(5)インターネット第一世代の研究者。

糸井
石川さんはいまは、基本的には
「予防医学」というキーワードを軸に
研究されてるんですか?
石川
世の中に出してるものは
「予防医学」というテーマのものが多いですね。
ただ、実際にやっていることは
それに限らないです。
たとえば最近は「笑いの研究」とか。
糸井
「笑いの研究」。
石川
なにかというと、日本って、
世界一の「笑い」のビッグデータがあるんですよ。
『ボケて』という
いろんなお題に対して
みんながその「ボケ」を投稿するという
スマートフォン用アプリがありまして、
それが世界一の投稿数なんです。
いまはそのデータから
「笑いの方程式」を作ろうとしています。
糸井
その方程式があると、
具体的には何ができるんでしょう?
石川
その方程式ができると、
定量的な予測ができるようになるんです。
「本来ボケは何パターンあるのか」
といったことに答えられるようになるんですね。
たとえば、もし「ボケ」というものが
全部で100パターンあるとわかったら、
あるお題に対する現状のボケが80なら、
残り20、新しいボケの可能性が
あることがわかるんですよ。
そういうことが新しいクリエイティビティに
つながるんじゃないかと思っているんです。
糸井
おもしろい。へえー。
石川
あと、変わったところでは
「和食の研究」もしています。
たとえば、お寿司のカリフォルニアロールは、
なぜ日本人に発想できなかったのかが、
ぼくはもともと疑問だったんです。
それで、どうしたら
ああいった料理が作れるのかを考えたくて、
「和食の理論」を作ろうとしているんです。
たとえば、その研究がこれなんですけど。
糸井
なんだか、すごそう(笑)。
石川
いま、ここには食べ物の名前が
ワーっと並んでいるのですが、
同じ風味化合物を共有しているもの同士に
線を引いてるんです。
糸井
線が引かれていると、相性がいい?
石川
そのとおりです。
「フードペアリング理論」というのがあって、
同じ風味化合物が入っているもの同士を
組み合わせると、
おいしいと言われてるんですね。
たとえばチョコレートとキャビアは
73種類の同じ風味化合物を共有しているんです。
だから、理論的には
そのふたつを混ぜたら美味しいはずなんです。
糸井
そんな理論があるんだ。
石川
そうなんです。
そしていま、とくに西ヨーロッパとアメリカは、
このフードペアリング理論にはまっているんです。
たとえばスターバックスでは
この理論から、いろんな商品を作ってるんですね。
糸井
もう、実用的に使われてるものなんですね。
石川
そうなんです。
ただ、このフードペアリング理論は、
西洋料理ではあてはまるのがわかってたんですが、
2011年に、アジアの食べ物には
あてはまらないことがわかるんです。
アジアの料理では、風味化合物が
共通してないものも組み合わせるんですよ。
だからぼくは、この理論を
アジアの料理まで含むものに
発展させられないかと考えているんです。
糸井
それ、ちょっとおもしろいね。
石川
はい。じつは和食って、
これまでにまったく研究されてないんです。
「そもそも和食の定義って?」から
わかってない。
戦後、いちばん研究されてきたのは
ヨーロッパの地中海食なんです。
地中海食は健康にいいという話もあって、
研究者たちが
「この食事はどのくらい地中海食的か」
について調べられる
「地中海食スコア」といったものを
作ったりもしているんです。
それ、和食でも同じように
「この料理はどれだけ和食らしいか」を示す
「和食スコア」が作れると思うんですよ。
糸井
和食も健康にいいと言われてますし。
石川
ええ、世界に広める価値があると思うんです。
さらに、そのデータベースが完成して
各国の食文化に当てはめると、
「ドイツ版のトンカツは
 どんな味になりえるか」とか
「ドイツ版とスペイン版のトンカツは
 どうおいしさが違うのか」
なども導けるはずなんです。
糸井
石川さんの研究は、
複雑なことをたくさんされていながらも、
ふつうの人が理解できるところまで
下りてくる場所があるのがおもしろいですね、
「お笑い」とか「和食」とか。
石川
そうですね。ぼく自身、
そういうことに興味があるんですよね。
糸井
いいですね。
石川
あと、ぼくはいま30台前半なんですが、
ぼくらの世代って、
インターネット第一世代の研究者なんです。
そういったことも関係しているかもしれません。
研究者をとりまく環境って、
いま、ずいぶん変わってきているんですよ。
糸井
あ、そうなんですか?
石川
それまでって、なにか知見を得ようと思うと
図書館で文献をひとつずつ
あたっていくしかなかったんです。
だからぼくらより前の先生たちは
博士論文を書くときにいちばん勉強して、
あとはその余力で残りの人生をすごす人が
多かったんです。
だけど、インターネットが出てきたら、
一気に情報を集められるようになって、
研究の進むスピードが、
ものすごく早くなりました。
しかも、自分の研究分野以外の情報も
バンバン入るようになってます
だからいまは、まったく異なる分野同士を
統合して研究する人まで現れはじめているんです。
糸井
石川さんも予防医学が専門ですけど、
「笑いの研究」をされていますし。
石川
そうなんです。
なんだか、ただおもしろいからやってる、
という感じですけど(笑)。
じつは研究者って、
専門の分野を突き詰める人たち、
というイメージが強いかもしれないですが、
もともとはみんな、いろんな分野にまたがって
研究していた人たちなんですよ。
糸井
あ、そうなんですか?
石川
大昔の研究者たちは
自分たちを「自然哲学者」と呼んで、
科学に限らず「人生ってなんだろう」とか
「人類はこれからどこに向かうべきだろう」
とかまで考えて
「知を統一」しようとしていた人たちなんです。
糸井
あ、そうか。へえー。
石川
ただ、その後、19世紀ぐらいに
「科学」という言葉が発明されて、
現代まで続く
「ある分野を極める」タイプの
専門家たちの時代になったんです。
それがいま、インターネットの登場により、
ふたたび「知を統合する」動きに
なってるんですね。
しかも、専門家の時代に知識が思いっきり
広がっていたのがすごくよくて、
1世紀半ぐらいの積み重ねを、
ぼくらの世代が、わーっといま、
統合を進めているような状態なんです。

(つづきます)

2015-08-28-FRI

石川善樹さんの本
最後のダイエット

『最後のダイエット』
石川善樹 著
マガジンハウス 1300円+税

石川善樹さんが書いた、
地に足がついたダイエットの本。
ただ痩せて終わりではなく、
「目標体重に達したあと、
 体型を維持するための
 ちいさな習慣がつくこと」
までをダイエットととらえ、
その考え方と方法を紹介しています。
派手な痩せ方のダイエット本では
ありませんが、
石川さんが数学者のかたと
長い計算式を解いて解明した
着実に体重が減る理論
(どうすればどれだけ痩せるのか)
が元になっているため、
着実に、そして健康的に
痩せる方法を知ることができます。