そういう子の
役に立ちたい。
- ヨシタケ
-
ぼくは4人兄弟で、2つ上に姉がいるんですけど、
とにかく何でもできる天才だったんです。
かつ、すごく自我の強い人で。
そういう人が上にいると何をやってもかなわないし、
そこで「ぼくはね」って自己を発表する機会が
まったくなかったんです。
ぼくが何か言うと、ブワーッて場が荒れるので。
- 糸井
- 場が荒れる(笑)。
- ヨシタケ
-
その環境で育ったものですから、
物心ついたころから、ぼくの生きる目標は
「場を荒立てないこと」だったんです。
意見を言うことが、なんの得にもならなくて。
- 糸井
- そこ、損しかなかったんだ。
- ヨシタケ
-
そうなんです。
だから、自分の意見を言う必要もなくて、
言おうとも思わなかったんです。
ただ、それで育つと反抗期もなくて、
中学高校で、ものすごく困るわけです。
「ぼくの行く先は誰か決めてくれるんでしょ?
ぼくは『はい』って言えばいいんでしょ?」
そんなふうに思っていましたから。
だからそういうときに、
「もうちょっと誰かが何か言ってくれれば、
自分も気楽に悩めただろうに」
といった思いもやっぱりあって。
自分の絵本は、そういうこどもたちに
届いてればなって思うんです。
- 糸井
-
たしかにヨシタケさんの絵本は、
そういう子の役に立ってるかもね。
- ヨシタケ
-
そうだったらいいなと思ってて。
あと、ぼくがこどものころ感じてて
怖かったことに、
「どうやら大人が言ってることと現実は違うぞ」
ということがあるんですね。
だけど、いくらそう感じてても、
実際どうなのかはわからない。
けど、もしその部分をぶっちゃけた本があって、
小さい頃にそれを読めてたら、
自分が救われた部分がたぶんあったと思うんですよ。
「大人ってけっこうみんないい加減だよ」
「嘘ばっかりついてるよ」
「それは大人にも事情があるからなんだよ」
とか。
そういう大人になればわかるようなことを、
もうちょっとうまいこと言ってくれる本が
あれば助かったのになって。
- 糸井
-
少なくとも、そういうのがあれば、
ほがらかな気持ちでいられた時間は
もっと長いですよね。
- ヨシタケ
-
だと思うんです。
だからもし今後、自分にできることが
あるとすると、
そういう部分なんじゃないかと思ってるんです。
ぼくみたいな子がニヤッとして、
「なんか薄々思ってたけど、そうだよね」
とか思ってもらえるものができたらって。
- 糸井
-
そういう子って大声はあげないし、
マーケティングでは出てこないけど、
きっと、けっこういますよね。
- ヨシタケ
- だと思うんです。
- 糸井
- それ、できたらいいですね。
- ヨシタケ
-
ま、ただ、そういった未来への思いと同時に、
今は自分がやってるものが、
割とたくさんの方におもしろがって
いただいているんですけど、
同じ確率でこれから「それはわかんない」ってなる
可能性もあるわけですね。
- 糸井
- それはそうですね。
- ヨシタケ
-
だから、100人のうち100人から
「何それ?」って言われるのは
次の作品か、その次の作品か‥‥って、
いまも毎回坊主めくりしてるみたいな
ヒヤヒヤ感もあって。
- 糸井
-
でも、ヨシタケさんの引き出しはまだ
やまほどありますよね。
- ヨシタケ
-
いや、ぼくも自分の引き出しは
たくさんあると思ってたんですけど、
なんか最近、1つの引き出しに
扉をいっぱい作ってただけで、
結局なかには3つくらいしか
入ってないんじゃないかと感じたことがあって、
ゾッとしたんです。
- 糸井
-
いや、大丈夫ですよ。
同じようなタイプで赤瀬川さんがいますから。
- ヨシタケ
- 赤瀬川原平さんですか。
- 糸井
-
ええ。赤瀬川さんもたぶん、そのつど
道の石ころを拾ってきたタイプだと思うんです。
石を見て何をしてるかというと、
結局はいつも自分について書いてるんだけど。
変な景色を見れば「トマソン」だし、
老人になれば「老人力」だし。
赤瀬川さんもたぶん、
ぼくやヨシタケさんと種類は同じ。
赤瀬川さんにとっての「トマソン」のような
「これ、描くつもりなかったんだけど‥‥」
みたいな拾いものは、
これから年を取るにつれ、だんだん出てきますから、
- ヨシタケ
-
そういえば、ぼくはちっちゃい頃から
「早くおじさんになりたいな」
みたいな気持ちがあったんです。
若さをすごい持て余してて、
「若さって、めんどうだなぁ」っていう。
「何でもできるって、なんだよそれ?」っていう。
「何でもしなきゃいけないのかよ」みたいな。
- 糸井
- めんどうです、めんどうです。
- ヨシタケ
-
そしていま、自分の枯れてくる感じが
妙に心地いいというか。
「ほんとに若さはしっくりきてなかったな。
おじさんになってよかったな」というのは
すごくあるんです。
「最近なんてトイレが近いんだろう」
「またおしっこ行きたいな」みたいな部分で、
自分が失ってわかることが、
なんかたのしいなっていうか。
そのあたりは放っておいても来てくれますし。
- 糸井
- それはぜったい来ますから。
- ヨシタケ
-
そういうあたりでできそうなことには
何かあるかもしれないくて、
それはたのしみしているところがあります。
- 糸井
- きっと、ますますたのしくなりますよ。
- ヨシタケ
-
だけど、ほんとになんだかもう、
最初の絵本描かせてもらって、
賞をいただいた時点で、ぼくはもう一生分の運を
使い果たした感覚があるんです。
- 糸井
-
いやいや、そういうこと言う人の所に
運がつきまとうんですよ。
「エヘへへ」って。
- ヨシタケ
-
今日もこんな対談までさせていただいて。
たぶん来世の分まで前借して、
今ぜんぶいただいているくらいの。
いやいやきっともう自分は、
ろくなものに生まれ変われないだろうとは
思うんですけど。
- 一同
- (笑)
- 糸井
-
(笑)予言しますけどね。
これからたのしいですよ。ぜったい。
- ヨシタケ
-
ありがとうございます。
今日はお会いできて嬉しかったです。
- 糸井
-
こちらこそ。たのしかったです。
ありがとうございました。
(終わります)
2017-05-20-SAT