ほぼ日刊イトイ新聞
VOW のこと。2代目総本部長・古矢徹さんと、編集担当・藪下秀樹さんに訊く。

こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
たまたまだと思うんですが、
先日、20代の若者たちと語らった際、
思った以上の若者が、
お笑い投稿コンテンツの元祖である
『VOW』を知らない様子で。
えっ、そうなの? えっ、なんで? 
えーっ、もったいない! ということで、
差し出がましいとは知りつつも、
『VOW』を紹介したいと思いました。
語り部としてご登場いただくのは、
尊敬するふたりの編集者。
『VOW』2代目総本部長・古矢徹さんと、
宝島社『VOW』担当編集・藪下秀樹さん。
文中、とくに脈略もなく、
『VOW』ネタが挟まることがあります。
あらかじめ、ご了承ください。

「VOW vs AI 最終戦争」

──
このことを知ると
驚く人もたくさんいると思うんですが、
いま『VOW』は、
おしゃれな女性ファッション誌である
『sweet』に載っています。
古矢
懐の深い雑誌ですよ、本当に。
藪下
たいへん理解のある編集長なんです。
古矢
だから『週刊宝島』が休刊になって、
どうしようってなったとき、
藪下さんが、
「たしか『sweet』の編集長が
好きらしいから、
ちょっとかけあってみますよ」と。
──
それを聞いて、2代目総本部長は?
古矢
「無理じゃねえの?」っていうか、
「怒られるんじゃねえ?」と。

宝島社『ベストオブVOW』p147より

──
でも、結果的には電撃移籍されて。
おしゃれな女性読者の反応は、どうですか。
藪下
楽しんでくれていると思います。
少なくともクレームはないです。
──
引き受けた『sweet』も素晴らしいですが、
どんな環境でもしぶとく生き延びる、
そのあたり非常に『VOW』らしいですね。
古矢
人を雑菌みたいに言わないでよ。
──
それに、昔から2代目総本部長、
うら若い女性からのネタ投稿に対しては、
すごく嬉しそうにされますしね。
古矢
え、わかるの。
藪下
わかりますよ。
──
とりわけ、若い女性が、
ちょっとエッチなネタとかを送ってくると、
筆が冴え渡りますもの。
古矢
「筆が」ってなんかいいね(笑)。

でも、わざわざ『VOW』に
投稿してくる女性って、
どれだけ奇特な美女なのか。 
もう、本人の顔が見てみたいですよね。
──
ああ、よく見ます。そのコメントも。
藪下
投稿人は顔写真を同封すること、って。
──
これは‥‥曖昧な質問になるんですが、
そうやって、
時代も、掲載媒体も変わりゆくなかで、
あらためて今、
『VOW』って何だと、思われますか?
古矢
ええー、そんなこと聞くの?
『VOW』とは何か。何なんだ一体。

じゃあ、藪下さんの奥さんにとって、
『VOW』とは何ですか。
藪下
深過ぎますよ。
古矢
何か言ってよ。
「青春時代の忘れ物です」とか。
藪下
そうですね、『VOW』の担当になったのは、
編集者になってすぐだったので、
自分の編集人生イコール『VOW』なんです。

だから、そういう意味で、
編集人生そのものって感じがします。
古矢
コメントがふつうすぎて使えないよ。
藪下
じゃあ、どうすればいいんですか。
──
そう言われましても(笑)。
古矢
でも、やっぱり、ひとつ言えるのは、
どんなにまわりが変わっても、
『VOW』自体は変わらないってことでね。
──
なるほど、さすがは2代目総本部長。
そういうまとめに持ってきたいです。
藪下
変わらないです、変わらないです。

流れ流れて『sweet』にたどりついても、
それでも変わらないのが『VOW』。
──
本当に、類まれなことですよね。

名前が変わらなくても、
中身や本質が変わっていくものって、
たくさんありますけど。
古矢
本当は変わんなきゃいけないのかも、
しれないんだけどね。

宝島社『ベストオブVOW』p27より

──
でも、永久に続いてほしいと思います。
いちファンとしては。
古矢
人間のオマヌケをベースにしてるから、
そうそう変わんないのかもね。

武者小路実篤の記念館にも、
『VOW』が収蔵されてるらしいしよ。
藪下
え、そうなんですか。
古矢
初期の『VOW』の傑作ネタで、
「武者小路実篤を
大和田獏と書いてしまいました。
お詫びして訂正いたします」
ってのがあって、それも
武者小路実篤の歴史の1ページってことで、
載っけた『VOW』が、
武者小路実篤記念館に入ったみたい。
──
さすがは武者小路、懐の深さが違う。
古矢
どうやったら間違えるんだろうね、
武者小路実篤と、大和田獏。

目元とか似てるからかなあ。
藪下
ぜんぜん似てませんよ。
──
たしか、2代目総本部長がどこかで
「人類は一生バカだから」
みたいなことを書いていたことがあって、
で、そうである限り、
『VOW』は続くのではないでしょうか。

宝島社『ベストオブVOW』p298より

古矢
うん、もう10年くらい前だけど、
あの山田五郎も、どこかに書いてたよ。

この先「AI」全盛の時代になっても、
たぶん「AI」には、
『VOW』みたいな誤植とか間違いは
マネできないだろう‥‥とね。
──
ああ、いいまとめです。
古矢
学習できたりしてね。アッサリね。
藪下
ヤだなあそれ。
古矢
「ロボットにマネされてしまったんで、
今日限り『VOW』は終了します」
──
それはそれで、末路としては、
非常に『VOW』っぽい感じがしますね。
古矢
それかさ、アレアレ、
「VOW vs AI」みたいな映画か何かさ、
そういうのできないの?

ハリウッドで、最終戦争もので、
藪下秀樹監督作品でさ。
藪下
できないですよ。
古矢
総本部長役は、キアヌ・リーブスで。
──
ああ、いいですね。
目元とか似てらっしゃる気もしますし。
藪下
うん、言われてみればね。
古矢
総本部長をバカにするのはよしなさい。
まぁ、キアヌ・リーブスって
名前出した時点で俺も終わってるけど。

で、藪下さん役は誰なの。
藪下
ハリウッド俳優で?
古矢
うん。
藪下
‥‥‥‥‥。
──
ニコラス・ケイジとか?
藪下
髪の毛だけじゃない。
古矢
とにかく「VOW vs AI 最終戦争」
って言うからには、
街のヘンな看板かなんかが、
すごいトランスフォームするとかね。

よくわかんねえなあ(笑)。
藪下
何の話をしてるんですか。
古矢
これ、載らないんじゃねぇの?
この話、ほぼ日に。
──
あはは。
古矢
否定しないのかよ(笑)。

宝島社『ベストオブVOW』p177より

 ~知ってる人も、知らない人も~ すぐに笑えて、ずっと笑える。それが『VOW』。

ゲエテ『若きウェルテルの悩み』の扉には
「親しい友を見つけられずにいるのなら
この小さな書物を心の友とするがよい」
と書かれていますよね。
もしもあなたが、運命のめぐり合わせで、
親しい友を見つけられずにいるのなら、
このおかしな書物を心の友とするがよい。
人生のくもり空が、日々のモヤモヤが、
すこーし、晴れるかもしれません。
知ってる人も、知らない人も、
すぐに笑えて、ずっと笑える。
これもまた、われら人類のりっぱな営み。
最新刊ですが、やっておられることは
ひとつも変わっていません(←とてもいい意味)。



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