ここまでに西本と武井が試着し、
即座に購入した白いシャツは、
ともにイタリア製。
西本はバルバ、武井はサルヴァトーレ・ピッコロ。
ともにイタリアでは有名なメーカーだそう。
もちろんミシンを使って縫われているのですが、
「肝心な部分」は、手作業なんです。
そのために、身体にフィットしながらも、
うごきやすくて、窮屈さがありません。
ぼくら、体型はまったくちがうのに
(西本=ランナー体型・手が短い、
 武井=筋トレ体型・なで肩・首が太い)、
とくべつなオーダーをしなくても、
袖詰め程度の「お直し」で、すぐに着られました。

そんななか、男子チームのさらなる2人、
廣瀬(50代)と田路(20代)が、試着をしました。
まず廣瀬。
「そんなに細かい希望はないんだよね」といいます。

廣瀬は、「ほぼ日」での職種はデザイナーですが、
もともとアーティストでもあるひと。
絵、立体造形、写真、そんな活動をしています。
見た目にもちょっとそのムードが出ていますよね。
ふつうのビジネスマンには、あんまりいないタイプかも。
こういう人も似合う「白いシャツ」ってなんだろう?
ということについて、一同、興味津々でした。
(逆に、すごくビジネスマンぽくなっちゃうとか?)

さあ、本人にとくべつな希望がないなら、
佐藤さんにお任せするしかありません。
ぼくはよこからひとことだけ口をはさみました。

「廣瀬を、うんと、かっこよくしてください!」

わかりました、おまかせください、
でももともと格好よいかたですからね、
と言いながら佐藤さんが持ってきたのは、
ふわりと、いかにも上質そうな生地のシャツでした。

「こちらは、フィナモレというブランドです。
 やはりイタリアのものです。
 先におふたりに着ていただくときの
 候補にもなっていたのですが、
 フィナモレはやや、細身なんですね。
 ですから廣瀬さんにはお似合いかと」

あ、襟はやはり「カッタウェイ」ですね。
そうして試着室から出てきた廣瀬。
うわ、やっぱり、雰囲気がまたちがう!

「襟の高さが、いいなあ」
「こんなに個性が出るもの? ふしぎ!」
「これは廣瀬さんじゃないと似合わないかも」
「アーティスト然としたような気がする!」

ふしぎだなあ。白いシャツって、
もしかしてその人の「個性」を
うんと際立たせてしまうアイテムなのかも。
比較するために、襟のかたちの違う(セミワイド)シャツも
試着してもらいました。

「あ‥‥似合うんだけど、さっきの華やかさが」
「うん。さっきのほうが、いい」
「外国に住んでいる人の雰囲気が出てた」

もちろん両方とも、似合います。似合うんですが、
やっぱりちがうのです。
たぶん、フィナモレを着たほうが、
「こんなふうになりたいな、という自分」に
近いんじゃないかな、と、
廣瀬の表情を見ていて思いました。

さて、最後に田路です。とうじ、と読みます。
今回の男子のなかではもっとも若い28歳。
経理マンで、背が高く、猫背です。
しゃんとすればかっこいいのに、と思うんだけど、
なんだかいつも背中を丸くしています。
あたらしい白いシャツは、
背筋をのばすいい機会かも知れない。

「ぼくは仕事柄、銀行の人や、
 法務系のかたがたなど、
 スーツを着られているかたと
 お目にかかる機会が多いんですね。
 だから、きちんと見える白いシャツがあると
 便利だなと重いながらも、
 動きづらいシャツは苦手なんです。
 そして、三人のようにお金をかけるつもりはないので、
 できるだけ安価におさえたいです」

うん、希望がはっきりしています。
動きやすくて値段をおさえたもの。

「こちらのラインは、
 伊勢丹のプライベートブランドなんですが、
 税抜きで8900円と1万3000円、
 2つのプライスで展開しています。
 8900円のラインでも、国内縫製で、
 コットンだけでも定番の組織はすべて網羅しています。
 ブロード、ツイル、オックス、ロイヤルオックス、
 ヘリンボーン‥‥。
 加えてリネン素材もご用意しています。
 用途やシーズンで使い分けてお選びいただけるんです。
 色も豊富に揃えています。もちろん白もあります。
 もちろん全部、マシンメイドですので、
 縫製グレードで言えば、ボレリ、フィナモレ、
 サルヴァトーレ・ピッコロには至らないですけど。
 1万3000円のものは、
 海外の優良工場で作っています。
 有名なブランドのシャツを
 つくっているような、
 世界からもその品質の高さで
 ギャランティ(保証)されている工場ですね。
 素材も、イタリアでも有名な
 トーマスメイソンをはじめ、一流のものです。
 ですからコストパフォーマンスはひじょうに高いですよ」

田路がえらんだのは、8900円のライン。
試着したすがたは、とても経理マンらしくて、
みんなが納得するものでした。
でも田路は、腕をあげてみたり、
からだをひねったりしています。
「動きやすさ」を確認して、
おずおずと佐藤さんに言いました。

「あの、もっと動きやすいシャツってないでしょうか。
 もちろんこれもすごくいいんですけれど、
 ぼく、どういうわけか、仕事中に
 袖がつるような感じになったり。
 シャツの裾がどんどん上がってきちゃうんです」

なるほど、と佐藤さん。
「ではこちらの、動体裁断のシャツを試してみませんか」

動体裁断! ハンガーにかかっているそのシャツは、
ちょっと「くしゃっ」としているというか、
ほかのシャツとはあきらかになにかがちがいました。

「パッと見、ちょっと変なデザインだと思われるでしょう。
 こちらは、スポーツウェアの感覚で
 着ていただけるシャツです。
 立体裁断よりも、
 さらに人間の動きに踏み込んで考えられています。
 たとえば、電車の中で吊り革を持って、
 30分乗っているだけでも、
 シャツはたくしあがってきますよね。
 けれどもこのシャツは大丈夫なんです。
 簡単に言うと、コートのラグランスリーブみたいな感じの
 設計になってるんです。
 前から見ると普通のセットイン・スリーブですけれど」

ええーっ。それはすごい!

「1回着ていただくと、気に入ってリピートして下さる方は
 やっぱり多いんですよ」

そうして、こちらを試着した田路。
腕をぶんぶん振りながら試着室から出てきました。

「ラクです! これすごいですね」

しかも、身頃もわりとしゅっとしていて、
ラインがきれいに出ています。
ぱりっとしているのに、動きやすいって、
そんなシャツがあるんだなあ。

「学生から社会人になった感じだよ」
「ちゃんとした感が出るねえ」
「なんか、背筋、のびてるよ!」

男子4人は、白いシャツを購入し、
それぞれが同じことを思いました。
「自分に似合う白いシャツが見つかって、よかった!」と。
4人とも、1回か2回の試着で決めてしまうという
早さでしたが、それってつまり、
「男性のシャツは、はっきり、様式とトレンドがある」
ということなのでしょう。選択肢がそんなに多くなく、
そしてその選択を伊勢丹のバイヤーさんという
一流のかたがしてくださったので、早かった。

ぼく(武井)はこれまで「デザイン」で
シャツを選んできました。
白いシャツも、白というデザインとして
買っていたのだと思います。
どちらかといえばブランド、デザイナー重視で、
彼らの表現のなかに「白」があるという感じ。
けれども今回のプロジェクトは、そこではない。
体型そして「どういう人に見られたいか」から、
いちばんシンプルに似合うものを探す作業でした。
いわば「服を着る」ということの根本にふれること。
それがわかったのが収穫でした。

そして、男子はみんな、
「そのシャツの来歴」といいますか、
どこでどんなふうにつくられて、どんな素材で、
というスペックが大好き。
この4人でシャツのことを話したら、
いつまでもそのスペックについて談義しそうです。
この男子成分は、きっと女性からは
「そういうのどうでもいいから」って
怒られちゃうところですよね、きっと。

さて、男子の買い物は済んだ‥‥と思ったところで、
とつぜん西本が言いました。

「おれ、オーダーメイドっていうものも、
 やってみようと思うんです!」

と。えっ? オーダーメイド?
そんな、とんでもないところに踏み込むの?
そこは奥深い密林のようなところじゃないの?

「だって、何が違うのか、ぼくら、
 わかってないじゃないですか。
 そこを知っておいたほうがいいと思うんですよ」

うん、たしかにそうだ。そうだけどさ。

(次回、オーダーメイド編につづきます)
2015-05-21-THU