第1回 毛の生えた場所。

糸井 うらやましいなぁ。
この広さだったら、食事は何人かわからないけど、
ただ人を入れるだけだったら300人いけますよ。
宮坂 そうですね。
糸井 こういうスペースを作るときには
目的があって、
「これがどういうふうにいいのか」ということを
説明しなきゃならないでしょう。
人と会うことが大事だとか、
いろんなことを理由に挙げることになるけど、
ほんとうは何も言わないほうが
いいような気がするんですよね。

ただ作っちゃった、というのがほんとうはいい。
「ただそれだけ?」
「社員食堂なだけ?」
ということなら、逆にみんなは
「それでいいんだろうか」と言って、
何かをやり出すんだよね。
「密接にコミュニケーションできる場として
 活用したい」
なんて言うと、活用を強いられる気がするし。
宮坂 そうなんですよ。
稼働率とか、気にしたり。
糸井 以前、友人が
自分の会社にぼくを呼んでくれて、
社員のみんなに感想文を書かせて
集めてくれたことがありました。
すごくありがたい経験でした。
でも、逆にその友だちを「ほぼ日」に呼んだときには、
ぼくは社員に感想文は書かせませんでした。
だって、めんどうでしょ?
あとで感想書かされると思って話を聞くのもいやです。

「脱目的」という部分があっても、
目的は達成できるような気がするんです。
目的がないと、外の人にも説明できないし
カッコつかないですが、そこのところは
「目的なんてよそうよ」と言ったほうがいいです。
裏に置いとくのはいいのかもしれないですけど。
宮坂 あえて出さないんですね。
糸井 うん。社員のみんなには
ただ「ここを使ってくれ」と言ったほうが
いいような気がします。
社員研修旅行だって、
「研修」成分をわざと入れるけど
あれも、ないほうがいいですよね。
そうすると、自然に研修したくなるものです。
ぼくは年寄りだから、つい
こういうことを言いたくなると思うんだけど‥‥。
あとは、あれですね、
ぼくはここに、ランドマーク的なものをひとつ
置いたらいいんじゃないかな、と思います。
守り神みたいな、空間をピリッとさせるもの。
宮坂 Yahoo! JAPANができて、今年で18年かな‥‥
ネットの中では、古い会社なんです。
たいていの会社は21世紀なんですけど、
ぼくらは20世紀からやっています。
だから、そのころに使っていた何かを、
ここに置きたいな、とは思っていたんです。
しかし、ヤフーもそうですが、
残念ながらこの業界は、何にも残さないんです。
第1号のサーバとか、
最初のオフィスで使ってた椅子とかソファーとか、
捨てるんじゃなかったな(笑)。
そのへんに、創業のときに座っていた
ソファーとかあるといいなぁなんて
思ったりしていたんです。
糸井 いいですねぇ。
創業時の社員のメモでもいいんじゃない?
宮坂 まったくないですね。
糸井 それは惜しいなぁ。
探せばなんかあるんじゃないの?
宮坂 うーん‥‥見事に、ないですねぇ。
ぼくは1997年に入ったので
在籍が長いからいいんですが、
最近入った人は、
昔のことを知りたいという思いもあるようです。
ぼくが入ったときは、箱崎で
できたばかりのオフィスでした。
そこの壁を削ろうかとか、そういう話をしてました。
糸井 1997年って、ぼくがコンピュータを
はじめて買った年です。
その翌年が、「ほぼ日」のスタート。
宮坂 そうですね。
「ほぼ日」も20世紀の会社ですね。
司会の
皆川さん
盛りあがっているところにお邪魔します、
うちの社員から、質問が来ておりまして、
ここでうかがってもよろしいでしょうか。

糸井 埋蔵金は出ませんよ。
皆川 埋蔵金は出ない‥‥。
会場 (笑)
皆川 質問、読みあげさせていただきたいます。
よろしくお願いいたします。
「ジェネラリストを選ぶか、スペシャリストを選ぶか、
 よく議論される内容かとは思いますが、
 糸井さんはこれから、
 個々が社会に価値を与える人間として
 成長するためには
 どちらに重きを置くべきか、もしくは両方なのか、
 お考えをお聞かせ願いたいです」

糸井 それは、なっちゃうだけなんじゃないかな、
と思います。
結果としてスペシャリストになったり、
ジェネラリストになるだけで、
ジェネラリストになろうと思ってなる人も、
スペシャリストになろうと思ってなる人も、
いないのではないでしょうか。
「俺はいつもひとつのことになっちゃうんだよな」
という人はスペシャリストだし、
そうじゃない人はジェネラリストかもしれない。
どっちになるべきかとか、
どっちが大事かではありません。
犬は棒を投げると取りに行っちゃう、
そういうことなんじゃないのかな。
皆川 宮坂さんは、スペシャリストか
ジェネラレラリストか、どっちでしょう。
宮坂 ぼくはけっこう気が散るほうなんで、
スペシャリストになれないですね。
糸井 ぼくもおなじく、なれないですね。
でも、「飽きる」のスペシャリストって、いると思う。
それかもしれないね。
「ぼく、分散スペシャリストです。
 ものすごく飽きるんです」
と、売り込みするやつが出てきたりして。
皆川 ありがとうございます(笑)。
会場で、質問のある方がいらっしゃったら‥‥はい、
どうぞ。

男性 糸井さん、お話ありがとうございます。
ぼくはいま、新規のサービス企画の仕事をしています。
サービスを作るときに、
人にびっくりしてもらったり、
「なんだこれ?」と思ってもらえるようなサービスを
作りたいと思っています。
糸井さんが最近びっくりしたことや、
すげぇと思ったことがあれば教えてください。

糸井 しょっちゅうしてます。
びっくりの大安売りです。
ぼくはほんとうに
しょっちゅうびっくりしています。
「おお、びっくりした」って、毎日言ってます。
伝えやすいことでびっくりしてることもあるし、
無意識でびっくりしてることもあります。
食いものとかでもびっくりします。
宮坂 たとえば、何を食べたときにびっくりしました?
糸井 しょっちゅうだからな‥‥。
会場 (笑)
宮坂 思い出せないような、
小さなびっくりの積み重ねなんですね。
糸井 気が弱いんでしょうか?
たえずびっくりしてます。
皆川 逆に我々は糸井さんに
びっくりさせていただくことが多いんですが。

糸井 どちらかというと、いまのぼくは、
びっくりさせようなんて思ってもいないんです。
びっくりさせることの先に、
「びっくりさせてどうしたいんだ?」ということが
あると思うから。

相手をびっくりさせたあとに
「びっくりした?」と言うときは、うれしいですよね。
そうなると、「びっくりさせること」より
「うれしいこと」がやりたいのだと思います。
となると、うれしいことだったら
「びっくり」じゃなくてもいいんですよ。
ただ「いいね」というのでもいい。
ですから、びっくりさせることは、
ひとつの方法にしかすぎないのではないかと思います。
皆川 そろそろお時間になってきましたが、
あらためて、このBASE6について
お伺いしてもいいでしょうか。

糸井 この食堂の、山や階段を作ったのは、
作ろうと思ったのが先なのか、
「それって視点を変えるっていうことにもなるよね」
というのが先なのか、どっちなんだろう?

ぼくは、「こうしたい」というのが先で
そこから「視点が変わることにもなるよね」
という理由があとづけになったほうがいいと思う。
空間を考えるときには、
からだの直感が先になったほうが、やっぱりいいです。
夏になったら大冒険して、ここにいちど砂を入れて‥‥
宮坂 ビーチみたいに。
糸井 秋になったら、砂をどけるとか。
稼いだお金をそうやって使えばいい。
会場 (笑)
宮坂 糸井さんのおっしゃるとおり、
空間は直感であるといういこと、よくわかります。
言葉で先に説明しつくさないほうがいい。
糸井 先に頭が「やれ」というのは、
体重の比から言ったって、おかしいですよね。
首から上は、役人でしょう。からだは大衆。
大衆の動きに合わせて役人が
いい政治をしていくのです。
頭が先に考えて、
からだに「おまえらこうやれ」と言ったら、
大衆は怒りますよね。
宮坂 でも、仕事をしてると、どうしても
砂を入れることの説明は‥‥(笑)。
糸井 砂、いいですよね、寝られますし。
宮坂 「なぜ砂を入れるのか」という項目を
書類には書きたくないんですよ。
会社って、そういうもんですよね。
だけど、そういう余計なことを
すごく言われちゃうから。
糸井 なんでそうなっちゃったかね。
宮坂 砂は気持ちいいじゃないかといって
通ればいいなぁ。
俺が通すしかないんですけどね。
糸井 まず「砂を入れる」と
思いつくところがスタートだから。
宮坂 そうですね。
糸井 なければ、そのままです。
まぁ、全身からの五感をとか、
感受性がなんとかかんとかで、
あとで嘘つくしかないのかな。
宮坂 やっぱり、今日糸井さんとお話したなかで、
ぼくがいちばん印象的なのは「毛」という言葉です。
いまはもう頭の中、毛しかないぐらい
濃厚になっちゃってます。

無目的なもののよさを大事にしたいなと思います。
会社で働く場合には、
やはりその仕事の目的が決まっていることが多い。
その目的を達成するために、
マシンのようにやるわけです。
その一方で、なんかわかんないけど、
「砂、いいよね」みたいな
懐の広いところがある。
ひょっとしたらそれがこれからの
働くことのきっかけかな、なんて思いました。
糸井 その感覚は、社員の方々だけじゃなく
お客さんが喜ぶような気がします。
価値を生み出すのは、結局人しかいないから。
機械が生み出すわけでもなければ、
自然が生み出すわけでもない。
つまり、天然のダイヤモンドは
価値そのものじゃないわけで。
すべての価値は、とにかく人が生み出すのですから、
人は大事にされるべきだと思います。
それは働き方を考えるときの土台じゃないかな。

「ほぼ日」がそうしてるかどうか知りませんよ。
けっこう、蹴飛ばしたり、
タバコの灰なんかおしつけて、
「根性ねぇんだよ」とか言ってるかもしれない(笑)。
そういう嘘をつくのもね、人の価値ですからね。
どんどん嘘をついていこうと思います。
宮坂 (笑)今日は、ありがとうございました。
糸井 たのしかったです。
ありがとうございます。
(おしまい)
2014-03-28-FRI
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