横尾さんのインターネット。
横尾忠則さんが、横尾忠則さんを解説するって?

「楽園とユートピア」の部屋、
「ヤレ(透明)」の部屋

 いまから見ると、
 もっと飛躍してないとねぇ。


東京都現代美術館の「横尾忠則 森羅万象」、
もうご覧になりましたか?
8月10日から行なわれているこの展覧会、
たった3週間で、すでに1万2千人以上の方々が
訪れているそうです。
ほぼ日宛にも、展覧会に行ってこられたみなさんから
感想のメールをいただいていますよ。

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さっそく行ってきましたよ「森羅万象展」!!!

いやぁ〜! 具合が悪くなるくらい、すごかった!
(良い意味で、なんですが)
カッコイイです!本当。
横尾さんの存在を知っていて、本当に良かった!
同じ時間を生きているってことが嬉しく思いました。

早速、「この展覧会は見ておくべきだよ!」と
友人に勧めまくっております。
あれだけ沢山の横尾さんの作品を観ることができて
本当に嬉しかったです。ありがとうございました!
まだ始まったばかりなので、機会がありましたら、
もう一度観たいです。

(from@仙台のアンソニー)さんより

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東京都現代美術館では、横尾さんに関する
いくつかのイベントを催しています。
9月14日(土)と28日(土)には、
横尾さん主演の映画「新宿泥棒日記」
(監督は大島渚さんですよ)の上映会が
行なわれる予定です。
あわせて、横尾さんが1960年代につくった
短編アニメーション
「堅々獄夫婦庭訓(カチカチヤマメオトノスジミチ)」
(製作・演出:横尾忠則 横浜美術館所蔵)や、
「KISS KISS KISS」(製作・演出:横尾忠則)
が公開されるかも、なんです。
こちらはたいへん貴重な映像だそうなのですよ〜。
整理券制で、全席自由・入場無料。
入場時に「横尾忠則 森羅万象」展観覧チケット
もしくは半券の提示が必要です。
くわしくは、東京都現代美術館のホームページ
ごらんくださいね。

では、ほぼ日私設学芸員横尾忠則さんの
解説をお楽しみください。
今日は「楽園とユートピア」の部屋と
「ヤレ(透明)」の部屋 です。



糸井 はぁぁ。このあたりは、横尾さんがうぁーっと
気分よくなった時代なんじゃないですか?
横尾 うん。
ここは「パラダイス」のシリーズなんだよ。
糸井 当時は、「いろんなものをパラダイスにする」
っていう時代だったんですよね。
横尾 そうそう。
パラダイスと精神世界的なものが、ダブってた時代。
そういうころにつくったものばかりなんだよね。
この絵は、もともとオフセット印刷だった作品を
あとで絵画にしたもので。



1971年、「第10回現代日本美術展」のために
制作されたオフセットの作品「Wonderland」を
絵画として描き直したものです。
タイトルは、「変容の海」。
糸井 この絵画のほうは、最近描かれたんですか。
横尾 この絵を描いたのは1986年。
オフセットで刷ったのは70年代だから、
最初の作品のあと15年経ってから
絵画にしようと思ったわけよ。
糸井 このあたりのイメージって
いまの若い子たちに
そうとう影響を与えてますよね。
横尾 あ、そうかなぁ?
うーん。
糸井 コラージュの加工のしかたや考えかたが
思いっきり開放的になったでしょう。
横尾 うーん。そうだね。
でもまあ、これなんかはねぇ、
もっと飛躍しないとおもしろくないよね。
糸井 あ、いま見ると。
横尾 うん。



「Wonderland」の上からいろいろな作品を重ね、
分割し、組み替えた「W Wonderland II」。
糸井 あ、これもおんなじモチーフですね。
これって、ひとつひとつ
別々につくったんじゃないんですよね。
横尾 これは、最初はこんなにばらばらじゃなかった。
もとの絵に近い、
まとまった絵だったの。
シルクスクリーンなんだけどね。
糸井 あ、刷ってあるんだ。
横尾 うん。それをまた10年後くらいに、
順番を組み替えてみようと思ったわけ。
パズルみたいにね。
さらにその上に別のモチーフを重ねて、
しあがったのは、95年だね。
糸井 さらに、刷ったんだ。
横尾 うん。上にね。
これね、少年王者がワニを退治しているの。
糸井 ああ、よぉーく見ると。
いるわ、少年が。
横尾 あ、ワニの頭どこにいったかな。
頭がないねぇ。頭、頭。
・・・あ、これ、これ!
これだよ。
糸井

ああ、はい!

横尾 これ、ワニの頭だよね? うん、そうそう。
こういう絵は、これからまたあとで
出てくるからね。
少年とかいっぱい出てくるし、
バラバラにしたものもいっぱい出てくるし。
糸井 (ボソボソつぶやくように)
聞いてもしょうがないかと思うんだけど、
なんでこういうことをやろうと思うのかねぇ。
横尾 (聞こえなかった)
ここからはねぇ、
「ヤレ」というテーマで括ってあるんだけど。
糸井さん、「ヤレ」って知ってるでしょ?
糸井 はいっ。
印刷の「ヤレ」ですね。

「ヤレ」とは、印刷の用語で
重ね塗りのこと。
本刷りの前に、
インクをなじませるために
別の印刷物に重ね刷りをするのです。
横尾 うん。
要するに「ヤレ」っていうのはさ、
表現のためのものではなくて、
インクののりをよくするために、
古い印刷物に重ねて刷るんですよ。
いわば、世には出ない、試し刷りみたいなもんで。
その現象を、実際の表現としてやってみようとしたわけ。
糸井 この絵は実際に
サントリーの広告に使ったんですか?

横尾 ああ、これはね、ほんとに
サントリーから依頼があったの。
ビールとか、ウォッカとか
いろいろあるんだよ。
糸井 思えば「悪い印刷を使う」っていう手法は
もう「腰巻きお仙」のころからやってましたよね。
怪しい人の写真が真ん中に刷られていて。
写真や製版が「むちゃくちゃ悪い」みたいな、
ああいうざらつきのようなものに対する思いが、
横尾さんのなかにずっとあるんですね。
横尾 まぁ、そうね。
子どものころの、
印刷物に対するノスタルジーみたいなものかも
わからないね。
「版ズレ」とかさ。
ああいうのはけっこう、影響与えるんだよね。
糸井 何かをかき立てますね。
横尾 うん。それを意図的に
絵でやってみたかったのかもね。
糸井 なるほど。
横尾 セラミックの大きい作品なんかにも、
こうやって。

糸井 江戸八百八町。
これも、もともとの絵にもう一回
何かをのせているわけですよね。
横尾 バンバン組み合わせているねぇ。
糸井 ほんと、いっろんなものが組み合わさっていますね、
よく見ると!
横尾 組み合わせてるねぇ・・・。

「楽園とユートピア」の部屋は、まさに
時代そのものがパラダイスに向かっていたころに
横尾さんが制作した作品郡でした。
70年に制作された「Wonderland」が時代を経て
95年の「W Wonderland II」に
どのように変容したか・・・見ものですよ〜。
次回は「森と肉体」の部屋に続きます!

2002-09-13-FRI


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