HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
 
お直しとか
 
横尾香央留
 
 第50回 《 mountain river 》

パシャッ。
しまった 目が泳いでしまった。
入り口で ポラロイドを一枚撮ってもらい
メッセージを書こうと油性ペンの用意された
ソファ席に座ったとたん 真横のスクリーンに
ふたりの生い立ちや出会い 結婚式での写真が
次々映し出され みんなはお酒を片手に
ひとつひとつに歓声を上げる。
首をひねり無理な体勢で めまぐるしく成長する
かわいい人の姿を追いながら
あたしたちはまだ 知り合って
2年も経っていないのだということに気がつく。

        *

『なにか一緒に出来たらいいですね』
そう声をかけてもらい 木の香りのする会社を
初めて訪れたあの日 彼女は
“なにかグッズでも作りましょう” と
提案するつもりだったと 後々聞いた。
それなのに ひかえめ風ながらも 図々しく
『お直しの写真と文章で連載とかどうでしょうか…』
と あたしが言い出したものだから
彼女は “おぉー” と笑いながらのけぞっていた。

週一更新? えっと…はい…全然大丈夫です…
大見得をきってしまったことで 締め切りの日に
すみません ごめんなさい 申し訳ないです
なんど あやまってきたことだろう。
そのたびに 彼女は
やさしい言葉で励ましてくれた。
そして時には あたしの性格をさっして
チクリとした言葉をイヤミなく
笑顔あふれる文章でかけてくれたりもした。

年下ながらも 彼女の言動には
仕事の話だけではなく 女性としても
学ぶべきところがたくさんある。
『女子力 とかいて ミチコ と読む』
という噂もあるくらいだ。

そんな “女子力ミチコ”の
ウエディングパーティーに招かれて
ウェルカムボードをプレゼントがわりにつくった。


彼女デザインの案内状をそのままに
針と糸 フェルトやスパンコールにビーズ…
あらゆるものを総動員して再現。
いつもキラキラしている彼女に模して
土台を銀紙にしてみたら まぶしかった。

        *

『みっちゃんのすごいところは
 絶対に人の悪口を言わないところ。
 いやー あの子は同僚としての
 ひいきめなしでみてもすごいよ。
 うん ほんとうにすごい。』

終点が近づき 空席が目立ってきた総武線。
隣の席に座る パーティーの余韻を纏った
彼女の歳の離れた同僚の言葉に
うんうんと頷いた。
顔をそちらに向けなくとも
花嫁の父のような表情も心境も
真っ黒な窓ガラスに反射し届いている。

 

 
 
2012-10-01-MON
 
 

 

〈編集者より〉

横尾香央留さんの「お直し とか」は、
連載50回をかぞえた今回でひとまずお休みとなります。
ここまでのご愛読、ありがとうございました。
横尾さんからは、
「お直しをたくわえてまた再開します」という
言葉をいただいています。
そのときを、いっしょにたのしみに待ちましょう。

よろしければ、「お直し とか」の感想をお送りください。
横尾さんに届けさせていただきます。

感想をおくる

 
 
まえへ ホームへ
つぎへ
 
写真:ホンマタカシ
デザイン:中村至男