やっぱり正直者で行こう! 山岸俊男先生のおもしろ社会心理学講義。

第4回 なぜ人間だけが利他的な行動をとるのか
山岸 なぜ人間だけが「利他的な行動」をとるのか。
糸井 ええ。
山岸 そうすることで「いいこと」があるからなんですが‥‥
大きく、ふたつの考えかたがあるんです。
糸井 はい。
山岸 ひとつは「集団競争」説。
糸井 ほう。
山岸 集団にとって「いいこと」と、
集団内の個人にとって「いいこと」では、
どちらが進化すると思います?
糸井 うーん‥‥個人?
山岸 そう、集団にとっての「いいこと」は
基本的に進化しないんです。

‥‥ふつうの動物の場合は。
糸井 ほう。
山岸 どうしてかっていうと、
みんなのために「いいこと」をする人が
たくさんいる集団は、
他の集団よりも有利になりますが、
その集団のなかでくらべると、
「自分勝手」な人のほうが
大きな利益をあげることができてしまう。

つまり、集団の中で「いいこと」をする人が
淘汰されてしまう可能性が出てくるからなんです。

だから、集団にとっての「いいこと」は、
進化しないんですね。
糸井 はぁー‥‥、なるほど。
山岸 ところが、人間の場合には
「集団内を平等に保つ制度」をつくってきたため、
集団にとっての「いいこと」が進化できると、
「集団競争説」をとる人たちは、主張するんです。
糸井 ええー‥‥と、わかりやすくいいますと?
山岸 たとえば、一夫一婦制です。

ボスじゃなくても、配偶者を得られる仕組みを
つくり出してきた。
そうすることで
集団内での「淘汰圧」を低くしているんです。
糸井 淘汰圧が低くなるから‥‥つまり?
山岸 集団にとって「いいこと」をする人たちが、
集団のなかで淘汰されなくなる。

そうすると
「いいこと」をする人たちのいる集団が
他の集団を淘汰して、
結局は、
みんなのために「いいこと」をする性質が進化する、
というわけです。
糸井 じゃっかんややこしいですが‥‥わかります。
山岸 こうして人間は、他の動物とは異なり、
「集団全体の利益に資するような性質」を
進化させてきた可能性がある‥‥というわけでして。
糸井 ようするに人間は、集団の利益が上がるという
「いいこと」のために、
利他的な行動をとることができるんだ‥‥と?
山岸 そう。
糸井 ははぁ‥‥。
山岸 で、もうひとつが、
いわば
「情けはひとのためならず」説です。

ようするに、利他的な行動が
評判となり周囲に伝わっていくことで、
結局、その人自身の益となる。

それゆえに、利他的に行動することが
身についてきたんだ、という理論。
糸井 なるほど。
山岸 コンピュータによるシミュレーションでも
このモデルに沿う結果が出ていますし、
生物学、人類学、経済学‥‥など
さまざまな分野で、語られ始めてるんです。
糸井 先生は、どちらかというと
よりこっちに近い考えかたですよね。
山岸 そうですね。
糸井 『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』でも
このことについて、書かれてましたし。
山岸 繰り返しますけれど
こうした「情けはひとのためならず」という仕組みは、
人間にきわめて特殊なもの。
糸井 うん。
山岸 何かしてやるから、返してくれ‥‥というのは
よくある話じゃないですか、人間の場合。
糸井 ええ、よくある話ですね(笑)。
山岸 でも、チンパンジーを使った実験では、
こういうことは、絶対に起こらないんです。
糸井 なるほど。
山岸 利他的な行動をとること自体には
そこまで高度な知能を必要としないにも
かかわらず‥‥ね。
糸井 その‥‥人間とチンパンジーとの断裂って、
いったい、なんなんでしょうか?
山岸 おもしろいですよね、そのあたりは。

チンパンジーの研究者のなかには
「チンパンジーは人間だ」と
言ってる人もいるくらいですから。

チンパンジーを1匹2匹と数えるな、と。
ひとりふたりと数えなさい、と(笑)。
糸井 そうですか(笑)。
山岸 それくらい、
進化の面から見ると、すごく近いです。
糸井 ほとんど同じといってもいいくらい?
山岸 ええ、でも、やはり、大きな隔たりは、
利他的な行動をとれるかどうか‥‥
言い換えると、
たがいに協力できるかどうか。

これです。今までお話してきたように。
糸井 人間は、協力する‥‥なるほど。

でも、動物が集団で狩りをするときに
ちからを合わせたりするように見えますけど、
あれって、協力とは言わないんですか。
山岸 専門的には「コーディネーション」と言って。
糸井 協力とは違うんだ?
山岸 たとえば、対面通行の道を歩いていて、
互いに右側通行をすれば、
みんな歩きやすくなるじゃないですか。

これが、コーディネーション。
調整がとれているという意味。

それに対して、「協力」という行為は、
自分自身にコストをかけて、
相手に何か「いいこと」をしてやるってこと。
糸井 つまり、自己犠牲をともなうわけですね。
山岸 そうなんです。それが人間特有の「協力」。

それと、もうひとつ。

まわりのみんなが
赤信号ならば停車するだろうと思うから、
交通ルールは
信頼して守ることができるわけですよね。
糸井 ええ、はい。
山岸 赤信号、自分はGOだと思ってる。

‥‥なんて人がいたら、
安心して、道を歩けないでしょう。
糸井 はい、たしかに。
山岸 そういう共通のシグナルを前提として
暮らしていることも、
すごく、人間に特有な事象なんですよ。
糸井 なるほど‥‥だから
「みんながモラルさえ守れば」って考えも
まかりとおっちゃったりするんだ。
山岸 これ‥‥ぼくの表現なので
ちょっと極端かもしれないんですけど、
「それぞれの個人に直接はたらきかけて、
 その人の行動に影響を与えるもの」

それが「モラル」なんです。
糸井 うん、うん。なるほど。
山岸 これにたいして、共通の「シグナル」とは
他の人がそうするなら
同じようにしたほうがいいだろうってこと。

そっちのほうがトクだという自己判断。
糸井 つまり、強制しなくてもいいんだ。
山岸 そう、みんなが右を歩いているなら、
自分も右を歩いていたほうが
なにかと安心だろうということなので、
強制する必要はないんです。
糸井 そういう行動規範も、動物の世界にはない、と。
山岸 ええ、ないんですね。

<つづきます>
2009-01-15-THU




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