その3 HITOYOSHIの工場を訪ねました。

さて、HITOYOSHIでつくることになったシャツは、
ことしの大きなテーマである「ふたりで」、のシャツ。
メンズシャツの伝統的なディテールをいかしながら、
女性がオーバーサイズでも着られるシャツをつくります。

この「オーバーサイズ」ということをつきつめていくと、
ちょっとおもしろい逆転現象がありました。

「もっと大きくてもいいんじゃないのかな」

ということです。
男性のシャツを「そのまま」着ると、
女性には、袖がちょっと長く、
裾もおしりをすっぽりかくすほどたっぷりで、
肩のラインは、ちょっと落とし気味になります。

▲大きなメンズシャツを小柄な女性が着ると、肩が落ちて袖が余ります。

袖はくるくるっと巻いたり、
「おがみ」というボタンの留め方をするなどで
調整をすることができますし、
おしりがたっぷりしているのは、むしろ、うれしい。
肩のラインは、男性のように
「ぴったり」である必要はないですし、
ドロップショルダーのかわいさがあります。

▲くるくるっと巻くのは、まったく違和感なし!

▲「おがみ」ボタンの留め方。これはこれで、かっこいい。

そんななか、ミーティングのときに
女性メンバーから出たのが

「もっと大きくてもいいんじゃないのかな」

というアイデアでした。
もっと・大きく!?!?!?
超・ビッグシルエットってこと?
メンズシャツよりも大きな
レディス(女性に着てほしいメンズ仕様の)
シャツってこと?

ややこしい。ややこしいです。
それはメンズなのかレディスなのか。
いや、待てよ、そもそも「ふたりで」なのだから
そういうユニセックス仕様を突き詰めるのは、アリです。

パターンは同じで、グレーディングがちがう。

「じゃあ、パターンは同じでも、
 グレーディングを変えれば、できますね!」

HITOYOSHIの松岡さんが、
くりくりとした目をきらきらとさせながら言いました。

▲青いシャツが松岡さん。

(ヤバ‥‥意味がわからない‥‥!)

シャツ博士、と勝手にぼく(武井)が
心で呼んでいる松岡さんは、
ここでちょっと困る「ほぼ日」の
めんめんに、やさしく解説をしてくれました。

「シャツをつくるためのパーツは、
 袖とか前身ごろ、衿などなど、細かくいっぱいあって、
 それぞれを型紙に起こし、生地を切って準備します。
 それを縫い合わせると1枚のシャツができるわけです。
 そのパーツを、拡大したり縮小したりして
 組み合わせようということです」

なるほど! つまり、
大きなハムにうずらの卵のハムエッグと、
小さなハムにダチョウの卵のハムエッグみたいな、
そういうちがいですよね!

「‥‥ええと、大きくは間違っていませんが、
 みなさんに、わかりにくかと」

では、大きなお皿に小さなステーキと、
小さなお皿に大きなステーキのちがいってことですね!

「あの、食べ物で例えるのは、
 わかりにくいですね‥‥。
 こう考えたらどうでしょう?
 一枚のシャツを前に、
 ドラえもんがスモールライトで
 袖だけちっちゃくして、
 ビッグライトで身頃だけ大きくします。
 さて、できあがったシャツは‥‥?
 というようなイメージです」

あ、わかりやすいです‥‥! そういうことか。

こんなシャツになりました。

▲M、Lサイズはこのかたち。

これは、HITOYOSHIさんがつくる
スタンダードなボタンダウンの
メンズシャツをもとにして、
白いシャツミーティングのメンバーで調整をした
今回販売予定のシャツの1型です。

▲こちらがそのサンプル。

男性が着ると「しゅっとして見える」かたち。
肩の縫い目はちょうど肩の関節にくるようになっていて、
ジャケットを着たときにすこし出るよう袖が長め。
胸回りにくらべて胴回りがすこし絞ってあるのは、
昨年学んだように、男性はこのほうが
きちんとして見えるからです。
私たちのイメージとしては、男性なら、
ズボンにインすれば仕事にも着ていけるし、
日曜日は裾を出してカジュアルにも着られ、
女性がシェアしたときは、
オーバーサイズでもサマになる、
そんなスタイルを想定しました。
ユニセックス、ジェンダーレスですが、
方向としては「男性のシャツを女性が着る」
ということになります。

▲女性にはオーバーサイズなので‥‥。

▲ちょっとだけ着方をかえます。なるほど!

そして、グレーディングちがいの、こちら。

▲XS、Sサイズはこのかたち。

こちらは、胸回りのサイズは、先ほどのものと
そんなに大きなちがいはないのですが、
胴回りは絞っていません。
そして肩の縫い目は、ドロップショルダーで
上腕のあたりで袖につながって、
女性が着たときに違和感がないよう、
袖は短めに、裾は後ろを5cm長くしています。

▲あらかじめドロップ。

こちらは「女性のために考えたシャツ」。
男性が着ると、ドロップショルダーと短い袖で
うーんとカジュアルな印象になります。
(それも、じつは、かわいいのです。
 かわいいって、妙ですけど。)

各部位のサイズを比較するとこうなります(単位cm)。

◀女性向け・ゆったり▶ ◀男性向け・スッキリ▶
サイズ表記 XS S M L
衿回り 35 36 39 41
胸回り 106 110 108 114
胴回り 103 107 97 103
裾回り 102 106 104 110
肩幅 55 56 43.5 45.5
前丈 68 70 74 75
後丈 73 75 74 75
袖付回り 43 44 46 48
カフス丈 22 23 24 25
裄丈 76.5 77.5 84 86
◀男性が着ると カジュアルに▶ ◀女性が着ると かっこよく▶

ちなみに素材は、綿のツイル、
シャツのスタイルとしては、ボタンダウンです。
ボタンダウンというのは、アメリカ的な流れでいうと
ざっくりと粗く織ったオックスフォード生地が主流ですが、
今回は、女性がオーバーサイズで着たときに、
「あえてそれを選んでいる」というムードが出るように、
オックスフォード的な粗さを多少残しながらも、
やわらかく着てもらえる「ツイル」を選びました。
マイクロツイルと呼ばれる、しなやかで、
着たときに縦のドレープ感がうまれる素材。
洗濯もらくで、洗いざらしのシワを
あまり気にせずに着られる素材です。
(もちろん、パリッとアイロンをかけてもいいですよ!)
細かなところで言うと、女性が前ボタンをふたつ開けて、
「抜いて」(後ろにちょっと落とし気味にして)着るとき、
胸の見え方がきれいになるよう、
第2ボタンの位置を調整したり、
衿の大きさを「大きすぎないよう」にしたり、
そんな工夫をしています。

背中に入っているプリーツは
「インバーテッドプリーツ」と呼ばれるもので、
よくメンズシャツの背中にあるボックスプリーツを
裏返した状態のもの。
メンズシャツのディテールとしては伝統的なもので、
チャームポイントにもなり、
可動域をひろげる実用的なデザインでもあります。

▲これがインバーテッドプリーツ。今回のHITOYOSHIのボタンダウンは、すべてこれが入っています。

ちなみにSサイズを男性が着ると、こうなります。

▲Sを着てみました。袖は短く、七分袖に。肩のラインは、男性でもドロップに。身幅はちゃんとあるので、着たときの違和感はなく、「カジュアルでおしゃれなシャツ」の印象になります。これもアリ!

付け衿のピンホールシャツが、かわいい!

今回、HITOYOSHIでつくるシャツには、もう1型、
レディスサイズのみでつくるシャツがあります。
こちらはちょっと仕掛けが多彩なんです。
みんなでミーティングをしたとき、
いろいろなメンズシャツならではの
ディテールを見ながら
「こういうポイントが入ったら、
 かわいいレディスシャツができる!」
と組み合わせを考えました。

▲レディスサイズのみの展開です。

台衿にはピンホールがあいていて、
左右を金属のピンで留める仕様になっています。
(ゴールドのピンがひとつ、つきます。)
これはほんらい、ネクタイをきゅっと持ち上げて
うつくしく見せるためのものですが、
キラリとひかるピンが衿につくというのは
レディスシャツではあまりない仕様ですから、
実用ではなく「おしゃれ」としてとらえよう、
というものです。もちろんここに、
アクセサリーをつけてもかわいい。
さらにこのシャツは、衿をまるごと
取り外すことができます。
そうすると衿なしの「スタンドカラー」になります。
(ピンホールは残りますので、
 ピンのついたスタンドカラーになります)

▲これがピンホール部分。衿はまるっと取り外しが可能です。

▲衿を外すと、こう。

さらに、胸のところに「ボザム」。
正式には「スターチド・ボザム」といい、
メンズの礼装用シャツのデザインのひとつで、
胸にU字型の布を重ねて縫いつけてあるものです。
もともと燕尾服の内側に着るシャツに、
勲章をつけるためにつくられたといわれていて、
現在はドレスシャツの装飾のひとつ。

▲サンプルのボザムをもとに、「これだと胸が強調されすぎる」とか「このくらいだとかわいい!」と、女性メンバーたちがラインを決めました(黒い線が、検討のあと)。

このシャツの生地は、綿100%、
ポプリンといってたて糸の密度を高くした布を、
「イージーケア」という、
生地の風合いをいかしながら
シワになりにくい加工をしています。
(アイロンが要らないわけではなく、
 アイロンのかけやすい生地だと考えてください。)
「きれいに着る」ほうがカッコいい、
という判断で、その生地をえらびました。

(こまかい仕様などは、9/13をお待ちくださいね。
 次回はSTAMP & DIARYの
 吉川さんのインタビューです!)

2016-09-05-MON