ヤオモテ、OK  矢沢永吉の新しい『ROCK'N'ROLL』

第11回 オレがいない世界。

矢沢 死んじゃったら、っていう話で、
思い出したからついでに訊くけどさ。
死んだら‥‥霊魂っていうか、
魂みたいなもんは、残るのかね?
糸井 いろいろ考えてるね、やっぱり(笑)。
矢沢 オレはね、まぁ、ないと思うんだ。
だって、焼いちゃったら、灰だしね。
だから、死んだあとになにかが残るっていうのは、
生きてる人たちが考えた
理屈なんじゃないかって思うんだよね。
糸井 それについては、オレも考えたことがある。
矢沢 ほう。
糸井 ここに、なにか、出っ張ったものがあるとしてさ、
そこに粘土をぎゅうぎゅう押しつけると、
「型」ができるでしょ?
その出っ張ったものの「型」がさ。
矢沢 うん。
糸井 「出っ張ったもの」が自分だとすると、
その、粘土のほうにできた「型」が、
他人だったり、社会だったりするんだ。
つまり、自分というのは、
どっち側にも存在するといえる。
矢沢 ああ、うん。
糸井 自分が生きてるあいだは、そのふたつが、
ピタっとはまって生きてるわけ。
矢沢 はぁ、はぁ。
糸井 つまり、世界は、永ちゃんと、
永ちゃんを除くもので、できている。
生きているあいだは、永ちゃんの型に
永ちゃんがピタッと入ってるわけ。
で、もしも、永ちゃんがいなくなっても、
その、型のほうに、隙間が残るんだよ。
その隙間があるかぎり、永ちゃんはいるんだよ。
矢沢 だから、あるってこと?
糸井 ないんだけど、あるんだよ。
他人のなかに。
矢沢 つまり、生きてる人たちの気持ちに?
糸井 そうそうそう。
型の側の人たちが「いる」と思ってれば。
矢沢 それは、オレも思うんだよ。
だから、ほんとうはどうなんだ?
って言ったら、ほんとうはいないと思う。
糸井 うん。でも、ほんとうに
肉体があるかないか、ということ以上に、
永ちゃんがいなくなっても、
みんながいると思ってるとしたら、
それは、オレ、いるんだと思うね。
矢沢 なるほどね。
わかるわかる。そりゃわかるわ。
その話は、いいね。
そう、そうなんだよ。
「いる」と思ったら、「ある」んだよ。
糸井 あるんだよ。
矢沢 そうなんだよね。
糸井 だから、型の側っていうのが、
「絶対にいることにしよう」って思ったら、
100年でも、あると思うよ。
たとえば、シェイクスピアだとか、
ジョン・レノンだとかって、いまもいるよね。
矢沢 なるほどね。それはおもしろいね。
最初にオレが言った
霊魂の話とはちょっと違うけど、
でも、糸井が言ってることは、
なんとなくわかるよ。
糸井 まぁ、ほんとの霊魂のことはね、
オレにはわからない。
だけど、「型」のほうはわかる。
矢沢 なるほどね。
糸井 で、このことがわかった
きっかけっていうのがあってね、
これはもう何度もしゃべってる話なんだけど、
ある日、夜遅く、仕事終わって寝るときにね。
矢沢 うん。
糸井 寝室のドアを開けて、ベッドを見た。
ふたつベッドが並んでて、
カミさんがこっちに寝てて、
オレのほうのベッドが空なんだよ。
矢沢 うん。
糸井 そのときに、
「ここ、オレいないじゃん」って思ったのよ。
当たり前なんだけどね。
だって、オレがここでベッドを見てるんだから、
そのベッドにオレがいるわけがない。
でも、「オレがいない」って感じて、
その瞬間、
「あ、オレがいなくなるって、
 こういうことか」ってわかったんだ。
で、涙が出てきちゃった(笑)。
「ああ、さみしい」と思って。
矢沢 ‥‥‥‥おもしろいこと言うねぇ。
一同 (笑)
糸井 いや、ほんとに悲しかったんだ(笑)。
永ちゃん、今度やってごらんよ。
ドアあけて、自分のベッドを見て
「オレがいない」って。
矢沢 オレ、糸井重里ほど繊細じゃねぇからさぁ。
一同 (笑)
糸井 いやいや(笑)。
矢沢 オレだったら、空のベッドをぱっと見て、
「さて寝ようか」と思うよ。
糸井 いや、いつもは、そうさ。
いつもは、そうなんだけど‥‥。
矢沢 ある日、ふっと、
「オレがいない」って思ったわけ?
糸井 そう。「オレがいない」と思ったんだよ。
矢沢 「死んだあとはこういう感じか」と思ったんだ。
糸井 それがはじめて見えたんだよ。
その一回っきりで、それ以来、
その感覚は味わったことないんだけど、
オレがいない世界が、そのときはじめて見えた。
「いるはずのところにいない」という
型が見えたんだよ。
矢沢 ‥‥‥‥ぼくね、糸井は、
なんか、才能あると思うよ(小声)。
一同 (笑)
(つづきます)



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2009-08-19-WED

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN