矢野×糸井
第8回 矢野顕子の、
    おサルじゃない部分
糸井 歌を発見する力って、
アッコちゃんはものすごくあるよね。
矢野 んー、すごい、すごい努力してる。
糸井 すごい努力してるの? そこは。
矢野 そこは。そこはサルなりに。
糸井 そこは、サルじゃないくらいすごい?
矢野 ん。そこはね、人間かもよ。もしかしたら。
糸井 それは、人に言えるような何かがあるの?
こうしてんのよ、みたいな。
矢野 小田和正に
「いい曲って、どうやって見つけるわけ?」
って言われて、
糸井 うん。
矢野 わたし、よくわかんないから、
「さあね」って言った時にね、
「それはさ、その歌の中の一ついいところをね、
 見つけたらさ、それを君は
 わーっと拡大解釈して、そこをうんと広げて、
 それで歌ってるんでしょ?」
って言われて、
「その通りなんですー!」。
糸井 ああー。
矢野 くるりの「ばらの花」でもそうなんですよ。
やっぱり、ある一行が、心に、
ふわって入ってくると、
んん? 
ってそのアンテナがぐきぐきって動いて。
それで全曲聞いて、
自分にとって、口から出せない言葉は
ないかとかっていうのをチェックする。
オッケーってなったら、
今度はすぐピアノに向かって。
糸井 ああー。
矢野 歌詞を見ながら、聞き覚えたやつを
どんどんやってくんだけども、
ここに糸井重里による解析理論がありまして、
一回そこでわたしは歌を解体してるわけですよね。
だから、オリジナルのメロディとかある場合は、
歌の配列とか、そういうのも、
一旦全部、素材になって。
糸井 うんうん。
矢野 かつては立派な家だったものが、
ピアノっていう道具を使いながら、改築してくと、
また元の家と似ても似つかぬものが
できちゃったりもするんだけど。
でも、よく見ると、屋根とかは、
ちゃんと元の家のままだ、とか。
糸井 あの傷もあるよ、みたいな。
矢野 そうそうそう。入ってるし。
よく見ると、ムーンライダーズ、
入ってんじゃんって。
糸井 それは、僕らが、タレントをいいなって
思う時とかと、同じですよ。
矢野 ああ、そうなんだ。
糸井 つまり、この子、伸びるなっていう時って、
欠点もいいところもいっぱいあるじゃないですか。
その時に、こーれがいいんだよっていうのが
一個見つかったら、
その子は、それに自信を持って
走ればいいんですよ。
ここを治してとかやんないで、
俺といれば大丈夫ってすればいいわけでしょ?
矢野 それ大切。
糸井 そういうことだよね。
矢野 そういう曲はね、伸びるんです(笑)。
糸井 伸びる子(笑)。
── やればできる子(笑)。
矢野 かつては、日陰のね、CDの中の、
1曲にすぎなくて、
シングルでもなんでもない曲でも、
そういう風にしてあげれば。
糸井 そうだねえ。それは、
クラシックにも言えるんですか。
矢野 クラシックでも‥‥、うん!
もう、どんな曲でもですね。
糸井 どんな曲でもですか。
矢野 歌詞がなくてもそうだね。
糸井 そうすると、アッコちゃんの目からすると、
かつてモーツァルトが作ってたものを、
今、岡田徹が作ってるものと同じように、
ここは、いいわ! とか。
矢野 うん。ドボルジャークとか、そうですよ。
ここ、もう、ここ好き! って。
糸井 その他のところは、大体書き飛ばしだなあとか。
埋めてるなとか?
矢野 んふふふ。
糸井 作ってる人同士だったら、
正直言ってほんとは思ってますよね。
歌って、きっと、そういうものだよね。
かったるい部分を含めて歌ですよね。
矢野 うん! あの、たぶん、
商品としての歌っていうのは、
きちんとパッケージされて、
そういうのはちゃんと全部含まってるんです。
食べやすい形にちゃんとなってるんで、
みなさん食べるけど、
でも、わたしが見た時には、
うーんって素材を見て、
ここのカスタードだけこそげとってたりとか、
上にチョコレート乗っけた方がうまいからって、
勝手にチョコレートぱーっと塗って、
それで、自分で食して、いいじゃん、これ!
食べる? ってみんなに(笑)
食べさせてるようなもんですよね。
糸井 うんうん。
矢野 だから、やっぱり世界に一つしかない、
ケーキかなって。
糸井 その時に、そういうものになるんだね。
「料理の鉄人」で、
何回か審査員の席に座ったんだけど、
道場六三郎さんについてね、
あ、この人のやり方わかった! っていうのが、
途中までのことはどうでもいいの。
矢野 ふうーん。
糸井 ある程度、平均点以上を出してればいいの。
最後に、100%誰でもわかる、
小学校からわかってるような味のもので、
できたてのものを盛り付けるの。
矢野 へえーーー。
糸井 それをとりわけましょうってやると、
何にもわかんない人でも、
「おふくろの味」のところで
ぴたっときちゃうみたいな。
矢野 お上手。
糸井 これは、この人が考えたんだなっていうのが、
わかるんですよ。
で、あらゆる仕事はきっとそうなんですよね。
アッコちゃんもそうで、あの一瞬というか、
何を持って帰ってほしいか、ですよね。
それは、人間のやってることだね。
おサルのまんまじゃできないね。
おサルは捨てちゃうよね。
矢野 うん。そうだね。
糸井 その矢野顕子はおもしろいね。
もっと、働かせてみたいね。
矢野 ね?
糸井 うん。
  2006-12-05-TUE

(明日に、つづきます!)
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