですか(笑)。
糸井
誰かにプレゼントしたいってもの以外で、
「タンスに隠しときたい」というものが、
ちいさい領域であって、
たとえば、そういう「甘いもの」とかね。
ヒグチ
ああ、なるほど。

いいアンモナイトが手に入ったときとか、
息子も好きだから
「アンモナイトは、オレのものー!」
と思ってるところに、
「いえ、これはお母さんのものです」と。
糸井
いいねぇ(笑)。
ヒグチ
その瞬間の、あの息子の、愕然とした顔。

「え?」と一瞬なって、
「大人のくせに!」みたいな(笑)。
糸井
でも、それは「仕事」だからなあ(笑)。
ヒグチ
そうそう、そうなんです。

「お母さん、こういうアンモナイトを
 自分で買えるように、
 毎日がんばって、お仕事してるのよ」
って説明して、
「ホラ、お母さんの仕事、見てごらん、
 こんなのばっかりでできてるでしょ」
と言ったら、
息子はしぶしぶ納得してました。
糸井
うん、そのレベルには、
なかなか行けないと思うけど(笑)。
ヒグチ
「アンモナイトがほしくば、
 おまえも、母のようになればよい」
という感じです、うちでは。

ただ、すでに
石ころとかすっごい集めてくるので、
もう、そっくりなんですが。
糸井
何なんでしょうね、その「熱」って。

ご先祖さまに遡って、
そういう人が、いたんでしょうかね。
ヒグチ
そうかも。
糸井
昔、アンモナイトだったんじゃない?
ヒグチ
わたしが?
糸井
うん。
ヒグチ
わたしは輪廻とかそういうロマンは、
信じてはいないんです。
糸井
じゃ、死んだら終わり?
ヒグチ
はい、死んだら終わりって思ってます。

ただ「死んだら、おばけになりたいな」
という夢はずっと持ってます。
糸井
おばけ。
ヒグチ
おばけになれるのなら、
そのことが、死ぬときのたのしみです。

「おばけになれるなら、いいなぁ」
「なれますように」って、思ってます。
糸井
死ぬって‥‥。
ヒグチ
生命には限りがあるってことを知って、
つまり、
親もいつか死ぬんだと知った子どもは、
深く悲しむって言うじゃないですか。
糸井
うん。
ヒグチ
うちの息子も、幼稚園のときに、
ある日、突然その話をしてきたんです。

そこで
「そうだよ、
 お母さんだって、いつか死ぬんだよ」
と言ったんですよ。
糸井
そしたら?
ヒグチ
「お母さん、
 恐竜がいたころの話してくれる?
 どうだったの?」って。
糸井
それは、どういう‥‥(笑)。
ヒグチ
「恐竜には、お母さんも会ってないよ」
って言ったんだけど、今度は
「じゃ、江戸時代のときどうだった?」
って聞いてくるんです。

いつか死ぬってことは前から生きてて、
つまり、すべての時代を
見てきた人だと、思ったんでしょうね。
糸井
母は、全人類を代表してますからねえ。
息子にとっての母、というのは。
ヒグチ
ぜんぶの歴史を見てきた人、みたいな。
糸井
ラクエル・ウェルチじゃないんだから。
あ‥‥これ、わかる人いないか。

その昔『恐竜100万年』という映画で、
恐竜と半裸の女性が一緒に出てて、
その人が「ラクエル・ウェルチ」なの。
ヒグチ
はあ。
糸井
つまり『恐竜100万年』という映画は
「恐竜が見たい人」と、
「半裸の女性が見たい人」とを
どっちも取ろうみたいな、
「チョコレートがけアイスクリーム」
みたいな映画で、
たぶん、時代考証の間違いでしょうね。

マンモスだったら、あり得るんだけど。
ヒグチ
そのころ、人類はけっこう猿ですよね。
糸井
クロマニヨン、ちょいといい男だしね。
ヒグチ
ほんと?(笑)
糸井
うん、ラスコー展で見てきたんだけど、
蝋人形をつくる人がつくった
クロマニヨンだったせいか、
全体的に、
造形が、美男美女になってたんですよ。
ヒグチ
じゃ、つくる人の好みじゃないですか。
糸井
あれは、クロマニヨンを贔屓してたな。
ヒグチ
クロマニヨン贔屓(笑)。
糸井
でも、あれで、ぼくは、決めたんです。
装飾品も、あんがいちゃんとしてたし。

「クロマニヨンは、いい男」と。
ヒグチ
あはは(笑)。

<つづきます>

2017-04-21-FRI