第4回 映画を観ないと人生、損をしますよ。
淀川 わたし、『アンアン』の仕事してたとき、
すっごく忙しくて、映画観る機会が
なくなっちゃったんですけど、
そのとき叔父にいっつも言われてました。
「もっと映画観ないといけない」って。
「映画観ないと人生、損する、損する」
っていう感じで、
叔父は人格者だったとは
とても思えませんが、
やっぱり映画を観ると、
いろんな生活とかも
経験できるんじゃないか、ということを、
小さい頃からいつも言われていました。
「映画を観れば英語を覚えられる」
「映画を観れば何でも覚えられる」って。
糸井 ぼくが今、
急にそんな気持ちになってきているんです。
ぼく、映画をあんまり観ない人間でした。
普通には、観てるんですけど、
映画ファンが苦手だったんです。
つまりひけらかし合いの場面に立ち会うと、
勘弁してくれよってなっちゃって。
お前が作ったわけじゃないだろって。
若い頃ね。
淀川 分かりますよ、すごく、
糸井 で、自慢のし合いみたいなところには
あまりいたくないんで、
文学少年だの映画少年だのって
好きじゃなかったんです。
で、敬遠してたつもりなんですけど、
家のテレビが大きくなったでしょう。
で、今、急にまた観始めたんです。
そういうふうに観始めたら、何がいいって、
映画はあの、しょうがない人と、
でたらめに満ちてるんですね。
淀川 (笑)。
糸井 つまり、美代子さんも、
いろんな人に会ってると思うんですけど、
経営者の人たちの略歴のところ、
みんな、工学部なんですよ、今。
理科系の人が社長をやってる
会社ばっかりになったんですよ。
淀川 うーん!
糸井 そうするとね、理路整然としてるんですね。
人に説明できることを、
理屈に合ったようにやれる人が
上手い戦略を立てて上手くいった話が
今の世の中なんです。
するとね、そんなもんじゃないだろうって
気分があるんですね。
で、映画を観ると、もうそんな要素、
全くないですから。
特に昔の映画なんて、
それは無理だろうっていうことばっかり。
で、そっちの方に
人間全体のボディというか、
人間ってそこにあるものじゃないかなって。
淀川 本来はね。
糸井 うん。で、優等生ぶって理路整然としたり、
合理性とか整合性とかっていうのを
求めるっていうのは、
何かに都合がいいからそうするだけで、
ほんとは違うんじゃないの?
っていう気分がずーっとあったんですけど、
映画観てると、そこが癒されるんです。
淀川 やっぱりいろんな意味で
映画に癒されますね。
糸井 癒されますね。
淀川 観ないといけない、毎年、毎年、
今年こそ観るぞ、って言いながらも
観ないで‥‥。
糸井 その観ると観ないの違いは
どのくらいですか、本数で言うと?
淀川 観ないときは年に5、6本ですよね。
糸井 あ、ぼくぐらいになっちゃうわけですね。
淀川 はい。
糸井 で、家でもですか?
淀川 あ、何か、わたし、DVDって‥‥。
糸井 だめなんですか。
淀川 操作のしかたが分かんないんです。
このDVDを観るので、
ようやく覚えたんです。
糸井 よかったですね。
淀川 観るようにします。
でも何かDVDで映画観るんだったら
劇場に行きたいなっていう気持ちもあって。
糸井 上映館が思ったより
こっちの都合には
合わせてくれないんですよ。
ぼく、前橋っていうところにいたんですが、
よいしょと意気込むと100キロ離れてる
東京に映画を観に来られるんです。
で、田舎にいると、東京ってどんな映画も
全部やってると思い込んでいたんです。
淀川 (笑)。
糸井 でも実はそんなことなくって。
ネットで調べられる今と違いますから、
「あ、やってなかった!」ってことが
高校生のときにあって。
で、映画って追っかけきれるもんじゃ
ないんだなって思ったんです。
大学で東京に来たら来たで、
ゴダールの「気狂いピエロ」
何回観たか、みたいな自慢のし合いに
巻き込まれるのもいやだったし。
淀川 そう、昔は何回観たかって、
みんな、言い合っていましたね。
「ウエスト・サイド物語」
何回観たかとか。
糸井 「ウエスト・サイド物語」は、でも、
何回も観るっていう理由、分かりますね。
ちょっと踊りとか好きだったら、
どうやってるんだろうって思うだけでも
愉快です。
ぼく、最近観ましたよ。
ものすごく新鮮でした。
淀川 そうですか、また観たいですね。
糸井 あとね、色に対する感覚が、
アメリカのあの時代の
希望に満ちてるんですよね。
淀川 うん、うん。
糸井 ストリート映画の走りじゃないですか。
淀川 そうですね。
糸井 道という場所で、
どうやって若い人が育っていくかみたいな。
で、あの後にたとえばパンクの
ムーブメントだとか、
ブレイクダンスなんとかっていうのに
つながると思うんで、
いつでも体を動かすって
道から始まってるんだなとか。
淀川 でも「ウエスト・サイド物語」は暗いですね。
糸井 暗い。ほんとはそうです。
だってやっぱりお話は悲しいんですよ。
で、そこが、映像として
むやみに明るいんですよね。
多分、チームの中で
全体のバランスを取ってたんでしょうね。
ディズニーの中に「白雪姫」みたいな
暗い話がある一方で、
ミッキーマウスが飛んだり跳ねたり、
っていうのと同じように、
アメリカっていつでも闇の部分を
入れざるを得ないっていう、
面白いところがありますね。
大型テレビのおかげで、
昔の映画少年じゃない見方が
できるようになりました。
淀川 そうですね。
映画館のように画面が大きくないと
つまんないなと思ってたんですけども、
でもいいですね。
  (つづきます)
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テレビ朝日の「日曜洋画劇場」放映40周年を記念して
製作・販売されたDVDです。
本編に、淀川長治さんの映画解説50本を収録。
それぞれ、番組の最初と最後に放映されたコメントが
おたのしみいただけます。
特典映像として、現存するいちばん古い録画と、
淀川さんの最後の収録となった映像を収録しています。

【タイトルライナップ】

・荒野の用心棒
・史上最大の作戦
・燃えよドラゴン
・ローマの休日
・旅情
・ダーティハリー
・サイコ
・激突!
・ミクロの決死圏
・ハリーとトント
・オリエント急行殺人事件
・暗くなるまで待って
・戦争と平和
・アラビアのロレンス
・サタデー・ナイト・フイーバー
・ベン・ハー
・2001年・宇宙の旅
・シェーン
・エデンの東
・俺たちに明日はない
・ファール・プレイ
・がんばれ!ベア−ズ
・ゲッタウェイ
・ある愛の詩
・アメリカン・グラフィティ
・天国から来たチャンピオン
・スーパーマン


・ゴッドファーザーPART II
・JAWS・ジョーズ
・戦場のメリークリスマス
・普通の人々
・タワーリング・インフェルノ
・アマデウス
・めまい
・キングコング
・プロジェクトA
・ワンス・アポン・ア・タイム・
  イン・アメリカ
・ゴーストバスターズ
・007/ネバーセイ・
  ネバーアゲイン
・スター・ウォーズ・
  ジェダイの復讐
・刑事ジョン・ブック
・ダイ・ハード
・スティング
・羊たちの沈黙
・逃亡者
・シザーハンズ
・レイダース・失われたアーク
・王子と踊子
・ターミネーター
・バック・トゥ・ザ・
  フューチャー PART2
≪映像特典≫
・大いなる西部
・ラストマン・スタンディング
 
 
解説の収録は、2週間に2本撮るリズムでやってました。
最初の火曜日にまず2本観るんです。
そして、次の週の火曜日に1本目の前解説と後解説、
2本目の前解説と後解説を収録する。
つまり「観る火曜日」と「解説する火曜日」という感じで
毎週1回はスタッフが集まっていたわけです。
作品を2本観てから次の火曜日まで、
淀川さんは調べたり原稿を書いたりしていたんですね。
ずっと何年も、ほとんど休まずにこのリズムでした。
ただ、一度だけ収録が中止になったことがあったんです。
淀川さんはお医者さんが嫌いで、
風邪をひいたりしてもぜったい行こうとしなくて‥‥。
そんな人ですから、薬を飲むとすごく効くんですよ。
ある日、収録の前に風邪薬を飲んだら効きすぎて
ボーッとなっちゃって、しゃべれない。
収録が中止になったのは、そのときだけです。
あとは、たまに邦画の放送が入ったときですね。
淀川さんは「洋画」の解説者なのでお休みになるんです。
日本の監督の映画で淀川さんが解説したのは、
黒澤明監督の「夢」と、大島渚監督の
「戦場のメリークリスマス」だけだったと思います。
 
コマーシャル屋さんには申し訳ありませんが、
毎回おなじみのコマーシャルを
繰り返し見ているうちに、
すっかりその場面その人物の動作、
その人たちの言葉を
覚えてしまいますね。
そこで1回くらい、そのコマーシャルが出たとき
サッと音声を消して、その動作その言葉のところで
アナタ自身が
「やっぱりこのコーヒーは最高ね!」とか
「ウィスキーはキミ、これだよ、これに限るよ」とか
その音なしのシーンに合わせて声を入れてごらん。
オモシロイですぞ。
あなたもコマーシャル・タレントになれるってね。
映画館ではこれはダメですね。
映画はいろいろとあらゆる教材になります。
そしていまやテレビは
もうどなたのうちにもありますね。
そこで中学校の先生がたが来週の「日曜洋画劇場」が
何かをちょっとお調べになり、
これは勉強になると思われたとき、
クラスの生徒たちに見ておくよう申されて
月曜日の何かの時間に、昨夜の映画についての
感想教室を開きます。
生徒同士、先生と生徒で、
映画から何を感じ取ったかを
ディスカッション、
これもおもしろい勉強となりましょう。
クラス全部の生徒に映画館にみんな行ってこい、
見てこい、そうは簡単にいえませんからね。
御両親と御兄弟姉妹が「日曜洋画劇場」を見物のあと、
いつもひと言感想をもらされるクセをつけてください。
お互いのそのひと言感想がぴったり合っていたり、
まったく違っていたりして、
知性のレベルの高さあるいは知性の低さがわかり、
軽蔑し合ったり尊敬し合ったりして、家族教室的見方で
映画がいっそうおもしろくなるかと思います。
「日曜洋画劇場」はアメリカ、イギリス、フランス、
イタリア、その他各国の映画が放映されますが、
その国その国によってカラータッチが違います。
そして映画の作り方もどこか違うところがあります。
そこでこの「日曜洋画劇場」をテキストに
各国のカラータッチ、
演出タッチを楽しく見分けられると、
これがまた外国を知る感覚勉強になりますね。
 
2007-08-16-THU
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