ありがとうが爆発する夜
矢沢永吉バースデー記念
スペシャルイベントまでの日々。

第7回
矢沢永吉49歳・糸井重里50歳
ありがとうが爆発する対談



3曲目
「なにをしたいんだ? どうなりたいんだ?」
糸井: こないだエーちゃんのコンサート行ったら、
お客さんが20代だったっていうことに気づいて、
「どーやってお客さん入れかわっていったのよ?」って
ものすごいびっくりした。
まいった!
矢沢: 若い人多いだろ?
ウチって上と下、すーごいんだよ。
上は65歳くらいのおじいさんから手紙来るんだよ。
達筆な字でね。矢沢永吉殿……殿だよ。
「あるきっかけで矢沢さんのことを知って、
家内と来ました。涙が出ました」とかさ。
そうかと思うと、会場見たらわかるように
主流は20代じゃない。ワーォってやってるじゃない。
その横で、65歳がグッと観てくれてて、
「涙が止まりませんでした」って。
糸井: いっしょにいるんだよねぇ。その人たちぜんぶねぇ。
矢沢: いいことですよぉ。
糸井: それは、計算じゃできなかったでしょう?
サウンドでちょっとずつ変化させていった、
ってのは感じたけどねぇ。
矢沢: だから、おもしろいねぇ。
トレンディドラマがぼんぼん流行って、
トレンディだ、オシャレだ、なんとかだ、ってことで
メディアの力とテレビ局の力でバーッとやって
オシャレ路線ってものを創ったんだよね。
だけど、人間どこかには必ず防衛本能みたいなものが
あってね、もっと現実世界の部分で、
「なあ、おい、矢沢の唾ってのは、カッコイイよな!」
って言うやつもちゃんといたんだよね。
「ああいうものも必要なんじゃないか?」みたいな。
でも、パーセンテージで言うと、メディアとともに、
圧倒的にオシャレ路線がガーッと広がってた。
で、今こうやってバブルはじけて、
リストラだ、不景気だ、ってなんだかんだしてきて、
なんかこう、こないだまで臭い言葉だったものが、
今、臭いどころかすごく新しくなってきた。
糸井: そうなんだよねぇ。
矢沢: さっき取材受けた雑誌でも、俺言ったよ。
「根性決めてこうしなきゃいけないんじゃん!」
って言って、
「あ、根性って言うと、また臭いか?」
って言ったら、
「いや、臭くないっス!
矢沢さんの口から“根性決めて”っていう、
それ絶対書かせてください!」みたいな。
おもしろいねぇ。
「今、本当に戸惑っている男が多いんですよ。
30代とか。気力も薄いんです。
矢沢さん、どうしたらいいですか?」って。
いや、べつに僕は、
どうしたらどうなるとかはわかりません、と。
わからないけど、なんなんだろうなぁ、って。
僕は言ったのね。
やっぱり人参買いにいったら、全部まっすぐで、
日本の教育レベルは他国よりも圧倒的に高くて……、
それが不自然なんだってことを僕は感じる、って。
人参ってホントは曲がってるでしょ?
それが店先に並んでるのは、みんなまっすぐだよね。
それと同じような教育できたんだよな。戦後から。
今日、ホントによくわかったんだよ。
糸井: 工業製品つくってるのと同じなんだよね。
矢沢: そーなんだよ、だから教育レベルは
アメリカよりどこよりも日本って高い。
で、みんなだいたい高いとこで平均。
糸井: 同じようなこと考えてるよね。
矢沢: でも、これでいいとされてきたものが崩れたんだな。
なんでかって言ったら簡単だよ、
“会社が永久就職じゃなくなってきた”からだよ。
「アレ、アレ?」って戸惑いがでてきた。
なんなのかねぇ……。
で、今日受けた取材で俺が言ったことで、
「それ当たってる」って俺が思ったことがあるんだよ。
それは、教育レベルが上がって、いい高校、いい大学、
一流企業に入ることがいい人生だってやってきたのはさ、
ハンコ押してきたんだなと思ったの。

そういうことしてて、もし身体が蝕まれるときには
2とおりある、って言ったわけ。
たとえば、老化して動脈硬化とか云々かんぬんで
血が固まって血管ふさいだりして血管爆発して死んだ。
ま、そういうのもある。
歳をとるといろいろな病気を併発してくる。
でも、そのなかで最近、ストレスが
すごいウエイト占めてることがわかったんでしょ。
ストレスってのは“気”の問題だよ。
フィーリングだよね。
それ、このあいだまでわからなかったよね。
ストレスは実はあれ、気から来てるよね。
老化とともに身体がダメになっていくときに、
実は気から来てるダメージが、
もっと大きなウエイトを占めてるんじゃねぇかってことが、
わかってきたんだよ、だんだん。今頃だよ。

ダイオキシンもそうだよ。
燃やした煙のなかにとんでもないものがあるんだ、って。
ゴミは燃やせばいいと思ってたよ。
それが今問題になってる。
ちょっと待てよ、じゃあ身体がボロボロになるのは
老化してダメになるだけだとずーっと思ってたけど、
実は、そうじゃないんだと。
フィーリングってのがどれだけ大きな
ウエイトしめてるのかってことがわかってきたんだよ。
俺、今日わかったんだよ!
糸井: しゃべっててわかったんだ?
矢沢: そうだよ。「あ、なるほど」って。
だから、今なんでそういうことが
問題になってきたかって言ったら、わかる? 
受験をがんばって、いい学校と、いい就職先と、
それをやってればいいっていう……はずだったんだけど、
みんな方向がわからなくなってきた。
納得できなくなってきた。
ハッピーじゃなくなってきた。
大企業に入ったのに、ハッピーになってない、
なんで? どうしてよ?
スピリッツ、“気”の部分を置き去りにしてきたのよ。
糸井: 「なんで一生懸命やるのか」っていう理由がないままに
一生懸命やってきたんだよね。
矢沢: そうなのよ!
気の部分を考えに入れてこなかったんだよ。
本当の話、教育に取り入れないといけないんだろうな。
じゃあ“気”の部分とはなにか?
どういうことかって言ったら、
「なにをしたいんだ?」とか、
「どうなりたいんだ?」ってことだよ。

昔の小学生のガキに会って、
「キミ、なにになりたいんだ?」って訊いたときの、
「王さんになりたい!」、「長嶋になりたい!」
的な気持ちをもういちどさ……。
高度成長の頃かな、
「今の小学生にインタビューすると
“大蔵省に入りたい”と言うんです」ってことで、
それを嘆いたって話を聞いたんだけど、
俺に言わせりゃ、社会がそうさせたんだよ。
その過ちが今出てきてるんですよ。
(つづく)

1999-08-11-WED

YAZAWA
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