横尾さんのインターネット。
横尾忠則さんが、横尾忠則さんを解説するって?

「死」の部屋、「赤」の部屋
「Y字路〜暗夜光路」の部屋
 こんなにいっぺんにいろんなことを
 思ったのは、はじめてです。


みなさん、ほぼにちわ。
とうとう明後日(27日・日曜日)までとなった
東京都現代美術館の、横尾忠則「森羅万象」展!
「ほぼ日」での、横尾さんとdarlingによる解説も
あとわずかとなってきました。
前回は、トレヴィの泉で度肝を抜かれたdarlingですが
今日は「死」の部屋で、「気になる絵」に遭遇しますよ。



横尾 糸井さん!
これ、糸井さんの好きな絵だよ。
ここに飾っておいたんだよ。

糸井 わぁ! これ、嫌いなんですよ!
嫌いで気になる(笑)。
横尾 じつは糸井さんとおんなじように言う人が
ずいぶん多いの。うん。ずいぶん多い。
糸井 イヤなんですよこの絵(笑)。
ところで、ここ、何の部屋?
あっ! 「死」ね。
横尾 うん、そうなの。
「死」の部屋。
(声をひそめるようにして)
寂しーい、冷たーい、
ひんやりした部屋でしょう?
あんまり糸井さんがこの絵を
「生気のない絵」っていうから
ここに飾っておいたんだよ。
糸井 この絵はね、横尾さんの持ってる個性や技術が
どこでどう使われてるのか、
見当もつかないんですよ。
横尾 これは、ごくアカデミックな技術を
使ってるんですよ。
糸井 ああ。だから、個性がなくって、
かんじが悪いんですかね?
横尾 うん、そうでしょうね。
「もろアカデミック」だからね。
そうね、これは
ものの30分くらいで描き上げちゃいましたよ。
そうでないとこういうのは、どうも描けないのよ。
パッパッパッパー、
シャッシャッシャッシャーとね。
糸井 シャッシャッシャッシャーと(笑)。
横尾さんの「気」が入ってないからかなぁ。
横尾 すごく感覚的に描いているんですよ。
糸井 ほかにいくらでも語ることのできる絵はあるのに、
この絵に目が行く自分がもうイヤ!
横尾 これだけたくさんの絵があるのに
この絵が気になる、って言う人は何人かいるよ。
美術館の人もそう言ってた。
糸井 なんなんでしょうか(笑)。
だって、ほかの絵はどれだって、すごい。
ふと目をやると・・・わぁー、すげえ!!

横尾 黒いのが、同級生の死んだ子たち。
ほら、これも見ないと!
花のなかにも・・・。
糸井 あー、いたいたいた。


幕の上部にも、目を凝らすとたくさんの小さな顔があります。
横尾 貼ってある顔写真はみんな、
死んだ人たちばかりなの。
さ、次の部屋、次の部屋。
糸井 赤い! うはぁ。
赤い色は、横尾さんに
ずいぶんお世話になってんですね。
あ、ほんとに「赤」って部屋なんだ。

横尾 そうなの。
「赤」の部屋。
糸井 この絵・・・。
すごいですね。



横尾さんはいつなんどきでも
誰にも負けちゃいなんだな。
ところでこの展覧会、
そうとう見ごたえがありますね。
横尾 いまごろ気づいたの??
糸井 ウソじゃなかった。はぁぁぁ。
いやこれは、お客、大変だわ!
ちょっとしたお百度参りみたいなかんじがしますね。
横尾 お百度参りだったら、
それだけ御利益がないとね。
糸井 あるんじゃないでしょうか?
こんなにいっぺんにいろんなこと、
思ったことないですから!
横尾 うーん。どうかね?
みんなそんなふうにかんじてくれるいいけど。
さあ、つぎは
前回原美術館でやった
「Y字路 暗夜光路」の部屋だよ。
これは、原美でやった展覧会そのままがここに来たの。

糸井 あんときは不気味だったのに、
いま見ると、なんだかホッとしますね。
横尾 そりゃ、「死」の部屋とか「赤」の部屋から
ここに来るとね(笑)。
糸井 ですね!
ここは、生きてるかんじがする。
横尾 この部屋はね、ぼくもいちばんホッとしますよ。
この2枚はね、
おんなじ場所を描いたの。

糸井 くらべると、けっこうちがいますね。
どうして2枚描いたんですか?
横尾 この絵を買いたいっていう人がいたの。
ぼくは、この絵は売るのが嫌だったから、
「もう1枚同じ絵を描くから、新しいほうをあげますよ」
って言ったの。
その人は、現物をほしがったんだけど、
ぼくは無理矢理に描いたわけ。
そうしたらさ、描き直した絵のほうが
できがいいわけよ。
糸井 ブッ(笑)。
横尾 技術的にもいいんだよ、そっちのほうが。それで、
「やっぱり、これを、
 あなたがいちばん欲しいって言ってたほうをあげます」
って言って、もとの絵のほうをあげたの。
糸井 買われた方は、初志貫徹できたわけですね。
「ふたたび」という題の絵のほうが、
作家蔵になってる(笑)。
でも、このふたつの絵、ところどころちがうなぁ。
どうしてでしょうか。
横尾 見本にした写真がちがうんでしょうね。
こっちはちょっとしゃがんで撮ったんだろうな。
光の散り方も違うよね。
時間が違うってことかな?
糸井 時間が違いますね。
ここの街路灯も、もうこっちでは消えてるんですよ。
横尾 あ、ちょっと待って。
木の生え方もちがう!
糸井 ああ、ちがいますね。
これは、横尾さんが勝手にそうしたの?
横尾 ちがうちがう。
この2枚の絵のここまでの間には、
10か月ぐらいのタイムラグがあると思う。
糸井 ほっほぅ。
横尾 だから、ここの花がぜんぶ枯れてしまって、
こうなったの。・・・うん、そういうことなの。
また今度撮影しにいこうかな。
なにかしらちがうものが、現われると思うからね。
あれっ?!
糸井 何ですか?!
横尾 あれぇぇ!?
ここに窓があるけど、こっちには窓がない!


窓があるのに


窓がない!
糸井 これは、時間では変わらないですよ・・・(笑)。
横尾 忘れてるだけ。単に忘れてるだけ。
それか、写真が暗くって、
なじんでしまって見えなかったのかもわかんない。
ちっちゃい写真見て描くんだから。
糸井 2枚並べてみると、いろんなことがわかりますね。
横尾 はぁぁ。
糸井 これは、どうでもいいことだと思うんですけど、
看板なんかの文字を意識しないで描くって、
けっこう難しいことですね。

横尾 ああ、字は読めるからねぇ。
読めるんだけれど、そのとおりに
書きたくないわけですよ。
糸井 意味を知ってるがゆえに、
ちがうかたちに仕立て上げちゃうっていうことは、
しょっちゅうありますよね。
横尾 意外と、美術評論家は、
そういうことは言わないですよ。
糸井 下らないからですかね(笑)?
横尾 いや、ぼく、そういうことは
すごく大事だと思う。
糸井 描く人は、そういうことを
ものすごく思ってるでしょうから。
横尾 うん、思ってる。
だって、ほかはかなりリアルに描いてるんだよ?
糸井 エロティシズムの表現でもそうだと思うんですけど、
過剰にあっさり描いてるか、
妙に印象づけて描いてるか、
そこはすごく注目すべきところなんです。
思い切り強調したらポルノグラフィーになるし。
暗黙の了解を利用したり、しなかったり。
横尾 うん、うん。
糸井 文字でもエロスでも、おんなじことですよね。
人は意味を発見するから。
横尾 そうだね。Y字っていうのは、
股広げたみたいだよね。
糸井 そう言えばそうですよね(笑)。

次回はいよいよ最終回
横尾さんの新作、
「Y字路、ふたたび」が登場です。
このY字路がどんなふうに変貌をとげるのでしょうか。
横尾さんは、「芸術と実生活のバランス」について
語ります。ご期待くださいね。

2002-10-25-FRI


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