第27回 《 記号のようなもの 》 |
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お気に入りの深緑色のコーデュロイのキュロット。
フワフワに挟まれ 細い溝に身を潜めていた米粒は
とても居心地が良さそうだった。
食べこぼしの多かった 小さい頃の小さな記憶。
ひさしぶりにコーデュロイのズボンが欲しい。
母に話すと 意外な反対を受ける。
『ヒザとかお尻とか白くなるからやめなよー』
…なるほどそれも一理ある。
白くなったらどうしよう?やっぱりヒザアテ?
絵本には貧しい人の記号のように
ヒジアテ・ヒザアテが描かれていた。
だからそれらがついたデザインの子供服を
母が選ぼうとすると
恥ずかしいから絶対にイヤだと抵抗した。
それなのに大人になったいまではなぜか
非常にいとおしい存在である。
青い花柄プリントカーディガンのヒジ部分。
つかいこんだ陶磁器の絵柄のように
もうそこに柄はなく ただ真っ白になっていた。
『あ~ぁっ』そういってわざとらしく
机にひじをつき あごをのせて
ツンと鼻を上に向けるしぐさを
教室にいた頃の さやかはよくやっていた。
母になり 頬杖をつきながら息子を
寝かしつけ こんなに擦れてしまったのだろうか。
ひとりで椅子に座れるようになった息子に
『ひびくん こぼれてるよー』
とか注意をしながら おやつを食べる
我が子の姿を得意のヒジつきポーズで
笑って眺めているのだろうか。
そこにはきっと あたしの知らないさやかの顔がある。
さやかはこの春から仕事にでるという。
慣れるまでは会社で息子のことを思い出し
ヒジをつき遠くを見つめることも多いだろう。
そんなときヒジに穴でも開いていようものなら
まさに絵本の中の同情される人になってしまう!
ともだちとしてはみすごせない!
あたしはさやかにヒジアテを編む。
ふわふわして気持ちがいいかもしれない。