あんたん

【暗澹】


例文 納豆はこねればこねるほど美味い、
が持論である。
今日も私は、器に移した納豆に箸を垂直に立て、
これでもかとばかりに納豆を混ぜまくった。
右にかき回し、左にこねくり、上下に伸ばす。
ひいた糸が絡み合って真っ白になったころ、
もうよかろうと満足した私は器を食卓に置いた。
そしてジャーからご飯をよそおうとしていたとき、
食卓のあたりに「ニャー」という声を聞いた。
納豆の器に鼻を突っ込もうとしている。
あぶない。こらっ、ダメっ、と私は思わず叫んだ。
ミーくんはからだをビクッと震わせ、
つぎの瞬間、目の前の器を前足ではたいた。
納豆の器は見事に食卓から転げ落ち、
その動きに反応したミーくんがその後を追って
食卓から床へと飛び降りる。
器から飛び出た納豆の白い糸が絨毯に絡まる。
そこへ飛びかかるミーくん。
前足で絨毯の上の納豆をこねくりまわす。
あわてて声をあげながら走り寄ると、
納豆だらけのミーくんは猛ダッシュで逃亡。
追えば逃げる。逃げれば追う。
逃亡の軌道上にはいちいち納豆が絡まる。
カーテン、クッション、スピーカー、リモコン‥‥。
気づけば、部屋のあちこちは納豆まみれであるうえ、
私の素敵な朝食は完全に損なわれてしまった。
立ちつくし、部屋を見渡して私はつぶやく。
「‥‥あんたんたる思いだ!」

とじる