さぎ

【鷺】


例文 冬の真っ黒い田んぼに降り立った
真っ白いさぎの姿。
それがぼくのいちばん古い記憶である。
そこでぼくは息を止めている。
さぎはこちらをじっと見ている。
寒風が頬を刺すが、さぎの羽根は揺らがない。
硬質な朝の空気はあらゆる湿り気と無縁だ。
純白の羽毛から伸びたさぎの黒い足は驚くほど細く、
黒い地面に立っているからつなぎ目がわからない。
さぎごと田んぼから生えているようにも見える。
あたり一帯をさぎが象徴しているようにも見える。
記憶の中の視界は黒と白の二極で満ちているが、
不思議なことに、ぼくはそこに
はっきりと豊かな色彩を感じ取ることができる。
美しさというものについて考えるとき、
その古い風景が
かならずよみがえるのだとぼくが言うと、
「あなたは絵をやめるべきではない」
と白石さんは言った。

とじる