最終回 映画観るのは、これからですよ!
淀川 「ララミー牧場」の当時、
「ローハイド」っていうドラマもあって、
そっちの方がメジャーでしたね。
糸井 そう、「ローハイド」は
脇役にクリント・イーストウッド。
淀川 クリント・イーストウッドが
かっこよかったんですよね。
糸井 女たらしな、ちょっと軽薄なお兄さんなの。
それがクリント・イーストウッド。
淀川 ハンサムでしたよね。
糸井 クリント・イーストウッドは、
そのときにはただのテレビ俳優で、
その後にただのテレビ俳優が
わざわざイタリアまで行って
安い西部劇を撮ってっていう
(マカロニウエスタンのこと)
流れがあるから、
今、ああやって
クリント・イーストウッド監督を見てると
やっぱり、ねえ、一緒に育った感さえ!
淀川 そうですよね。出世しましたよね。
糸井 人はやっぱりその、何て言うんだろうな、
バカにしちゃいけないっていうか。
淀川 そんな(笑)。
糸井 だってただの二枚目のテレビ俳優だった人が
今のクリント・イーストウッドになったと
思ったら、みんなであったかい目で
応援してあげるのが大事だと思いますよ。
淀川 マカロニウエスタンだってね、
すごく面白かったけど別に‥‥。
糸井 あれ、要するにC級映画ですよね。
ほんと。
あ、解説してますよね、
淀川先生がこのDVDの中で、
マカロニウエスタンを。
「荒野の用心棒」
マカロニウエスタンってね、
イタリアで撮った西部劇なんだけれど、
その何だろう、足りてないっていうか、
お金が少なかったから
美味しかったねみたいな感じ。
淀川 娯楽が少なかったですよね。
糸井 娯楽が豊富になったから、
じゃあ日本人は豊かっていうと、
豊かな面はもちろんあるんだと
思うんですね。
それはぼくは全然否定しないんだけど、
素朴な料理の味わえる、味わい側の豊かさ、
味わう側の豊かさみたいなものは
どんどんサービスされてって、
失われてったって思うんです。
淀川 そうですね。
糸井 うん、自分も理解しようとか、
自分も好きになろうっていって
近づくっていうのが。
たとえばちょっと分かりにくい
文章を書くと、
分かんなかったってメール貰ったりも
しちゃうんですけど、
ここ、分かりませんでしたって言われると
気持ちとして半分ぐらい、
直さなきゃなあっていう気持ちと、
直すもんかっていう気持ちと、
両方あるんです。
淀川 いや、直さない方がいいですよ。
糸井 そうなんです、そうなんです。
淀川 みんな、だって今、携帯でメール打って、
あれがすっごく易しい文章とかで
出てくるので、もうみんな、
あれが日常になっちゃってるんですね。
糸井 どうやって、お客さん自身が
自分を豊かにするために
受け取り手として成長していくかみたいな、
こういうゲームをしばらくは
するべきじゃないかな。
そのためには昔のを掘り出すのは
とてもいいと思うんです。
淀川 そうですね、やっぱり糸井さんなんかが
そういうことしてもらわないと。
糸井 そうですか(笑)
淀川 だって本、売れないんですよ。
携帯の小説なんか、
わたしは読めませんけど、
それが売れちゃったりするんですね。
糸井 あ、あのへんは、だけど、
この後もそのままいくかっていったら
無理だと思いますよ。
変わっていくんだと思うんですよね。
淀川 変わっていってほしいです。
糸井 その意味ではね、小説を、
難しい小説を読めなんて言うよりは、
この映画観ると面白いよって言う方が。
淀川 入りやすい、うん。
糸井 うん、そう思うんですね。
糸井 ところで、今、淀川さんご自身が
主にやってらっしゃるのは?
淀川 わたしはこの前、12月で
『GINZA』の編集長を辞めて、
今、『GINZA』の編集と広告関係の
アドバイザーをしたり、
ちょっと原稿を書いたり。
あとちょっとファッションブランドの
アドバイザーみたいなのやってます。
何か日常、忙しく、ちょこちょこ、
ちょこちょこやってます。
これからですよ、映画観るのは。
これから!
糸井 そうですか!
まずは、じゃDVDですね。
淀川 ええ!
糸井 やっぱり淀川長治さんという人を
ぼくは別に深く知ろうとは
してなかったんですけど、
何かその人がいたんだなっていう実感が、
今日、わきましたね。
淀川長治さんがご飯食べたり、
映画の話したり、会社に行ったり、
その姿とこの映画の世界が実は揃って
セットになっていたんだなあって。
ただの映画好きのおじさんが
どっかにいました、じゃないですもんね。
やっぱり。面白いですね。
そしての姪だっていう存在も
また不思議なものがありますね。
淀川 叔父は、人のこと、
あんまり好きじゃないんですよ。
糸井 なんとなくわかります(笑)。
淀川 けれどもわたしのことだけは
すっごく好きでいてくれたんですね、
何か、無条件に。
嫌いな人に会ったことがない、
っていうのが叔父のことばに
あるんですけれど。
糸井 あれは名ぜりふですよね。
淀川 森茉莉さんが
そんなはずはないだろうって(笑)。
糸井 嫌いな人には会わないようにしてる、
とも言えるしね。
淀川 そうです!
糸井 淀川先生‥‥(DVDのジャケットを
じっと見る)。
淀川 この写真が一番、
自分で気に入ってるんですって。
お葬式にも使ってもらいましたけど、
叔父は写真とか大好きなんですよ。
糸井 あ、そうですか!
淀川 うちに山のように写真があって。
糸井 え? スターのですか?
淀川 スターの写真もあるんですけど、
自分のです。
糸井 ご自身の!
淀川 自分が撮られることが
とても好きだったんです。
もうだーい好きなんです。写真が。
糸井 へえ(笑)!
淀川 楽しかったです、こんな話ができたの。
すごく感謝します、
ありがとうございました。
糸井 こちらこそありがとうございました。
(おわり)
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テレビ朝日の「日曜洋画劇場」放映40周年を記念して
製作・販売されたDVDです。
本編に、淀川長治さんの映画解説50本を収録。
それぞれ、番組の最初と最後に放映されたコメントが
おたのしみいただけます。
特典映像として、現存するいちばん古い録画と、
淀川さんの最後の収録となった映像を収録しています。

【タイトルライナップ】

・荒野の用心棒
・史上最大の作戦
・燃えよドラゴン
・ローマの休日
・旅情
・ダーティハリー
・サイコ
・激突!
・ミクロの決死圏
・ハリーとトント
・オリエント急行殺人事件
・暗くなるまで待って
・戦争と平和
・アラビアのロレンス
・サタデー・ナイト・フイーバー
・ベン・ハー
・2001年・宇宙の旅
・シェーン
・エデンの東
・俺たちに明日はない
・ファール・プレイ
・がんばれ!ベア−ズ
・ゲッタウェイ
・ある愛の詩
・アメリカン・グラフィティ
・天国から来たチャンピオン
・スーパーマン


・ゴッドファーザーPART II
・JAWS・ジョーズ
・戦場のメリークリスマス
・普通の人々
・タワーリング・インフェルノ
・アマデウス
・めまい
・キングコング
・プロジェクトA
・ワンス・アポン・ア・タイム・
  イン・アメリカ
・ゴーストバスターズ
・007/ネバーセイ・
  ネバーアゲイン
・スター・ウォーズ・
  ジェダイの復讐
・刑事ジョン・ブック
・ダイ・ハード
・スティング
・羊たちの沈黙
・逃亡者
・シザーハンズ
・レイダース・失われたアーク
・王子と踊子
・ターミネーター
・バック・トゥ・ザ・
  フューチャー PART2
≪映像特典≫
・大いなる西部
・ラストマン・スタンディング
 
 
最後の収録は、
淀川さんが病院からスタジオ入りして行われました。
作品は「ラストマン・スタンディング」。
さすがに声も出てらっしゃらなくて‥‥。
実は、このDVDを企画して
淀川美代子さんにお話をもちかけたとき、
美代子さんは「元気なところを集めてくださいね」
とおっしゃったんです。
それで一度持ち帰って考えたんですが、
やっぱり、なんというか、
「最後の最後」は、あるべきじゃないかと‥‥。
亡くなる数日前に、病院からスタジオ入りして収録した、
淀川さんの映画への想いを‥‥
うまく言えないんですが、残しておきたいと思ったんです。
その気持ちをおそるおそる美代子さんに伝えてみたら、
オーケーをいただけました。うれしかったです。

「日曜洋画劇場 40周年記念 淀川長治の名画解説」は、
タイトルにある通り、『日曜洋画劇場』の
40周年を記念してつくったDVDです。
身内で「40周年パーティ」なんかやらないで、
そのかわりにそのお金で淀川さんのDVDをつくって、
関係会社の人やお世話になった方々に配ろう、と。
そういう気持ちで出したDVDなんです。
そしたら思いがけず、一般の方々にも
買ってくださる人がたくさんいらして。
予定の4倍くらい販売されたでしょうか。
映画が1本も入っていないDVDなのに。
ありがたい、うれしい、と思うと同時に、
淀川さんの偉大さをあらためて感じます。
 
エアポートはいまや世界共通、まさに同じ風景、
そして旅客機に乗り込む、
客が眠ったり本を読んだり、
これも世界共通。ところが見ておりますと
靴を脱いであぐらをかいたり、
ときには前のイスの背に両足の先を上げたり、
そのような客がまったくいません。
これは当然ですが、
このごろのように外国行きが目立ちますと、
旅客機内のマナーもまた
御家族で洋画のテレビを見ながら
マナーの勉強となるものです。
たとえばタクシーの乗り方ひとつでも
教えられることがあります。
たとえば東京にいる人が
北海道や九州にいる御両親に、
さてこの映画を見てごらんと
映画館のキップを送ることは困難です。
また御両親が70歳過ぎでは映画館に出かけるのも、
ときにはつらいでしょう。
そこで、電話で明日の日曜日の夜の映画を
ぜひ見てごらんと伝えておいて、
その映画のすんだあとまた電話で
「おもしろかったですか」と聞いてみてください。
このひと言ふた言の会話が、
久しぶりの老父母との心の結びつきとなるものです。
いろんな楽しい見方ができますね。
解説者があまりつまらないことをしゃべったときには、
片足を伸ばして淀川の顔を足でたたきましょう。
解説者のネクタイを見てその好みを楽しみましょう
(あまりうれしい見方とは言えませんがね)。
 
2007-08-22-WED
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